石のパーゴラが設置されていたのは、大阪市此花区の夢洲にある大阪・関西万博会場内、西ゲートゾーンの「休憩所2」です。
大屋根リングの西側外周に位置し、会場内・外周バス「e Mover」のリング西ターミナル前に設けられていました。トラムの発着地点と大屋根リングをつなぐ動線にも隣接しており、単に休憩するだけの場所ではありませんでした。
TOTOの建築事例資料によると、所在地は大阪府大阪市此花区夢洲中1-1-20。2025年3月に竣工した施設です。
休憩所2は、複数の建物と屋外空間を組み合わせた施設群で、主な機能は次のとおりです。
- 来場者向けの屋内休憩所
- 案内所
- トイレ
- 応急手当所
- 警備センター
- バス停留所
- 屋外ベンチや水遊び場を備えた休憩空間
建物を一棟にまとめず、必要な機能ごとに分けて配置し、その間を石のパーゴラでつなぐ設計が採用されました。
この配置には意味があります。バスから降りた人が大屋根リングへ移動する際、自然に日陰を通り抜け、休憩や飲食もできるようにするためです。
つまり、石のパーゴラは独立した巨大オブジェではなく、施設全体の移動経路と滞在空間をまとめる役割を担っていました。
【約750個・90トンの正体】使用された4種類の石材と設計コンセプト

石のパーゴラを特徴づけているのは、瀬戸内地域から集められた花こう岩です。
設計資料や建築関連の紹介記事では、約750個、総重量約90トンの石材を使用したとされています。石の大きさや重量は一様ではなく、1個当たり約90~250kgと報じられています。
使用された石材は4種類採用された石材は、愛媛県・岡山県・香川県で産出される4種類です。
- 大島石(愛媛県):愛媛県今治市の大島を代表する花こう岩。建築や石造物に使われてきた石材。
- 万成石(岡山県):岡山市周辺で産出する花こう岩。淡い桜色の色合いが特徴。
- 庵治石(香川県):高松市庵治・牟礼地域で産出する高級石材。きめ細かな石肌で知られる。
- 小豆島石(香川県):小豆島を代表する石材。瀬戸内地域の石材文化を構成する素材の一つ。
これらの石材を単なる装飾品として並べたのではありません。石に穴を開け、ケーブルを通して連結し、頭上に連続する日よけとして利用しました。
なぜ石を吊るす必要があったのかここで重要なのが、工藤浩平氏の設計思想です。
工藤氏は、万博の開催期間である約半年間だけを建築の寿命として考えるのではなく、何万年という地球の時間軸を設計に取り込みました。
石は人間が製造した工業製品とは異なり、長い地質学的な時間を経て生まれた自然素材です。万博期間中は空中に持ち上げて人々の日陰をつくり、会期終了後は大阪湾に戻して海洋環境に役立てる。これが設計の中心的な発想でした。
また、瀬戸内の石材には歴史的な意味もあります。工藤氏は大阪城の築造にも瀬戸内の石が使われたことに着目し、約400年前の石材輸送の歴史と現代の建築をつなぐ意図も語っています。
建築を一時的に消費するのではなく、素材が次の場所で役割を持ち続けることを目指した設計です。
設計・構造・素材の関係を整理| 関係する人物・素材 | 役割・特徴 |
|---|---|
| 工藤浩平氏 | 休憩所2の意匠設計を担当 |
| 工藤浩平建築設計事務所 | 建築全体と石のパーゴラを設計 |
| 平岩構造計画 | パーゴラの構造設計を担当 |
| 大島石 | 愛媛県産の花こう岩 |
| 万成石 | 岡山県産の花こう岩 |
| 庵治石・小豆島石 | 香川県産の石材 |
| 住建トレーディング | 施工を担当 |
| 大阪・関西万博協会 | 発注者・万博事業の実施主体 |
工藤氏は1984年秋田県生まれ。東京藝術大学大学院を修了し、建築設計事務所SANAAでの勤務を経て、2017年に独立しました。2022年8月に発表された万博の若手建築家による共用施設設計者の選定で、休憩所2の担当者に選ばれています。
意匠設計と構造設計を別の専門家が担っている点も重要です。見た目の斬新さだけでなく、90トン規模の石材を支えるための構造的な検討が必要だったからです。
【仕組みを解説】石のパーゴラはどうやって90トンを支えている?
石のパーゴラを見て、多くの人が疑問に感じたのが「重い石をどうやって空中に固定しているのか」という点です。
その答えは、石材に穴を開けてケーブルを通す吊り下げ式の構造にあります。
石をケーブルで連結するサスペンション構造石材にはあらかじめ穴が設けられ、そこに鋼製のケーブルを通して連結します。多数の石が連なる姿は、建築関係者からも巨大なネックレスに例えられています。
ただし、90トンの石を細いワイヤーだけで単純に吊っているわけではありません。
構造設計を担当した平岩構造計画の解説によると、サスペンション構造の考え方を採用しながら、重量のある石を支持するため、耐力を担う部分には鋼管を取り入れています。また、柱には鉄筋コンクリート造を採用し、十分な剛性を確保する設計としました。
つまり、石を連結するケーブル、必要な支持力を受け持つ鋼管、構造を支える鉄筋コンクリートの柱を組み合わせた構成です。
なぜ石が落ちないようにできるのか構造設計では、石の重量だけを計算すればよいわけではありません。
風による揺れや地震による振動、石同士が衝突する可能性など、さまざまな条件を想定する必要があります。
そのため、ケーブルにかかる力や支持部の強度を計算し、石同士の間隔や構造全体の安定性を検討することが不可欠です。
TECTURE MAGが紹介した構造解説では、通常の軽量な屋根とは異なり、重量物を支えるための鋼管と、境界条件を受け持つ鉄筋コンクリート柱を組み合わせた点が説明されています。
この建築の面白さは、重厚な石材を使いながら、視覚的には軽やかな屋外空間をつくり出しているところにもあります。
【危険性は本当に大丈夫?】安全性の検証と世間の評判
石のパーゴラが建設中に話題になった理由の一つが、安全性への不安でした。
頭上に90トンもの石があるという構造は、一般的な屋根や日よけとは大きく異なります。万が一、石が割れたり、ケーブルが破断したりした場合の危険性を心配する声が報道で取り上げられました。
設計者が説明した安全対策2024年8月から9月にかけて、工藤氏はSNS上で安全性に関する説明を行いました。
J-CASTニュースなどの報道によると、主な検証項目は以下のとおりです。
- 建築構造設計の専門家による構造計算
- 常時荷重・風荷重・地震荷重を想定した検討
- 石材の引張強度試験
- ケーブルや関連部材の強度検証
- 原寸大のモックアップによる耐久性確認
- 石同士の衝突や揺れを想定した解析
- 民間の指定確認検査機関による確認申請の審査
また、石材の自然素材としての特性を考慮し、ケーブルの間隔なども検討されています。現地写真では、石の下側に安全ネットが設けられている様子も確認できます。
大阪府も構造安全性への適合を説明安全性をめぐる議論に対し、大阪府は府民から寄せられた意見への回答を公表しています。
石を用いたパーゴラについて、計画段階で専門家が構造計算を行い、指定確認検査機関の審査を受けたうえで、建築基準法に基づく構造安全性に適合することを確認した、という内容です。
さらに大阪府の回答では、工事完了後にも指定確認検査機関による法令適合性の審査を受け、構造安全性に適合したことが説明されています。
万博協会も、構造設計の専門家による計算と確認申請の審査に加え、石材の引張強度試験や原寸大モックアップによる確認を実施したと説明しています。
したがって、石のパーゴラは単に見た目を優先して石を吊るした建築ではなく、構造計算や試験、法令上の確認を経た工作物として設計・施工されたものです。
評判は「斬新さへの評価」と「安全性への懸念」に分かれた石のパーゴラをめぐる反応には、大きく二つの論点がありました。
一つは、天然石を空中に吊るすという大胆な発想や、自然素材を生かした景観への関心です。従来の万博施設とは異なる印象を与え、建築作品としての独自性が評価されました。
もう一つは、約90トンの石の下を来場者が歩くことに対する不安です。特に、雨を完全に防ぐ屋根ではないのに、なぜこれほど重量のある石を使用する必要があるのかという疑問も報道されました。
ここで整理しておきたいのは、構造安全性への適合と、一般の人が直感的に安心できるかどうかは別の問題だという点です。
専門家による計算や審査が行われていても、見上げたときに不安を覚える人はいます。一方、実際の空間では石の陰影や開放感を楽しめるという見方もあります。
建築の評価は、構造面の安全性だけでなく、利用者がどう感じるか、周辺の動線や休憩機能にどのような価値をもたらしたかという視点からも考える必要があります。
【2026年現在】閉幕後の石はどうなった?大阪湾への再利用構想
石のパーゴラを理解するうえで、最も重要なのが万博閉幕後の計画です。
大阪・関西万博は2025年10月13日に閉幕しました。2026年11月現在、会場は一般来場者向けの万博施設として営業していません。
では、約750個の石はどうなったのでしょうか。
大阪湾の海底に戻して魚礁として活用する構想工藤氏が当初から示していたのは、石材を大阪湾の海底へ戻し、海洋生物の生息場所として活用する計画です。
背景にあるのは、大阪湾の海底に存在する窪地の問題です。
埋め立てや開発に伴う土砂採取などによって形成された海底の窪地は、海水の流れや水質、生態系に影響を与える要因の一つとされています。
そこで、万博会場で日よけとして使用した天然石を、閉幕後には海底環境の改善に役立てようという発想が生まれました。
この構想には、江戸時代から続く魚礁造成の技法である「築磯(つきいそ)」との共通点もあります。石を海底に配置することで、魚や海洋生物が集まる場所をつくる考え方です。
設計者が目指したのは、建築資材を使い捨てにせず、人間のための空間から海の生態系を支える素材へと役割を変えることでした。
2026年に確認できる再利用の実例2026年には、休憩所2に関連する石材の再利用について、具体的な動きも公表されています。
株式会社白十字は2026年2月19日、万博の関連展示「石のパーゴラ」で使用されていた万成石のベンチを、岡山県赤磐市の白十字 山陽店に設置すると発表しました。店舗は2月21日にオープンしています。
このベンチは、万博での展示・検証に使用された後、廃棄せず、地域の人々が日常的に利用できる場所に再配置されたものです。
ただし、ここは区別が必要です。白十字に設置されたのは万成石のベンチであり、頭上に吊るされていた約750個の石材そのものがすべて移設されたという意味ではありません。
2026年に確認できる情報では、大阪湾への石材投入は引き続き再利用構想として紹介されています。石材の海底投入が完了したことを示す具体的な実施日や投入地点、数量については、公表情報から確認できません。
したがって、現段階では「海底の魚礁としてすでに活用が完了した」とするよりも、大阪湾への再利用が設計段階から掲げられてきた構想であり、別途、万成石のベンチでは2026年に再利用が実現したと整理するのが正確です。
大阪湾への再利用で今後注目したいこと石を海底に置けば、それだけで海洋環境が改善するわけではありません。
実際の環境改善効果を評価するには、投入する場所の水深や海底地形、石材の配置、潮流、底質、生物の生息状況などを総合的に考える必要があります。
加えて、投入前後の生物調査や水質調査を継続すれば、建築資材を魚礁として再利用する取り組みがどの程度効果を発揮したのか、客観的に評価できます。
石のパーゴラの本当のレガシーは、石を海に戻したという事実だけではありません。建築の設計段階から、その後の素材の行き先や環境への影響まで考えるという姿勢を、実際の成果につなげられるかどうかにあります。
【プロの結論】万博の石の休憩所から読み解く建築とサステナビリティ
石のパーゴラは、約750個の天然石を吊るした珍しい建築というだけではありません。
そこには、建築の寿命をイベントの開催期間だけで考えないという設計思想が込められています。
通常、仮設施設はイベント終了後に解体され、部材の再利用や処分が課題になります。しかし、休憩所2では最初から石材の次の役割を想定し、地上から空中、そして海底へと素材の居場所を移す構想が組み込まれました。
この考え方には、建築分野における三つの重要な視点があります。
第一に、素材の長寿命化です。天然石は長い時間をかけて形成された資源であり、短期間のイベントで役目を終える必要はありません。用途を変えながら使い続けるという発想は、資源の有効活用につながります。
第二に、建築と都市環境の接続です。休憩所2は、会場内の人の流れを支える施設でありながら、会期後には大阪湾の環境改善に役立つことを目指しています。建築の役割を敷地の外まで広げて考えた点に特徴があります。
第三に、安全性とデザインの両立です。斬新な構造を実現するには、見た目の印象だけでなく、構造計算、材料試験、施工、検査までを一貫して考える必要があります。今回の事例は、意匠設計と構造設計の連携が欠かせないことを示しています。
一方、海底への再利用については、構想を実施に移し、環境改善の効果を検証する段階が残されています。建築としての挑戦を評価することと、環境面での成果を確認することは分けて考えるべきです。
その意味で、石のパーゴラは万博閉幕によって評価が終わった建築ではありません。むしろ、閉幕後に石がどのような役割を担うのかによって、その設計思想の価値が改めて問われるプロジェクトです。
【万博休憩所の石】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:万博の石の休憩所はどこにありましたか?
A1:大阪・関西万博会場内の西ゲートゾーン、大屋根リング西側外周にある「休憩所2」です。e Moverのリング西ターミナル前に位置していました。会場は2025年10月13日に閉幕しており、2026年現在は通常の来場施設として利用できません。
Q2:石のパーゴラには何個の石が使われていますか?
A2:約750個です。総重量は約90トンとされ、石材には大島石、万成石、庵治石、小豆島石の4種類が使われました。
Q3:設計者は誰ですか?
A3:工藤浩平建築設計事務所の工藤浩平氏です。構造設計は平岩構造計画が担当しました。
Q4:90トンの石を吊るして危険ではなかったのですか?
A4:構造設計の専門家による構造計算、石材の強度試験、原寸大モックアップによる確認などが行われました。大阪府も指定確認検査機関による審査を経て、建築基準法に基づく構造安全性に適合したと説明しています。
Q5:なぜ石を雨よけではなく日よけとして使ったのですか?
A5:パーゴラは藤棚のように、日差しを遮りながら風が通る半屋外空間をつくる構造です。休憩所2では、石のパーゴラを建物間の動線や休憩空間に配置することで、開放的な日陰をつくることが目的でした。
Q6:万博終了後、石は大阪湾に沈められたのですか?
A6:大阪湾の海底の窪地改善や海洋生物の生息場所として再利用する構想が示されています。ただし、2026年11月時点で、石材の海底投入が完了したことを示す具体的な実施情報は確認できません。万成石のベンチについては、2026年2月に岡山県の白十字 山陽店で再利用が実現しています。
大阪・関西万博の「石の休憩所」と呼ばれる施設の正式名称は「休憩所2」。工藤浩平氏が設計した、約750個・総重量約90トンの天然石を吊るすパーゴラが大きな特徴でした。
使用されたのは、大島石・万成石・庵治石・小豆島石という瀬戸内地域の4種類の石材です。構造計算や強度試験、確認検査機関による審査を経て、建築基準法に基づく構造安全性への適合が確認されています。
そして、最大の特徴は閉幕後を見据えた設計思想です。石を大阪湾に戻し、海底環境や海洋生物の生息場所に役立てるという構想は、建築資材の再利用を超えた試みです。
2026年には関連する万成石のベンチが岡山県の店舗で再利用されました。一方、パーゴラの石材そのものについては、海底投入の実施状況が今後の注目点です。
石のパーゴラが残した最大の問いは、建物をつくった後、その素材をどう未来につなげるかということです。万博の閉幕後も、このプロジェクトは建築と環境の関係を考える事例として意味を持ち続けています。
主な参照資料:大阪・関西万博公式サイト、大阪府公表資料、TOTO建築事例・TOTOギャラリー・間、TECTURE MAG、J-CASTニュース、ENCOUNT、建設通信新聞Digital、株式会社白十字の2026年2月19日付発表。