抗コリン薬は市販で購入できるのでしょうか。答えは「抗コリン作用を持つ成分を配合した市販薬は存在する」です。ドラッグストアで購入できる胃腸鎮痛鎮痙薬、乗り物酔い止め、総合感冒薬、鼻炎用内服薬などには、抗コリン作用を持つ成分が含まれている場合があります。
代表的な成分には、ブチルスコポラミン臭化物、ロートエキス、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなどがあります。ただし、抗コリン作用を主な目的とする成分と、本来は抗ヒスタミン作用を目的としながら抗コリン作用も併せ持つ成分では、薬の働きや注意点が異なります。厚生労働省が2026年4月に一部改訂した「試験問題の作成に関する手引き」でも、これらの成分と副作用、相互作用について詳しく整理されています。
【結論】抗コリン薬は市販で買える?実際に配合されている薬の種類

抗コリン薬は、医療機関で処方される医療用医薬品だけではありません。一般用医薬品にも抗コリン作用を持つ成分が配合されています。
ただし、ドラッグストアで「抗コリン薬」という独立したカテゴリーの商品が販売されているわけではありません。実際には、胃痛や腹痛、乗り物酔い、鼻水、くしゃみなど、それぞれの症状に対応する市販薬の有効成分として使われています。
抗コリン作用とは何か抗コリン作用とは、神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを抑える作用です。アセチルコリンは、副交感神経の働きに関係し、消化管の運動や胃液の分泌、膀胱の収縮、唾液の分泌などに関与しています。
この働きを抑えると、胃腸の過剰な収縮を鎮めたり、鼻水の分泌を抑えたりする効果が期待できます。一方で、作用が消化器だけに限定されるわけではありません。
そのため、胃痛を抑える目的で服用した薬によって、口が乾いたり、尿が出にくくなったり、目がかすんだりすることがあります。これが抗コリン作用を持つ市販薬を選ぶ際に理解しておきたい基本的な特徴です。
抗コリン作用を持つ市販薬の代表的なカテゴリー- 胃腸鎮痛鎮痙薬:胃痛、腹痛、さしこみなどを和らげる目的で使用される。
- 乗り物酔い止め:乗り物酔いによる吐き気やめまいを抑える目的で使用される。
- 総合感冒薬:鼻水やくしゃみなどを抑える抗ヒスタミン成分が含まれる場合がある。
- 鼻炎用内服薬:鼻水やくしゃみを抑える目的で抗ヒスタミン成分や抗コリン成分が配合される場合がある。
- 一部の胃腸薬:胃液の分泌を抑える目的で抗コリン作用を持つ成分が使われる場合がある。
重要なのは、同じ薬効カテゴリーの商品でも、すべてに抗コリン成分が入っているわけではないことです。商品名やパッケージの効能だけでは判断できず、実際の有効成分を確認する必要があります。
【成分一覧】抗コリン作用のある市販薬を見分ける4つのポイント
抗コリン作用の有無を確認するときは、商品のブランド名よりも、添付文書や外箱に記載されている「有効成分」を確認することが大切です。
1.ブチルスコポラミン臭化物ブチルスコポラミン臭化物は、代表的な抗コリン成分です。主に胃腸鎮痛鎮痙薬に配合され、胃や腸の平滑筋の過剰な収縮を抑える働きがあります。
胃痛や腹痛、さしこみなどの症状を和らげる目的で使用されます。胃腸の運動を抑える作用が期待できる一方、口渇、便秘、目のかすみ、排尿困難などが現れる場合があります。
厚生労働省の2026年改訂資料では、ブチルスコポラミン臭化物について、まれに重篤な副作用としてショックやアナフィラキシーが起こることも説明されています。
2.ロートエキスロートエキスは、植物由来の生薬成分です。抗コリン作用を示すアルカロイドを豊富に含み、胃腸鎮痛鎮痙薬や一部の胃腸薬などに使用されています。
胃腸の運動や胃液の分泌を抑える目的で配合されることがありますが、作用は消化管だけに限定されません。
口渇、便秘、排尿困難、目のかすみなどに注意が必要です。また、厚生労働省の資料では、ロートエキスの成分が母乳に移行し、乳児の脈が速くなる可能性や、母乳が出にくくなる可能性についても注意喚起されています。
3.ジフェンヒドラミンジフェンヒドラミンは、抗ヒスタミン成分の一つです。アレルギー症状を抑えるほか、乗り物酔い止めや睡眠改善薬などにも使用される成分です。
ヒスタミンの働きを抑える作用に加え、抗コリン作用も持っています。そのため、眠気だけでなく、口渇、便秘、排尿困難などにも注意する必要があります。
特に、ジフェンヒドラミンを含む内服薬は、服用後の眠気や注意力低下に注意が必要です。厚生労働省は、抗ヒスタミン成分を含む内服薬を服用した後の自動車や機械類の運転操作を避けるよう案内しています。
4.クロルフェニラミンクロルフェニラミンマレイン酸塩は、総合感冒薬や鼻炎用内服薬、乗り物酔い止めなどに使用される抗ヒスタミン成分です。
鼻水やくしゃみなどの症状を抑える目的で配合されますが、抗コリン作用も併せ持っています。
抗ヒスタミン薬だから抗コリン作用とは無関係、という理解は正しくありません。特に第一世代の抗ヒスタミン成分では、抗コリン作用による口渇や便秘、排尿困難などにも注意が必要です。
【比較表】市販薬の種類・代表成分・抗コリン作用の関係
ここまで紹介した成分を、実際に市販薬を選ぶ場面に合わせて整理します。薬のカテゴリーと有効成分の関係を把握すると、成分表示を確認するときに役立ちます。
| 市販薬のカテゴリー | 代表的な成分 | 主な使用目的 | 確認したい注意点 |
|---|---|---|---|
| 胃腸鎮痛鎮痙薬 | ブチルスコポラミン臭化物 | 胃痛・腹痛・さしこみ | 排尿困難、便秘、口渇 |
| 胃腸薬 | ロートエキス | 胃液分泌の抑制、胃腸症状の緩和 | 排尿困難、目のかすみ、授乳中の使用 |
| 乗り物酔い止め | スコポラミン臭化水素酸塩水和物 | 乗り物酔いによる吐き気・めまい | 眠気、目のかすみ、運転操作 |
| 乗り物酔い止め | ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン | 吐き気や乗り物酔いの緩和 | 眠気、口渇、排尿困難 |
| 総合感冒薬 | クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン | 鼻水・くしゃみなどの緩和 | 眠気、口渇、便秘 |
| 鼻炎用内服薬 | 抗ヒスタミン成分、ベラドンナ総アルカロイドなど | 鼻水・くしゃみの緩和 | 成分の重複、排尿困難 |
この表は代表的な成分と用途を整理したものであり、すべての商品に該当する成分が入っているという意味ではありません。実際の配合内容は製品ごとに異なります。
また、スコポラミン臭化水素酸塩水和物とブチルスコポラミン臭化物は、名称が似ていますが、同じ成分として扱うものではありません。前者は乗り物酔い防止薬など、後者は胃腸鎮痛鎮痙薬などで使用されます。
【副作用】抗コリン薬のリスクと緑内障・排尿困難への注意
抗コリン作用を持つ市販薬で注意したいのは、目的とする症状以外の身体機能にも影響が及ぶことです。
厚生労働省の2026年4月改訂資料では、抗コリン成分による主な副作用として、散瞳による目のかすみや異常なまぶしさ、顔のほてり、頭痛、眠気、口渇、便秘、排尿困難などが挙げられています。
口渇・便秘・排尿困難抗コリン作用によって唾液の分泌が抑えられると、口の中が乾燥することがあります。また、腸管の運動が抑制されることで便秘につながる場合もあります。
特に注意したいのが排尿困難です。膀胱の収縮に関係する働きが抑えられるため、もともと尿が出にくい人では症状が悪化する可能性があります。
前立腺肥大などによって排尿に問題を抱えている人や、過去に尿閉を経験した人は、購入前に医師または薬剤師に相談してください。
緑内障の人は市販薬を使えないのか緑内障と抗コリン作用の関係については、誤解が少なくありません。
抗コリン作用によって瞳孔が開くと、目の中を循環する房水の排出経路が狭くなり、眼圧が急激に上昇する可能性があります。特に注意が必要なのは、隅角が狭い閉塞隅角緑内障です。
一方、日本緑内障学会の一般向けQ&Aでは、開放隅角緑内障の患者では通常問題にならないケースが多いと説明されています。閉塞隅角の患者でも、レーザー治療や白内障手術後の状態によってリスクが異なる場合があります。
つまり、緑内障と診断された人が一律にすべての市販薬を使用できないわけではありません。しかし、自分の緑内障の種類を正確に把握せず、パッケージの注意書きを無視して服用することも避けるべきです。
眼科で確認したいのは、自分の緑内障が開放隅角なのか、閉塞隅角なのかという点です。購入時には診断内容を薬剤師や登録販売者に伝え、商品の使用上の注意と照らし合わせてください。
高齢者は抗コリン作用の重なりに注意高齢者では、複数の病気を治療するために多くの薬を服用しているケースがあります。その中に抗コリン作用を持つ薬が複数含まれていると、作用が積み重なる可能性があります。
また、高齢者では便秘や排尿困難、口渇などの副作用が生活の質に影響しやすくなります。市販薬を一時的に追加する場合でも、普段服用している処方薬との関係を確認することが大切です。
【飲み合わせ】抗コリン作用のある市販薬を併用するときの注意点
抗コリン薬の飲み合わせで特に注意したいのは、薬の名前や目的が異なっていても、同じような薬理作用を持つ成分が重複するケースです。
併用に注意したい市販薬の組み合わせ- 総合感冒薬+乗り物酔い止め:抗ヒスタミン成分や抗コリン作用が重複する可能性がある。
- 総合感冒薬+鼻炎用内服薬:鼻水を抑える成分などが重複し、副作用が強まるおそれがある。
- 胃腸鎮痛鎮痙薬+乗り物酔い止め:抗コリン作用を持つ成分が重複する場合がある。
- 胃腸薬+胃腸鎮痛鎮痙薬:ロートエキスなど、作用が重なる成分に注意が必要。
- 市販の風邪薬+睡眠改善薬:ジフェンヒドラミンなどの成分が重複する可能性がある。
厚生労働省の医薬品に関する手引きでも、抗ヒスタミン成分や抗コリン成分などが重複すると、眠気や副作用が強く現れるおそれがあるため、複数の薬効群の併用を避ける必要があるとされています。
「胃薬だから風邪薬とは関係ない」「酔い止めは旅行のときだけだから問題ない」と考えるのは危険です。確認すべきなのは薬の用途ではなく、実際に含まれている成分です。
購入時に確認したい5つのポイント- 有効成分にブチルスコポラミン臭化物やロートエキスが含まれていないか。
- ジフェンヒドラミンやクロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン成分が含まれていないか。
- 現在服用している処方薬や市販薬と成分が重複していないか。
- 緑内障、排尿困難、心臓病などの持病がないか。
- 服用後に運転や危険を伴う機械操作をする予定がないか。
購入時には、現在服用している薬の名前やお薬手帳を提示すると、薬剤師や登録販売者が成分の重複を確認しやすくなります。
腹痛を市販薬で抑え続けてはいけないケース胃腸鎮痛鎮痙薬は、腹痛の原因そのものを治療する薬ではありません。痛みを一時的に抑えることで、重大な消化器疾患の発見が遅れる可能性もあります。
痛みが次第に強くなる、周期的に痛みが現れる、発熱や嘔吐を伴う、血便や血尿がある、原因不明の痛みが30分以上続く場合などは、医療機関での診察が必要です。
強い腹痛や急激な症状の悪化がある場合は、市販薬で様子を見ず、速やかに医療機関を受診してください。
【処方薬との違い】日本版抗コリン薬リスクスケールで見る薬の安全性
抗コリン作用を持つ薬には、市販薬と処方薬の両方があります。両者の違いを理解するうえで重要なのは、同じ有効成分が使われることもあるという点です。
市販薬と処方薬は何が違う?市販薬は、一般の人が薬局やドラッグストアなどで購入し、比較的軽い症状に対して自分で使用することを想定した医薬品です。
一方、処方薬は医師が診察や検査、患者の病歴、併用薬などを踏まえて選択します。用量、剤形、使用期間なども治療目的に応じて調整されます。
抗コリン作用の有無だけで、市販薬と処方薬の安全性や強さを単純に比較することはできません。同じ成分でも配合量や製剤、適応症、使用方法によって実際のリスクは異なります。
なお、一般用医薬品には第1類・第2類・第3類という販売上の区分があります。第1類は薬剤師、第2類・第3類は薬剤師または登録販売者が販売を担当します。この販売区分と抗コリン作用の強さは別の評価基準です。
日本版抗コリン薬リスクスケールとは抗コリン作用によるリスクを評価する専門的な指標として、日本老年薬学会が開発した「日本版抗コリン薬リスクスケール」があります。
このスケールは、日本の医療環境で使用される薬剤に合わせて作成されたもので、2024年5月17日に第2版が公開されました。日本老年医学会も作成に協力しています。
日本で使用される薬剤について抗コリン作用のリスクを1~3のスコアで評価し、複数の薬を服用する場合には、それぞれのスコアを合算して総抗コリン薬負荷を把握する仕組みです。
日本版リスクスケールでは、158薬物が評価され、スコアの内訳は次のようになっています。
- スコア1:94薬物
- スコア2:27薬物
- スコア3:37薬物
注目したいのは、市販薬に使われる成分も評価対象に含まれていることです。
例えば、ブチルスコポラミン、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンは、同スケールでスコア3に分類されています。ベラドンナもスコア3に分類され、一般用医薬品のみで使用される薬剤には区分記号が付けられています。
ただし、スコア3だから服用した瞬間に重大な健康被害が発生するという意味ではありません。これは成分の抗コリン作用に関するリスク評価であり、実際の影響は服用量、服用期間、年齢、持病、併用薬などによって変わります。
抗コリン薬リスクスケールは市販薬選びに使える?日本版抗コリン薬リスクスケールは、もともと医師や薬剤師などが薬物療法全体のリスクを評価し、特に高齢者のポリファーマシー対策に役立てるために作成された指標です。
一般の購入者がスコアだけを見て、市販薬を自己判断で選別するためのランキングではありません。
特に重要なのは、単独の薬剤だけでなく、複数の薬剤を服用した場合の総抗コリン薬負荷です。例えば、胃腸薬、風邪薬、アレルギー薬を別々の目的で使用していても、それぞれに抗コリン作用があれば、全体としての負荷が大きくなる可能性があります。
また、処方薬を服用している人がスコアの高さを理由に自己判断で中止することも適切ではありません。薬の変更や減量は、治療上の必要性を確認したうえで医師や薬剤師と相談して進める必要があります。
【よくある質問】抗コリン薬の市販に関するFAQ
Q1:抗コリン薬はドラッグストアで購入できますか?
A1:はい。ブチルスコポラミン臭化物やロートエキスを含む胃腸薬、抗ヒスタミン成分を含む乗り物酔い止めや総合感冒薬など、抗コリン作用を持つ成分が配合された市販薬があります。ただし、すべての商品に含まれているわけではありません。
Q2:抗コリン作用のある市販薬を見分けるにはどうすればよいですか?
A2:商品の外箱や添付文書にある有効成分欄を確認します。ブチルスコポラミン臭化物、ロートエキス、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなどが代表例です。抗ヒスタミン成分にも抗コリン作用を持つものがあるため、成分名を一つずつ確認してください。
Q3:抗コリン薬は緑内障の人でも服用できますか?
A3:緑内障の種類や治療状況によって異なります。特に閉塞隅角緑内障では、抗コリン作用による眼圧上昇に注意が必要です。自己判断せず、眼科医や薬剤師に相談してください。
Q4:抗コリン作用のある市販薬と風邪薬は一緒に飲めますか?
A4:成分によっては併用できません。風邪薬と胃腸薬、酔い止め、鼻炎薬などで抗コリン成分や抗ヒスタミン成分が重複すると、副作用が強まるおそれがあります。併用前に薬剤師または登録販売者に確認してください。
Q5:日本版抗コリン薬リスクスケールのスコア3は危険という意味ですか?
A5:スコア3は、同スケールで抗コリン作用によるリスクが高いと評価されたことを示します。ただし、個人に必ず副作用が発生するという意味ではありません。服用量や期間、持病、併用薬などを含めて総合的に判断する必要があります。
Q6:抗コリン薬は高齢者が使用してはいけない薬ですか?
A6:一律に使用禁止というわけではありません。ただし、高齢者では排尿困難、便秘、口渇などの副作用が現れやすく、複数の薬を服用している場合には抗コリン作用が重なる可能性があります。使用前に薬剤師や医師に相談することが大切です。
抗コリン薬は市販で購入できるのかという疑問に対する答えは、抗コリン作用を持つ成分を含んだ一般用医薬品が実際に販売されている、ということです。
代表的な成分には、胃腸鎮痛鎮痙薬に使用されるブチルスコポラミン臭化物やロートエキス、乗り物酔い止めや総合感冒薬などに使用されるジフェンヒドラミンやクロルフェニラミンがあります。
これらは症状を緩和する目的で使用されますが、口渇、便秘、眠気、目のかすみ、排尿困難などの副作用にも注意が必要です。特に緑内障や排尿に関する持病がある人、高齢者、複数の薬を服用している人は慎重な判断が大切です。
購入時に大切なのは、商品名や「胃薬」「風邪薬」といったカテゴリーだけで判断しないことです。有効成分を確認し、現在使用している処方薬や市販薬との重複がないかを確かめましょう。
2026年現在、日本版抗コリン薬リスクスケールも整備され、医療現場では薬剤単体だけでなく、複数の薬を組み合わせた際の抗コリン薬負荷を評価する考え方が広がっています。
市販薬だから必ず安全、処方薬だから必ず強いという単純な区別はできません。症状に必要な成分を選び、不要な成分の重複を避けることが、安全なセルフメディケーションにつながります。
持病や服用中の薬に不安がある場合は、購入前に薬剤師や医師へ相談してください。
公的資料・根拠資料
- 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き(令和8年4月一部改訂)」。
- 日本老年薬学会「日本版抗コリン薬リスクスケール(第2版)」。
- 日本緑内障学会「緑内障Q&A」。
- 厚生労働省「医薬品の販売制度」。