親に精神疾患がある家庭では、子どもはどのような生活を送り、心にどのような影響を受けるのでしょうか。親のうつ病や統合失調症、双極性障害などは、本人の健康だけでなく、家族の日常生活や子どもの心理的な成長にも影響することがあります。一方、親に精神疾患があるからといって、必ず子どもが不幸になったり、同じ病気を発症したりするわけではありません。病状の安定性、家庭環境、周囲のサポートによって状況は大きく変わります。
2026年現在、こども家庭庁によるヤングケアラー支援の強化や、自治体のこども家庭センター、厚生労働省が案内する精神保健福祉センターなど、家庭と子どもを支える相談体制が整備されています。親の精神疾患によって子どもが抱えやすい悩み、遺伝する可能性、家庭での接し方、利用できる支援制度と相談窓口を、公的資料や国内の研究をもとに整理します。
【親に精神疾患があると子どもに何が起きる?】心理的負担と家庭環境の実態

親に精神疾患がある場合、子どもへの影響は病名だけで決まるものではありません。症状の程度、発症や回復の経過、家庭内での役割分担、経済状況、周囲に頼れる大人がいるかどうかなど、複数の要因が関係します。
特に問題になりやすいのは、子どもが親の病気について十分な説明を受けられず、家庭で起きていることを理解できないまま成長する状況です。
子どもが抱えやすい5つの心理的負担親の精神疾患とともに暮らす子どもには、次のような心理的・生活上の負担が生じることがあります。
1.親の様子が変わることへの不安
親が突然泣き出したり、怒りっぽくなったり、長時間寝込んだりすると、子どもは何が起きているのか分からず不安を感じます。
特に幼い子どもは、精神疾患という概念を十分に理解できません。親の言動を自分の行動と結びつけ、自分が悪いことをしたから親が元気をなくしたのではないかと考える場合もあります。
2.自分の気持ちを後回しにする
親の体調が悪いときには、子ども自身が甘えたり、悩みを相談したりすることを控える場合があります。
親に心配をかけたくないという気持ちから、学校での悩みや友人関係の問題を家庭で話せなくなることもあります。
3.孤独感や周囲との距離
家庭の事情を友人に知られたくない、親の病気について説明できないといった理由から、友人関係が狭くなる場合があります。
親の病気に対する偏見を恐れ、家庭の状況を隠そうとすることも心理的負担につながります。
4.生活リズムや学業への影響
親が家事や育児を十分に担えない時期には、食事、睡眠、登校準備などが不安定になることがあります。
子どもが家事やきょうだいの世話を担えば、勉強時間や遊ぶ時間が削られる可能性もあります。
5.親を支えなければならないという責任感
親の感情を落ち着かせたり、薬の管理を手伝ったり、家族間のトラブルを調整したりすることを子どもが日常的に担う場合があります。
こうした役割が長期化すると、子ども自身の希望や感情を表現する機会が少なくなってしまいます。
国内研究から見える精神疾患の親を持つ子どもの実態2019年に日本公衆衛生看護学会誌に掲載された田野中恭子氏の研究では、子どもの頃に精神疾患のある親と暮らしていた成人10人に半構造化面接を実施しています。
研究では、子どもが経験した困難として、次のような内容が整理されました。
- 親の症状を理解できないまま生活すること
- 親の言動に振り回される精神的不安定さ
- 安心して話せる友人や居場所がないこと
- 我慢を強いられ、周囲から十分な支援を受けられないこと
- 学童期から思春期にかけて、必要な世話を受けられないこと
- 成人後も生活や発達面で困難を感じること
この研究は10人を対象とした質的研究であり、日本の子ども全体の割合を示す統計ではありません。しかし、家庭の中で起きている問題が、子どもの心理面だけでなく生活面にも及ぶことを示す重要な資料です。
2024年には、お茶の水女子大学の岩根由佳氏・平野真理氏による研究レビューも発表されました。精神疾患の親を持つ子どもについて、親の病気への理解の難しさ、社会的な偏見、感情面のケア、親子関係、支援の必要性などが整理されています。
親を支える立場としてだけではなく、子ども自身の人生や成長を持つ一人の人間として理解する必要性が指摘されています。
親の精神疾患がある家庭で見落とされやすい問題家庭内で問題が表面化しにくい理由の一つは、子どもが自分の生活を特別なものだと認識していない場合があることです。
例えば、毎日の食事を用意する、親の通院に付き添う、きょうだいの世話をすることが当たり前になっている子どもは、周囲に助けを求める必要性に気づかないことがあります。
また、親自身も病状や経済的な事情によって、子どもへの影響を十分に把握できない場合があります。
大切なのは、親の病気そのものを家庭の問題と決めつけるのではなく、子どもが安心して生活できているかを具体的に確認することです。
【うつ病・統合失調症】親の病気によって変わる子どもとの接し方
精神疾患にはさまざまな種類があり、症状によって家庭生活への影響も異なります。
ここでは、親のうつ病と統合失調症を中心に、子どもが経験しやすい状況と家族が意識したい対応を整理します。
親がうつ病の場合に子どもが経験しやすいことうつ病は、気分の落ち込みや意欲の低下、疲労感、睡眠や食欲の変化などが現れる病気です。
親がうつ病になると、これまでできていた家事や育児が難しくなる場合があります。
例えば、次のような変化です。
- 子どもと会話する時間が少なくなる
- 食事の準備や掃除が難しくなる
- 外出や学校行事への参加が減る
- 子どもの話に十分な反応を返せない
- 朝起きられず、家庭の生活リズムが崩れる
こうした状況が続くと、子どもは親に嫌われたのではないか、自分が何か悪いことをしたのではないかと不安になる可能性があります。
しかし、うつ病による意欲低下や反応の乏しさは、子どもへの愛情がなくなったことを意味するものではありません。
親がうつ病の場合、子どもにはどう接するべき?親がうつ病と診断された場合、子どもに対して必要以上に病気を隠すよりも、年齢や理解度に合わせて説明することが役立ちます。
例えば、次のような伝え方があります。
- 「今は心の病気を治すために休んでいるよ」
- 「あなたが悪いからこうなったわけではないよ」
- 「病院の先生と一緒に治療しているよ」
- 「困ったときは、ほかの大人にも相談していいよ」
子どもに親の病状を管理させたり、親の感情を常に気遣わせたりしないことも大切です。
親がつらいときに、子どもを唯一の相談相手にするのは避けたい対応です。配偶者や親族、医療関係者、自治体の相談員など、大人同士で支える体制を作ることが大切です。
親が統合失調症の場合の家庭環境統合失調症は、幻覚や妄想、意欲の低下、記憶力や理解力などの認知機能の変化が現れる精神疾患です。
厚生労働省の一般向け解説では、統合失調症は約100人に1人がかかる病気と説明されています。
症状が強い時期には、親の言動や生活習慣が変わり、子どもが戸惑う場合があります。
特に、幻聴や妄想などについて子どもが理解できないまま生活していると、親の行動を怖いと感じたり、家庭で安心できなくなったりする可能性があります。
一方、統合失調症は適切な治療と休養によって回復を目指せる病気です。
日本精神神経学会の妊娠・出産・子育てに関するQ&Aでも、統合失調症の診断を受けている人が出産や子育てをすることは可能であり、治療の継続と周囲のサポートが重要だと説明されています。
つまり、診断名だけで親としての能力や家庭の将来を判断することは適切ではありません。
家庭で意識したい対応の比較| 状況 | 子どもへの配慮 | 支援の方向性 |
|---|---|---|
| 親のうつ状態が強い | 親の反応が乏しくても自分を責めないよう説明する | 家事・育児の負担軽減 |
| 統合失調症の症状が不安定 | 親の言動に戸惑う子どもの気持ちを聞く | 医療機関と家族・支援者の連携 |
| 親の入院や療養 | 生活場所や世話をする大人を明確にする | 親族、自治体、福祉機関との調整 |
| 子どもが家事や介護を担う | 学校生活や自由時間を確保する | ヤングケアラー支援 |
| 子どもが不安や孤独を抱える | 安心して話せる第三者を確保する | スクールカウンセラーや心理的支援 |
親の病状を安定させることと、子どもの生活を守ることは、どちらか一方を選ぶ問題ではありません。両方を同時に支える視点が必要です。
【親の精神疾患は子どもに遺伝する?】遺伝的要因と環境要因の真実
親が精神疾患を抱えている家庭で、特に心配されやすいのが遺伝の問題です。
「親がうつ病なら子どももうつ病になるのか」「親が統合失調症なら子どもも発症するのか」といった疑問を持つ人は少なくありません。
この問題を考える際には、遺伝的な発症リスクと、実際に病気を発症することを区別する必要があります。
精神疾患には遺伝的要因が関係する日本精神神経学会の一般向けガイドでは、多くの精神疾患について、遺伝情報だけではなく環境要因なども組み合わさって発症に関係する多因子疾患として説明しています。
つまり、親から特定の精神疾患がそのまま受け継がれるという単純な仕組みではありません。
遺伝的な要素は発症リスクを高める可能性がありますが、同じ遺伝的特徴を持っていても、全員が同じ精神疾患になるわけではありません。
遺伝と環境はどのように関係する?子どもの精神的な健康には、次のような要素が関係します。
遺伝的要因
親や血縁者の持つ遺伝的特徴が、特定の精神疾患の発症しやすさに関係する場合があります。
家庭環境
家庭内の安心感、生活リズム、親子間のコミュニケーションなどが子どもの成長に関係します。
社会的環境
学校での人間関係、友人との交流、経済状況、地域の支援体制なども重要です。
支援へのアクセス
親が適切な治療を受けられるか、子ども自身が相談できる大人とつながっているかによって、家庭内の負担を軽減できる可能性があります。
遺伝が心配な場合は遺伝カウンセリングも選択肢日本精神神経学会は、子どもへの遺伝を心配する場合、遺伝カウンセリング体制の整った医療機関で相談することを勧めています。
遺伝カウンセリングでは、家族歴や病気に関する疑問、遺伝子検査で分かることと分からないことなどを専門家と確認できます。
ただし、精神疾患の将来の発症を確実に予測できるという意味ではありません。
親の診断を理由に、子どもの将来を悲観する必要はありません。遺伝的な心配がある場合も、個別の状況に応じて専門家に相談することが大切です。
【親の精神疾患とヤングケアラー】子どもが背負う見えにくい家庭内負担
親の精神疾患と深く関係する社会問題が、ヤングケアラーです。
ヤングケアラーとは、本来大人が担うと考えられる家族の介護や日常生活上の世話を、過度に行っている子ども・若者を指します。
親の精神疾患がある家庭では、身体的な介護だけでなく、感情面の支援や家庭の管理を子どもが担っている場合もあります。
2024年の法改正でヤングケアラー支援が強化こども家庭庁によると、2024年6月に成立した法改正によって、子ども・若者育成支援推進法にヤングケアラーが明記されました。
これにより、国や地方公共団体などが各種支援に努めるべき対象として、法律上位置づけられています。
支援の対象は、家族の世話をしている子どもすべてを一律にヤングケアラーと判定するというものではありません。年齢や成長に見合わない過度な負担が生じているかどうかが重要です。
ヤングケアラーの実態を示す公的調査厚生労働省が文部科学省と連携して実施した2020年度の全国調査では、家族の世話をしている人がいると答えた割合は次のとおりでした。
| 調査対象 | 世話をしている家族がいる割合 | 調査年度 |
|---|---|---|
| 中学2年生 | 5.7% | 2020年度 |
| 全日制高校2年生 | 4.1% | 2020年度 |
| 小学6年生 | 6.5% | 2021年度 |
| 大学3年生 | 6.2% | 2021年度 |
これらは家族の世話をしていると回答した割合であり、親に精神疾患がある子どもの割合を示す数字ではありません。
また、2026年版こども白書では、2025年度の調査において、18歳以上の若者のうち自分がヤングケアラーに当てはまると思う人の割合は2.3%とされています。
調査対象や質問内容が異なるため、単純に数値を比較することはできませんが、子ども・若者自身がケアの負担を認識できていない可能性も考える必要があります。
親の精神疾患がある家庭で子どもが担いやすい役割具体的には、次のような負担が考えられます。
- 親の食事や身の回りの世話
- 親の通院への付き添い
- 薬の管理や服薬の声かけ
- 親の話を聞き、精神的に支える
- きょうだいの食事や身支度の世話
- 家計や買い物、家庭内の手続きの管理
- 家庭で起きていることを学校や友人に隠す
特に見落とされやすいのが、感情面のケアです。
親が落ち込んでいるときに励ましたり、怒りや不安を受け止めたりすることが日常化すると、外からは子どもが家事や介護をしているように見えなくても、心理的な負担が蓄積することがあります。
子どもがヤングケアラーかもしれないと感じたら次のような状況が続いている場合は、学校や自治体に相談するきっかけになります。
- 親の状態が心配で友人と遊べない
- 家事や世話のために宿題ができない
- 親の体調によって登校や生活時間が左右される
- 家庭の問題を誰にも話せない
- 自分が家を離れると親が困ると感じている
- 自分の将来よりも親の生活を優先している
こども家庭庁のヤングケアラー特設サイトでは、学業、友人関係、就職などへの影響を紹介しています。
支援を求めることは、親を見捨てることではありません。子どもが年齢に応じた生活を送れるように、家庭の外から支える仕組みを利用することが大切です。
【2026年最新】親に精神疾患がある家庭で利用できる支援制度と相談先
2026年現在、親の精神疾患と子どもの生活上の困難については、複数の公的窓口や支援事業を組み合わせて対応することができます。
重要なのは、親の治療に関する相談と、子ども自身の生活や心理的な問題に関する相談を分けて考えることです。
1.精神保健福祉センター精神保健福祉センターは、都道府県や指定都市に設置されている公的な精神保健福祉の専門機関です。
厚生労働省の資料では、全国に69か所設置されており、医師、精神保健福祉士、公認心理師、保健師などの専門職が配置されることが示されています。
主な相談内容は次のとおりです。
- うつ病や統合失調症などの精神疾患
- 家族の精神疾患に関する悩み
- 精神科医療機関への受診や治療継続
- 思春期・青年期のメンタルヘルス
- 家庭内の問題やひきこもり
- アルコールや薬物などの依存症
親本人だけでなく、家族や周囲の人が相談できることも特徴です。
親の病状によって子どもの生活に問題が生じている場合、どのような支援機関につなげるべきか相談できます。
2.こころの健康相談統一ダイヤル厚生労働省が案内している全国共通の公的電話相談窓口です。
電話番号:0570-064-556
電話をかけた所在地の都道府県・政令指定都市が実施する公的な相談機関につながります。
相談できる曜日や時間は地域によって異なります。利用前に厚生労働省の最新の窓口一覧を確認してください。
精神的な悩みを抱えている本人だけでなく、家族の問題で困っている場合にも相談先を探す入口になります。
3.こども家庭センターこども家庭センターは、市区町村に設置される子育て家庭や子どもの相談支援機関です。
母子保健と児童福祉の機能を一体的に運用し、妊産婦、子育て家庭、子どもからの相談に対応します。
具体的には、次のような支援が期待できます。
- 子育てや家庭生活に関する相談
- 子どもの生活状況の確認
- 家庭の状況に応じたサポートプランの作成
- 関係機関との連携
- 必要な子育て支援サービスの調整
親の精神疾患によって育児が難しくなっている場合にも、家庭全体の状況を相談する窓口として活用できます。
4.こども家庭庁のヤングケアラー相談窓口こども家庭庁は、ヤングケアラー向けの特設サイトで相談窓口を検索できる仕組みを提供しています。
相談方法には、次のようなものがあります。
- 対面相談
- 訪問相談
- 電話相談
- SNS相談
- オンライン交流会
- 対面交流会
加えて、家事・育児支援、配食、学習支援、キャリア支援などのサポート内容からも検索できます。
本人が自分の家庭をヤングケアラーの問題だと認識していない場合でも、学校の先生やスクールカウンセラーなどを通して相談することが可能です。
5.子育て世帯訪問支援事業2026年の支援情報で特に確認しておきたいのが、こども家庭庁の子育て世帯訪問支援事業です。
訪問支援員が家庭を訪問し、家事や子育ての負担を軽減するための支援を行います。
対象には、家事や育児に不安・負担を抱える家庭やヤングケアラーがいる家庭などが含まれます。
主な支援内容は次のとおりです。
- 家事や育児のサポート
- 家庭が抱える悩みの傾聴
- 養育環境の改善
- 必要な支援機関との連携
こども家庭庁の2026年度資料では、実施要綱が2026年4月8日付で更新され、同年10月22日には実施状況の公表資料も差し替えられています。
実際に利用できる内容や条件は自治体によって異なるため、住んでいる市区町村のこども家庭センターなどに問い合わせることが必要です。
6.親本人が利用できる自立支援医療制度親の精神疾患の治療費が家計を圧迫している場合は、自立支援医療制度の精神通院医療について確認する方法があります。
厚生労働省によると、この制度は継続的な精神科通院医療が必要な人を対象に、医療費の自己負担を軽減する公費負担医療制度です。
対象となる疾患には、次のようなものがあります。
- 統合失調症
- うつ病などの気分障害
- てんかん
- ストレス関連障害
- その他の対象となる精神疾患
制度の利用には所定の要件や申請手続きがあります。詳しくは市区町村の障害福祉担当窓口や通院先の医療機関に相談してください。
この制度は親の通院医療費を支援するものであり、子ども本人への給付制度ではない点には注意が必要です。
相談先と支援制度の選び方| 相談先・制度 | 主な対象 | 相談・支援内容 |
|---|---|---|
| 精神保健福祉センター | 親・家族 | 精神疾患、受診、家族の悩み |
| こころの健康相談統一ダイヤル | 本人・家族 | 地域の公的な電話相談 |
| こども家庭センター | 子ども・保護者 | 家庭生活、育児、子どもの支援 |
| ヤングケアラー相談窓口 | 子ども・若者 | ケア負担、生活、学習、交流 |
| 子育て世帯訪問支援事業 | 子育て家庭 | 家事・育児の訪問支援 |
| 自立支援医療(精神通院医療) | 親本人 | 精神科通院医療費の負担軽減 |
親の精神疾患を持つ子どもだけを対象にした一つの制度を探すよりも、親の治療、家庭の生活支援、子どもの心理的支援を組み合わせて考えることが現実的です。
【家庭でできる支援】親も子どもも無理をしないための判断基準
公的制度につながることと同じくらい大切なのが、家庭内で子どもに過度な責任を負わせないことです。
親が精神疾患を抱えている場合、家族全員が無理をして生活を維持しようとするのではなく、外部の支援を取り入れながら役割を調整が必要です。
親が意識したい4つのポイント1.病気について年齢に応じて説明する
親の病気を完全に隠すと、子どもが自分なりの理由を考え、不安を強めることがあります。
病名を詳しく説明する必要はありませんが、親が病気の治療を受けていること、子どもの責任ではないこと、困ったときに頼れる大人がいることを伝えるとよいでしょう。
2.子どもを親の精神的な支えにしすぎない
子どもに悩みを聞いてもらうこと自体がすべて問題というわけではありません。しかし、親の感情を安定させる役割を継続的に担わせることは避ける必要があります。
親の相談相手は、医師、カウンセラー、家族、支援者など大人の中に確保しましょう。
3.家庭内の生活リズムを守る
親の調子が悪い時期に備えて、食事や登校、緊急時の連絡などについて、親族や支援者とあらかじめ話し合っておくと安心です。
特に、親が入院する可能性がある場合は、子どもの生活場所や世話を担当する大人を事前に決めておくことが大切です。
4.親自身も支援を受け入れる
支援サービスを利用することは、親としての責任を放棄することではありません。
日本精神神経学会の一般向け情報でも、精神疾患を抱えながら子育てをする際には、公的サポートや育児ヘルパーなどを利用することが勧められています。
周囲の大人ができること親族、学校、地域の支援者も、子どもの様子を継続的に確認が必要です。
特に学校では、次のような変化に気づくことがあります。
- 遅刻や欠席が増える
- 授業中に眠そうにしている
- 友人との交流が減る
- 学習への集中が難しくなる
- 家庭のことを過度に心配する
こうした変化があった場合、本人を責めたり、家庭の事情を無理に聞き出したりするのではなく、安心して話せる環境をつくることが必要です。
2025年に九州神経精神医学に掲載されたCOPMI(精神疾患を持つ親の子ども)に関する総説では、精神科患者と子どもへのインタビュー調査から、親の精神疾患が子どもの学校不適応のリスク要因の一つとなる可能性が示されました。
同研究では、医療従事者や教員などの専門職と一緒に読むことを想定した心理教育ツールも紹介されています。
親の病気について、子どもが自分のせいではないと理解し、必要なときに相談できることを知る機会が求められています。
支援を急いだほうがよい状況親の症状が悪化し、子どもが食事や睡眠、登校など基本的な生活を維持できない場合には、早めに自治体や医療機関に相談してください。
また、子どもの安全が確保できない、虐待や暴力がある、親の急激な病状悪化によって養育が困難になっている場合は、児童相談所や緊急の支援機関につなぐ必要があります。
親が自傷や自殺をほのめかしている場合も、子どもだけに対応を任せず、主治医や緊急の医療機関など大人の支援につなげてください。
【親の精神疾患に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:親に精神疾患があると、子どもも精神疾患になりますか?
A1:必ず発症するわけではありません。精神疾患には遺伝的要因が関係する場合がありますが、環境要因なども組み合わさって発症リスクが決まります。親の診断だけで子どもの将来を判断することはできません。不安が強い場合は、専門医や遺伝カウンセリングで相談できます。
Q2:親がうつ病の場合、子どもにはどのように接すればよいですか?
A2:子どもの年齢や理解度に合わせて、親が病気の治療を受けていることを説明しましょう。親の病気は子どものせいではないことも伝える必要があります。また、子どもに親の世話や精神的な支えを過度に担わせず、ほかの大人が家庭を支える体制を整えることが大切です。
Q3:親が統合失調症でも子育てはできますか?
A3:できます。日本精神神経学会は、適切な治療の継続と周囲のサポートがあれば、統合失調症の診断を受けている人も出産や子育てが可能だと説明しています。病状に合わせた治療計画と、家族・医療機関・自治体による支援体制を整えることが重要です。
Q4:親の精神疾患が原因で子どもがヤングケアラーになることはありますか?
A4:あります。親の通院付き添い、身の回りの世話、家事、きょうだいの世話、感情面のサポートなどを子どもが過度に担っている場合、ヤングケアラーとして支援が必要になる可能性があります。
Q5:親の精神疾患について子どもはどこに相談すればよいですか?
A5:学校の先生、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、市区町村のこども家庭センター、こども家庭庁のヤングケアラー相談窓口などが相談先になります。親の病気や家族全体の問題については、精神保健福祉センターにも相談できます。
Q6:親の精神疾患がある家庭で利用できる支援制度はありますか?
A6:あります。子育て世帯訪問支援事業、家庭支援事業、自立支援医療(精神通院医療)などが選択肢です。利用条件やサービス内容は自治体によって異なるため、こども家庭センターや市区町村の障害福祉担当窓口で確認してください。
親に精神疾患がある家庭では、子どもが不安や孤独を抱えたり、家事や親の世話を過度に担ったりすることがあります。こうした問題は家庭の外から見えにくく、子ども自身も支援が必要だと気づかない場合があります。
一方、親が精神疾患を持っていることだけで、子どもの将来や親としての能力が決まるわけではありません。適切な治療、家庭環境の調整、周囲の理解、子ども自身への心理的支援によって、生活上の負担を軽減できる可能性があります。
2026年現在、ヤングケアラーへの法的な位置づけが進み、こども家庭庁の相談窓口や訪問支援事業、自治体のこども家庭センターなど、利用できる支援の選択肢も広がっています。
大切なのは、親の治療だけでなく、子どもが安心して学び、遊び、自分の将来を考えられる環境を確保することです。
親が病気を抱えていても、子どもは子どもらしく生活する権利があります。家庭だけで抱え込最初に、医療、福祉、教育、行政が連携して支えることが、親と子どもの双方を守るための第一歩です。
主な参考資料・情報源
- 厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」
- 厚生労働省「精神保健福祉センターについて」
- 厚生労働省「自立支援医療制度」
- こども家庭庁「ヤングケアラーについて」
- こども家庭庁「令和8年版こども白書」
- こども家庭庁「子育て世帯訪問支援事業について」
- 日本精神神経学会「こころの病気と遺伝に関するQ&A」
- 日本精神神経学会「統合失調症の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A」
- 田野中恭子「精神疾患の親をもつ子どもの困難」2019年
- 岩根由佳・平野真理「精神疾患の親をもつ子どもに関する研究の動向と課題」2024年
- 松岡美智子・小曽根基裕「精神疾患患者を親にもつ子ども―COPMIの理解と支援」2025年