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【代表作を徹底解説】丸山真男の著書は何から読むべきか

倉持 玲奈 倉持 玲奈 • 更新: • 公開: • 読了約 20 分
目次

丸山の著作は、大きく分けると、日本ファシズムの分析、日本政治思想史の研究、民主主義や近代社会をめぐる評論の3領域に整理できる。

単に有名な本を並べるだけでは、それぞれの著作がどのようにつながっているのかが見えにくい。出版時期と研究テーマを意識すると、丸山の思想の展開が理解しやすくなる。

1.『日本政治思想史研究』(1952年)

日本の近代思想がどのように形成されたのかを知るための学術的な代表作である。

江戸時代の儒学や政治思想を分析し、荻生徂徠らの思想を手がかりに、近代的な主体性や政治秩序に対する認識の成立過程を考察している。

丸山の研究者としての力量を知るなら、最も重要な著作の一つだ。ただし、専門的な議論が多いため、初めて丸山を読む人にはやや難しい。

2.『現代政治の思想と行動』(1956~1957年)

戦後政治思想を理解する重要作

1946年の「超国家主義の論理と心理」をはじめ、戦前・戦後の政治や日本ファシズムを論じた論考を収めた著作である。

戦争を支えた政治的・精神的な仕組みを分析し、権力と責任、国家と個人の関係を問い直している。

特に重要なのは、戦争を特定の指導者だけの問題として処理しない点だ。組織の内部で責任が曖昧になり、個人が主体的な判断を失っていく過程に目を向けている。

1956年に上巻、1957年に下巻が刊行され、1964年には増補版が出版された。

3.『日本の思想』(1961年)

初めて読む人におすすめ


『日本の思想』

岩波新書・青版434/1961年刊行
日本の思想の歴史的な特徴、外来思想の受容、近代化、学問や社会組織のあり方を論じた代表作。
国立国会図書館の書誌情報では192ページ。

丸山の名前を知るきっかけとして、最も広く読まれてきた著作の一つである。

特に第四章の「『である』ことと『する』こと」は、高校の国語教材にも採録されてきた。

この本の魅力は、政治学の専門知識がなくても、社会における人間関係や制度、思想の受け入れ方について考えられる点にある。

また、「ササラ型」と「タコツボ型」という比喩を使って、異なる学問や思想が相互に交流せず、閉じた領域に分かれてしまう問題も論じている。

現在の専門分化した社会や、異なる意見が交わりにくい情報環境を考える際にも、読み直す価値がある。

4.『「文明論之概略」を読む』(1986年)

福澤諭吉の代表的著作『文明論之概略』を、丸山自身が詳細に読み解いた全3巻の研究書である。

福澤が文明、独立、国家、個人についてどのように考えたのかを分析し、明治日本の思想的課題を再検討している。

丸山の福澤研究を深く知りたい人に適した著作だ。

5.『忠誠と反逆』(1992年)

丸山の思想史研究の到達点を知るうえで重要な一冊である。

日本の歴史において、権力への忠誠と、それに対する反逆がどのような思想的意味を持ってきたのかを考察している。

国家や組織に従うことと、個人として自分の判断を持つことの関係を考えるうえでも重要だ。

【丸山真男の思想】「である」ことと「する」ことは何が違う?

丸山真男

丸山真男の思想を象徴する概念が、1961年の『日本の思想』に収録された「『である』ことと『する』こと」である。

この議論は、単なる日本語の文法の違いではない。社会の中で人間や制度をどのように評価するのかという、近代社会の根本的な問題を扱っている。

「である」とは、属性や地位を基準にする考え方

「である」は、人間が何者であるか、どのような属性や身分を持っているかを重視する考え方だ。

例えば、次のような判断が該当する。

- 身分が高いから尊重される。
- 家柄がよいから信用される。
- ある組織の構成員だから正しいと認められる。
- 権威ある立場にいるから意見が優先される。

こうした社会では、実際に何をしたかよりも、どのような立場にいるかが重視される。

その結果、地位や肩書を持っているだけで、その人物の行動や判断まで正当化される危険がある。

「する」とは、行動や機能を基準にする考え方

一方、「する」は、実際に何を行い、どのような役割を果たしているのかを重視する。

例えば、次のような判断である。

- 肩書ではなく、仕事の成果で評価する。
- 権利を持っているだけでなく、実際に行使する。
- 制度の存在ではなく、制度が果たしている機能を検証する。
- 政治家の地位ではなく、政策や行動の内容を評価する。

丸山は、近代社会では、この「する」という価値観が重要になると考えた。

民主主義も、憲法や法律に制度として書かれているだけでは十分ではない。市民が権利を使い、政治を監視し、必要に応じて制度を改善していくことによって初めて機能する。

「である」と「する」の比較
比較項目 「である」 「する」
評価の基準 属性・身分・地位 行動・機能・実績
人間関係 家柄や所属を重視 目的や役割を重視
権利 権利を持つ状態 権利を実際に行使する
政治 制度や肩書への安住 市民による監視と参加
組織 既存の秩序を維持 目的に応じて改善
注意点 権威や制度の固定化 手段や成果だけへの偏重

ただし、丸山の議論を「である」は悪く、「する」は善いという単純な二分法にしてはいけない。

学問や芸術の世界では、長い時間をかけて蓄積された伝統や価値を継承することにも意味がある。何でも短期的な成果だけで判断すれば、歴史や文化の蓄積を軽視することになりかねない。

重要なのは、制度や伝統を無条件に神聖視することなく、その役割を問い直し続ける姿勢である。

「ササラ型」と「タコツボ型」が示す日本社会の問題

『日本の思想』には、もう一つ注目したい比喩が登場する。

それが「ササラ型」と「タコツボ型」である。


ササラ型

共通の根から複数の領域へ広がる構造。異なる思想や分野が共通の基盤を持つイメージ。

タコツボ型

それぞれが閉じた領域に分かれ、外部との交流や相互理解が難しくなる構造。

丸山が問題にしたのは、異なる思想や学問が日本に取り入れられても、それらが十分に結びつかず、独立したまま共存してしまう傾向だった。

この問題は大学や研究機関だけに限らない。

組織内の部署同士が情報を共有しない、専門家が自分の領域だけで議論する、異なる価値観を持つ人々が共通の言葉を持てないといった状況にも通じる。

情報を大量に集めることと、それらを結びつけて考えることは別の能力である。丸山の議論は、その違いを考える手がかりになる。

【戦後民主主義への影響】丸山真男はなぜ政治運動に参加したのか

丸山は研究室に閉じこもる学者ではなかった。

戦後日本の政治的な転換点において、市民としての発言や行動を積極的に行った。

「超国家主義の論理と心理」が問い直した国家の仕組み

1946年、丸山は雑誌『世界』に「超国家主義の論理と心理」を発表した。

この論文が扱ったのは、日本の戦前・戦中の国家主義を支えていた精神的・政治的な構造である。

特に注目されたのが、「抑圧移譲の原理」という分析だった。

権力関係が上下に連なり、上位者から受けた圧力がさらに下位の人間へと移される。こうした構造の中では、個人が自らの判断で責任を引き受けることが難しくなる。

上からの命令に従い、その圧力を下に伝えることが組織の秩序を維持する仕組みになってしまうからだ。

丸山は、国家の権力と精神的権威が一元化され、権力を批判する基準まで国家の内部に取り込まれてしまう問題を指摘した。

法政大学大原社会問題研究所の歴史解説でも、この論文の中心的な分析として「抑圧移譲の原理」が取り上げられている。

この議論の重要性は、戦争を過去の特定の政治体制だけの問題に限定しなかったことにある。

組織の中で責任が分散し、誰もが自分の判断を放棄する状態は、異なる時代や制度の下でも起こり得る。

1960年の安保闘争と民主主義への危機感

丸山が広く社会的な注目を集めた転機の一つが、1960年の安保条約改定反対運動だった。

1960年5月19日から20日にかけて、新安保条約の承認案が衆議院で強行採決された。

丸山はこの政治状況に強い危機感を抱き、講演やデモへの参加を通じて反対の意思を表明した。

ただし、彼が問題にしていたのは、安保条約の内容だけではない。

議会の手続きや権力の行使が軽視されることによって、民主主義そのものが形骸化する危険を感じていたのである。

制度が存在していても、権力がその制度を都合よく利用し、市民がそれを監視しなければ、民主主義は十分に機能しない。

この問題意識は「である」ことと「する」ことの議論とも深く結びついている。

丸山にとって民主主義とは、国民が主権者であるという状態に安住することではなかった。主権者として行動し続けることが必要だった。

丸山真男は単純な左派思想家だったのか

丸山は戦後民主主義を代表する知識人として知られ、憲法の理念や平和主義を重視した。

そのため、冷戦期には保守派から革新派の論客と位置づけられることが多かった。

一方で、後年には左派の論者からも、日本の思想的伝統を重視する姿勢について、保守的なナショナリズムに近いのではないかという批判が出た。

つまり、丸山の評価は政治的な立場によって一方向に定まるものではなかった。

2026年7月9日付の文藝春秋PLUSに掲載された東京大学教授・苅部直の論考「丸山眞男と『知』の現在」も、この評価の変化を取り上げている。

同論考は、かつて左右の異なる立場から向けられていた批判を振り返り、現在の国際情勢や情報環境の変化を踏まえて、丸山の著作を別の角度から読み直す意義を論じている。

丸山を理解する際に大切なのは、「左派か保守か」というラベルだけで判断しないことだ。

どのような歴史的問題を分析し、どのような根拠から結論を導いたのか。著作そのものを読むことが、評価を深める最も確かな方法になる。

【プロの結論】2026年に丸山真男を読み直す3つの理由

2026年は、丸山が亡くなってから30年となる節目の年である。

1914年生まれの丸山は、1996年8月15日に82歳で亡くなった。没後も著作や講義録、書簡、未収録原稿などの刊行が続き、その研究は現在も進められている。

では、なぜ2026年に丸山を読み直す必要があるのか。

理由1:情報の多さと、考える力は同じではない

2026年7月の苅部直の論考が注目したのは、丸山の『「文明論之概略」を読む』における「情報」「知識」「知性」「叡智」という4つの層である。

情報は個別のデータであり、それらを体系化したものが知識、さらに知識を総合的に扱う能力が知性と整理できる。そして、その根底には日常生活の中で培われる叡智がある。

苅部の論考は、情報が肥大する一方で、知性や叡智がやせ細る現代の状況を、丸山の問題意識と重ねている。

SNSやニュース配信によって、私たちは膨大な情報に触れられるようになった。

しかし、情報を見たことと、その背景を理解したことは違う。

誰が発信した情報なのか、何が根拠なのか、反対の立場からはどのように見えるのか。こうした問いを持つことは、丸山の知性論と深く関係する。

理由2:民主主義を制度ではなく実践として考えられる

選挙で投票することは民主主義の重要な行為である。しかし、それだけで民主主義が完成するわけではない。

丸山は1952年の「政治の世界」で、日常生活の中で政治的・社会的な問題を討議する場の必要性を論じた。

また、1958年の「政治的判断」では、政治とは理想的な最善の選択を期待するだけではなく、現実の条件の中でよりよい選択を積み重ねていくものだという考えを示している。

これは、政治に失望して何も行動しなくなることへの警告でもある。

政治家や政府にすべてを任せるのでもなく、政治を無意味だと切り捨てるのでもない。市民自身が判断し、参加し、必要なら批判する。

民主主義を日常的な行動として捉える視点は、現在も有効である。

理由3:日本の歴史を単純化せずに考えられる

丸山の日本政治思想史研究は、近代日本を一方的に否定するものではない。

荻生徂徠や福澤諭吉の思想を研究し、日本の歴史の中にも、近代的な主体性や自由につながる思想が存在したことを明らかにしようとした。

一方で、日本の思想が外来の思想を受け入れる際に生じた矛盾や、社会の中に残り続ける権威主義的な傾向も分析した。

つまり、日本の伝統を全面的に肯定するのでも、全面的に否定するのでもない。

歴史の中にある複数の考え方を検証し、何が現在につながっているのかを考える姿勢が、丸山の研究の特徴である。

丸山眞男文庫とは?現在も研究を支える貴重な資料群


東京女子大学・丸山眞男記念比較思想研究センター
丸山の蔵書、草稿、自筆原稿、講義資料などを収蔵・公開する研究拠点。

丸山の思想を後世に伝えるうえで、重要な役割を担っているのが東京女子大学の丸山眞男文庫である。

丸山家からの資料寄贈を受け、1999年3月に東京女子大学図書館内に開設された。

東京女子大学の公式案内によると、所蔵資料は次の規模に及ぶ。

- 図書:約18,000冊
- 草稿類:約8,200件
- 雑誌:約18,000冊
- 丸山自身の書き込みがある図書:約5,800冊

特に注目したいのは、単に丸山の著作を保管しているだけではない点だ。

研究に使用した書籍への書き込み、自筆原稿、講義や研究のためのメモ、ノートなども収蔵されている。

完成した著作だけを読んでいては分からない、研究者としての思考の過程を追えるのである。

草稿類の一部は2015年に運用が始まったデジタルアーカイブで公開されている。また、2014年から2024年にかけては、文庫の資料整理で発見された未収録文章や自筆原稿などを収めた『丸山眞男集 別集』全5巻も刊行された。

これは、丸山の思想が過去の完成された理論として保存されているだけではなく、一次資料を通じて新たに研究され続けていることを示している。

初めて読むなら、この順番がおすすめ

丸山の著作は専門性が高いものも多い。最初から難解な思想史研究に挑戦するより、目的に応じて読む順番を変えると理解しやすい。

読む順番 著作 読む目的
1 『日本の思想』 丸山の基本的な考え方を理解する
2 『超国家主義の論理と心理 他八篇』 戦前日本の政治構造を知る
3 『現代政治の思想と行動』 戦後政治思想を幅広く理解する
4 『日本政治思想史研究』 専門的な思想史研究に触れる
5 『「文明論之概略」を読む』 福澤諭吉と近代日本を深く考える

特に、初めて丸山を読む人には『日本の思想』をすすめたい。

一方、日本の近代思想史を専門的に学びたい人は『日本政治思想史研究』から入る方法もある。

政治や社会問題への関心が強い人なら、「超国家主義の論理と心理」を先に読んでもよい。

丸山を読む価値は、彼の結論をそのまま受け入れることではなく、自分自身の判断力を鍛えることにある。

【丸山真男に関するよくある質問(FAQ)】

Q1:丸山真男は何をした人ですか?

丸山真男は、戦後日本を代表する政治学者・思想史家です。東京大学で日本政治思想史を研究し、「超国家主義の論理と心理」や『日本の思想』などを発表しました。戦前日本の国家主義を分析するとともに、戦後民主主義や個人の主体性について論じました。

Q2:丸山真男の代表作は何ですか?

代表作としては、次の5点が挙げられます。

- 『日本政治思想史研究』(1952年)
- 『現代政治の思想と行動』(1956~1957年)
- 『日本の思想』(1961年)
- 『「文明論之概略」を読む』(1986年)
- 『忠誠と反逆』(1992年)

特に初めて読む人には『日本の思想』がおすすめです。

Q3:「である」ことと「する」こととは何ですか?

「である」は身分や地位、属性などを重視する考え方で、「する」は実際の行動や機能を重視する考え方です。丸山は、民主主義においても権利を持っているだけでなく、実際に行使し、制度を監視する姿勢が必要だと論じました。

Q4:丸山真男は戦争を経験したのですか?

はい。1944年に陸軍へ召集され、1945年8月6日には広島市宇品の陸軍船舶司令部で原爆に遭遇しました。司令部の建物に守られて生き延び、同年9月に復員しています。

Q5:丸山真男と福澤諭吉にはどのような関係がありますか?

福澤諭吉は丸山が深く研究した思想家です。丸山は福澤の著作を通じて、個人の主体性や自由、近代日本の成立過程を考察しました。代表的な研究成果に「福沢諭吉の哲学」や『「文明論之概略」を読む』があります。

Q6:丸山眞男文庫はどこにありますか?

東京都杉並区にある東京女子大学の図書館内に設置されています。約18,000冊の図書、約8,200件の草稿類、約18,000冊の雑誌などを収蔵しています。資料によって閲覧方法が異なり、一部の草稿はデジタルアーカイブでも公開されています。

Q7:2026年に丸山真男を読むなら、どの本がよいですか?

最初の一冊には『日本の思想』がおすすめです。戦後日本の政治や民主主義について考えたい人には『現代政治の思想と行動』、日本ファシズムの分析に関心がある人には「超国家主義の論理と心理」が適しています。

丸山真男は、戦前の国家主義を批判的に分析し、戦後日本における民主主義と個人の主体性を問い続けた政治学者・思想史家だった。

その生涯には、東京大学での研究、戦時中の召集、広島での被爆、1946年の「超国家主義の論理と心理」の発表、1960年の安保闘争への参加など、日本の近現代史と深く結びついた出来事がある。

代表作を振り返ると、それぞれに異なる役割がある。

- 『日本政治思想史研究』は、日本の近代思想の成立過程を明らかにした。
- 『現代政治の思想と行動』は、戦前日本の国家構造と戦後政治の課題を論じた。
- 『日本の思想』は、日本の思想のあり方と民主主義の実践を考える手がかりを示した。
- 『「文明論之概略」を読む』は、福澤諭吉の思想を通じて近代日本を再検討した。

2026年は没後30年という節目に当たる。

丸山の思想を読む際には、彼を単に戦後民主主義の象徴として扱うのではなく、その歴史認識や政治的立場に対する批判も含めて考えることが大切だ。

最も重要な問いは、私たちが民主主義を「持っている」だけなのか、それとも実際に「使い、守り、育てている」のかという点にある。

情報があふれる時代だからこそ、自分で考え、権威を検証し、異なる意見と向き合う。丸山真男が残した思想の核心は、過去の政治学の知識にとどまらず、2026年を生きる私たち自身の判断のあり方にもつながっている。

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倉持 玲奈

テクノロジー分野を担当。一次情報(公式発表・公式サイト)と発表日を必ず確認し、推測は推測と明記する編集方針に従っています。

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