「どちらにしようかな」の由来を調べると、意外な事実が分かります。
それは、現在のような歌詞がいつ、誰によって作られたのか、はっきりした発祥地や作者が特定されていないことです。
1911年頃には存在していたとされる2022年12月13日の山陰放送の報道では、同志社大学文化情報学部の河瀬彰宏准教授が、このわらべ歌について、1911年頃には見つかっていたと説明しています。
つまり、少なくとも100年以上前には存在していたと考えられます。
ただし、1911年が誕生した年という意味ではありません。それ以前から口伝えで歌われていた可能性もあります。
図書館の調査でもオリジナルは特定されていない国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、2005年8月25日に作成された埼玉県立久喜図書館の調査事例が掲載されています。
質問者は「どれにしようかな」の発祥と、元になった歌を探していました。
調査では『遊びとわらべうた』や『わらべうた その伝承と創造』などの資料が確認されましたが、元歌やオリジナルの形については記述が見つかりませんでした。
その一方で、同館はこの歌をわらべうたの「となえうた」に分類できると紹介しています。
これは、最初から完成された歌詞が存在したというよりも、遊びの中で自然発生し、伝承される過程で変化してきたことを示す重要な手掛かりです。
1999年から始まった全国的な収集活動この歌の地域差を調べるうえで重要なのが、甲南女子大学の田中千晶兼任講師による収集活動です。
上代文学を専門とする田中氏は、1999年に「託宣を下す神様の種類とその地域分布」を調べる目的で、歌詞の収集を開始しました。
調査はアンケート用紙による実地調査とインターネットを通じた募集の両方で行われ、歌詞だけでなく、歌っていた当時の居住地や投稿者の年齢も収集対象となりました。
| 時期 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1911年頃 | わらべ歌の存在が確認されていたと河瀬准教授が説明 |
| 1999年 | 田中千晶氏が歌詞の収集を開始 |
| 2005年 | 埼玉県立久喜図書館が発祥・原型について調査 |
| 2014年 | 田中氏の収集資料に557件超の投稿 |
| 2020年 | デイリースポーツが収集活動と地域差を紹介 |
| 2022年 | 山陰放送が専門家の解説と地域別の歌詞を報道 |
| 2025年 | TBSが650件以上のバリエーションを紹介 |
| 2026年 | 既存の収集・報道資料から地域差と伝承の特徴を整理 |
この流れからも、歌の歴史を調べるには、単純に歌詞だけを見るのではなく、いつ、どこで、誰から伝わったのかを合わせて考える必要があります。
【意味と遊び方】数え歌にはどんな役割がある?

「天の神様の言う通り」という言葉には、どのような意味があるのでしょうか。
実際には、宗教的な儀式というより、子どもが迷ったときに偶然の結果を受け入れるための言葉遊びとして理解すると分かりやすいでしょう。
「天の神様の言う通り」の意味言葉を分解すると、次のようになります。
- 天の神様: 人間には決められないことを判断してくれる存在。
- 言う通り: 神様の判断に従うという意味。
- どちらにしようかな: 複数の選択肢から一つを選ぶ問いかけ。
つまり、迷っている自分の代わりに、神様に選択を委ねるという表現です。
もちろん、実際に神様から答えを受け取っているわけではありません。歌に合わせて指を動かし、最後に当たった選択肢を採用する遊びです。
「天の」という言葉が付くかどうかも地域によって異なります。神様の代わりに、奈良の大仏や観音様、地域で親しまれている神様の名前が登場する例もあります。
基本的な遊び方は指さしによる選択
STEP 1:選択肢を用意する
お菓子や遊びの順番など、決めたいものを二つ以上用意します。
STEP 2:歌を唱える
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り」とリズムに合わせて唱えます。
STEP 3:一音ずつ交互に指す
歌の一音や一拍ごとに、選択肢を順番に指していきます。
STEP 4:最後に指したものを選ぶ
最後の音で指していたものが、選ばれた候補になります。
山陰中央新報の解説でも、数え歌は一音ごとに対象を交互に指し、最後の音で指していた方に決める遊びとして説明されています。
なぜ歌詞を長くするの?ここには、数え歌ならではの面白い仕組みがあります。
例えば、二つの選択肢を交互に指す場合、歌の音数が偶数か奇数かによって、最後に指す側が変わります。
山陰中央新報の取材では、「言う通り」までの基本部分を22文字として扱い、二者択一では最初に指したものとは反対側が選ばれる仕組みを解説しています。
そこで、子どもたちは続きの言葉を追加します。
最初に選ばれた結果が気に入らなければ、さらに歌を付け足して選び直すこともあります。
これは、単なる歌詞のアレンジではありません。選択結果を変えたいという子どもの気持ちが、歌の長さやリズムに影響しているのです。
【地域差の理由】なぜ同じ歌なのに地方や学校で違う?
この歌の地域差を理解するには、わらべうたがどのように伝わってきたかを考える必要があります。
1. 子どもから子どもへ伝わる口承文化だから一般的な童謡には、作詞者や作曲者、楽譜などが存在します。
しかし「どちらにしようかな」は、遊びながら覚え、友達に伝え、少しずつ変えていく歌です。
誰かが歌詞を間違えて覚えても、それが新しいバリエーションとして定着する場合があります。
また、子ども同士で面白い言葉を追加することもあります。
こうした伝承の仕組みが、歌詞の多様化につながっています。
2. 地域の生活や文化が反映されるから山陰中央新報の取材では、民話研究者の酒井董美氏が、地域の生活に密着した言葉が子どもたちの発想によってさまざまな形に派生していくと説明しています。
例えば、次のような特徴があります。
- 食べ物:柿の種、豆、天ぷら
- 動物:毛虫、あぶらむし、ひよこ
- 遊び:あっぷっぷ、シーソーを連想させる擬音
- 生活用品:ろうそく、新聞紙
- 作品・キャラクター:ゲゲゲの鬼太郎
特に興味深いのは、地域の名物だけでなく、その時代の子どもたちが親しんでいたテレビや漫画の要素も取り込まれていることです。
歌詞は、子どもたちの身近な世界を反映する小さな記録でもあります。
3. 方言だけでは説明できない学区単位の違い「どちらにしようかな」の歌詞は、方言と関係しているのでしょうか。
確かに、言葉の発音や地域特有の表現が影響しているケースはあります。
しかし、すべてを方言だけで説明することはできません。
2020年のデイリースポーツの取材で、田中氏は、県単位で大まかな地域差を区分することはできても、同じ県内でも違いがあり、隣の小学校で異なる可能性があると指摘しています。
例えば、同じ市内でも、家庭で教わった歌詞と学校で友達から覚えた歌詞が違うことは十分に考えられます。
つまり、都道府県という大きな区分だけでなく、学校や友人関係などの小さなコミュニティーも、歌詞の違いを生み出す要因なのです。
4. 「正しい歌詞」を求めること自体が誤解インターネットで歌詞を検索すると、地域別の一覧や、これが正解だとする紹介記事を見かけます。
しかし、収集された歌詞は、投稿者が幼少期に使っていた言葉を記録したものです。
そのため、ある地域の代表例が、その地域に住む全員の共通歌詞とは限りません。
また、同じ歌詞でも、年代が違えば使われていた言葉が異なる場合があります。
この歌の価値は、正解が一つあることではなく、地域や世代ごとに異なる言葉が受け継がれていることにあります。
【プロの結論】「どちらにしようかな」は日本の地域文化を映す数え歌
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り」は、単に子どもが選択に迷ったときに使う便利な歌ではありません。
100年以上前から存在が確認され、1999年以降は個人による継続的な収集活動も行われ、2025年には650件以上のバリエーションが報道されました。
その背景には、子どもたちの自由な発想と、地域ごとに異なる生活文化があります。
特に注目したいのは、次の3点です。
第一に、歌詞の違いは間違いではないこと。
北海道の「なのなのなすび」、関西の「柿の種」、東北の「あぶらむし」など、どれも伝承された遊び歌の一例です。
第二に、歌詞の長さには遊びの仕組みが関係していること。
一音ごとに指を動かすという単純なルールが、偶数・奇数の違いや、選択結果を変えたいという子どもの心理と結び付いています。
第三に、歌詞を記録することは地域文化を残すことにつながること。
同じ都道府県でも学校や年代によって異なる歌詞が存在するため、家庭で歌われていた言葉を記録することにも意味があります。
昔の歌を思い出すときは、単に歌詞の正誤を比べるのではなく、誰から教わったのか、どこで歌っていたのかまで振り返ってみると、さらに興味深い発見があるはずです。
【よくある質問】どちらにしようかな天の神様の言う通りに関するFAQ
Q1:どちらにしようかな天の神様の言う通りの続きは何ですか?
A1:代表的なものには「鉄砲撃ってバンバンバン」「なのなのな」「柿の種」「あぶらむし」などがあります。地域や学校、世代によって異なり、全国共通の決まった続きはありません。
Q2:天の神様の言う通りの歌詞全文はありますか?
A2:公式に定められた歌詞全文はありません。基本の歌い出しに地域独自の言葉を付け加えて歌うため、複数のバリエーションが存在します。
Q3:どちらにしようかなの歌はいつからありますか?
A3:山陰放送の2022年の報道では、1911年頃には存在が確認されていたと紹介されています。ただし、正確な発祥年や作者は特定されていません。
Q4:地域によって歌詞が違うのはなぜですか?
A4:子ども同士の口伝えで広がり、地域の生活や文化、方言、流行などが取り込まれてきたためです。同じ県内でも学校や家庭によって違いがあります。
Q5:「どちらにしようかな」と「どれにしようかな」は同じ歌ですか?
A5:基本的には同じ選び歌のバリエーションです。「どちら」は二つの候補、「どれ」は三つ以上の候補にも使いやすい表現です。北海道などでは「どれにしようかな」という歌い出しも紹介されています。
Q6:続きに「鉄砲撃ってバンバンバン」が入るのはどこの地域ですか?
A6:関東、東海、関西、中国地方など、複数地域で採集されています。特定の県だけに限定される言葉ではありません。
Q7:この歌は数え歌ですか、わらべうたですか?
A7:どちらも間違いではありません。わらべうたの一種で、候補から一つを選ぶ「となえうた」に分類されます。数を数えるように一音ずつ指していくため、数え歌としても親しまれています。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り」は、全国共通の正解を持たない、地域性豊かなわらべうたです。
北海道のなすび、関東のなのなのな、関西の柿の種、東北のあぶらむしなど、続きの言葉には土地や世代の特徴が表れています。
1911年頃には存在が確認されていたとされるこの歌は、子どもたちの遊びを通して長い年月をかけて受け継がれてきました。
2026年に改めて注目したいのは、650件以上というバリエーションの多さだけではありません。同じ地域でも違う歌詞が生まれ、友達や家族の間で少しずつ形を変えてきたという伝承の面白さです。
久しぶりに口ずさんでみると、自分が子どもの頃に使っていた歌詞を思い出す可能性があります。家族や友人と続きを比べてみれば、思いがけない地域差や世代差が見つかるでしょう。