サバクトビバッタは、普段は砂漠や半乾燥地帯に少数で生息しているにもかかわらず、気象条件が重なると巨大な群れを形成し、国境を越えて移動する驚異的な昆虫だ。農作物を大量に食べ尽くすだけでなく、家畜の飼料となる植物まで減少させ、地域の食料安全保障や農村経済を脅かす。
2026年11月5日時点で注目されるのは、年初から西サハラやモロッコで続いた発生が、夏以降に落ち着きを見せていることだ。国連食糧農業機関(FAO)の最新月報では、2026年9月の世界的な発生状況はおおむね平穏とされ、西部地域では孤立した成虫が確認されている。一方、雨季や植生の変化によって再び繁殖が活発化する可能性は残っている。
なぜサバクトビバッタは突然大発生するのか。孤独相から群生相への変化、驚異的な飛翔能力、農作物への被害、2026年の最新発生地域、FAOの監視システム、日本への飛来可能性まで、生態学と国際的な防除活動の両面から解説する。
【基本知識】サバクトビバッタとは?学名・分類・生態と特徴

サバクトビバッタは、アフリカから中東、南西アジアにかけて分布する大型のトビバッタである。英語ではDesert Locustと呼ばれ、学名はSchistocerca gregaria。大量発生時には成虫が巨大な群れを形成し、幼虫も集団で移動する。
サバクトビバッタの基本プロフィール分類上は昆虫綱、バッタ目(直翅目)、バッタ科に属する。一般的なバッタと異なる最大の特徴は、個体密度に応じて行動や体の特徴を変える「相変異」を持っていることだ。
- 和名:サバクトビバッタ
- 英名:Desert Locust
- 学名:Schistocerca gregaria
- 分類:昆虫綱・バッタ目・バッタ科
- 主な分布:西アフリカ、サハラ砂漠、中東、アラビア半島、南西アジア、インド西部
- 主な食物:草本植物、葉、茎、花、果実、穀物など
- 主な特徴:相変異、高い繁殖能力、長距離飛翔能力
バッタ科には約6800種が知られているが、そのうち相変異を示して大規模な群れを形成する真正のトビバッタは約20種とされる。サバクトビバッタはその代表的な存在だ。
日本に生息するトノサマバッタもトビバッタの一種だが、サバクトビバッタとは別の種類であり、学名も異なる。さらに南米で発生するミナミアメリカトビバッタ(Schistocerca cancellata)も同属の別種である。これらを同一種として扱うのは誤りだ。
幼虫と成虫の見分け方サバクトビバッタの成長段階は、卵、幼虫、成虫の3段階に分けられる。幼虫は翅がなく、地上を歩いたり跳ねたりして移動する。一方、成虫には翅が発達し、長距離飛翔が可能になる。
FAOの生態資料によると、通常の発育条件では卵の孵化に約2週間、幼虫から成虫になるまでに約6週間を要する。幼虫は脱皮を5~6回繰り返し、最後の脱皮で翅を持つ成虫へ変化する。
成虫になった直後は翅が柔らかく、持続的な飛翔には適さない。翅が硬化すると、風に乗った長距離移動が可能になる。
群生相と孤独相では色も行動も違う外見を見分ける際に参考になるのが、群生相と孤独相の違いだ。
- 孤独相の幼虫:一般に緑色系で、周囲の環境に溶け込みやすい。
- 群生相の幼虫:初期は黒色を基調とし、成長すると黄色と黒色の模様が目立つ。
- 孤独相の成虫:一般に褐色系。
- 群生相の未成熟成虫:ピンク色や赤みを帯びる。
- 群生相の成熟成虫:黄色系の色彩になる。
ただし、色だけで相を判断することはできない。色彩や体形の変化よりも行動の変化が早く進むため、個体が集団で移動しているか、互いに接近する傾向があるかなども観察する必要がある。
【発生メカニズム】サバクトビバッタはなぜ突然大発生する?雨と相変異の秘密
サバクトビバッタの大発生は、単に雨が降っただけで起こるわけではない。干ばつ、大雨、植物の生育、土壌の水分、風向き、季節的な移動、個体密度の変化が複雑に絡み合っている。
干ばつの後の大雨が繁殖の引き金になる通常、サバクトビバッタは年間降水量の少ない乾燥地域や半乾燥地域に生息している。雨が少ない時期には餌となる植物が限られ、個体数も比較的少ない。
ところが、干ばつの後にまとまった雨が降ると状況が変わる。
- 乾燥状態:個体数が少なく、孤独相のバッタが広範囲に分散している。
- 降雨:砂漠や半乾燥地帯に雨が降り、地面に水分が蓄積する。
- 植生の増加:野草や植物が急速に成長し、餌が豊富になる。
- 繁殖の活発化:成虫が成熟し、交尾と産卵が進む。
- 個体密度の上昇:乾燥が進むと餌の残る場所に個体が集中する。
- 群生相化:個体同士の接触が増え、集団行動を示すようになる。
- 大群の形成:幼虫の集団や成虫の群れが形成され、別の地域へ移動する。
特に重要なのは、雨が降った後の植生と土壌の状態だ。サバクトビバッタは湿った砂質土壌に産卵し、幼虫は周囲の植物を食べて成長する。そのため、餌と産卵場所の両方が整うと繁殖が進みやすい。
国際農研の解説では、2020年に深刻化した大発生について、干ばつの後にサイクロンがもたらした大雨が繁殖に適した環境を作ったことが主要な要因として挙げられている。
群生相と孤独相を切り替える「相変異」とは相変異とは、周囲の個体密度などの環境条件に応じて、同じ種類の昆虫が行動、形態、生理的特徴を変化させる現象である。
サバクトビバッタの場合、孤独相はほかの個体を避ける傾向がある。一方、群生相になると、ほかの個体に引き寄せられ、集団で移動するようになる。
この変化は一度に起こるものではない。行動面の変化は数時間単位で進む場合があるが、体色や形態の変化には数日から数週間かかる。
つまり、見た目がまだ孤独相に近い個体でも、行動面ではすでに群生相の性質を示していることがある。
1921年にはロシアの昆虫学者ボリス・ウバロフが、トノサマバッタなどの相変異に関する重要な研究を発表した。この発見は、バッタの大発生を理解する研究の出発点の一つとなった。
脳や神経系も関係する相変異の仕組み相変異の研究では、個体同士の接触や視覚・嗅覚による刺激が重要な役割を果たすことが分かっている。
特にサバクトビバッタでは、後脚への触覚刺激によって行動が群生相化することが実験で確認されている。神経伝達物質のセロトニンも、初期の行動変化に関係することが研究で示されている。
2014年に発表された研究では、孤独相の個体に混み合いなどの刺激を与えることで、数時間以内に活動性やほかの個体への接近傾向が変化することが報告された。
ただし、実験室で確認された神経系の仕組みだけですべての大発生を説明できるわけではない。実際の野外では、雨や植生、季節的な移動、複数世代にわたる個体密度の変化などが重なっている。
国際農研も、野外における生態情報の不足を課題として挙げており、相変異の全体像には引き続き研究が必要だ。
繁殖条件と産卵の仕組みメスのサバクトビバッタは、湿った砂地などの地中に卵を産む。腹部を伸ばして土を掘り、地表からおよそ10~15cmの深さに卵をまとめて産み付ける。
FAOの資料によると、孤独相のメスは1つの卵塊に約95~158個の卵を産むのに対し、群生相のメスでは通常80個未満とされる。メスは生涯に少なくとも3回産卵することができ、産卵間隔は一般に6~11日程度だ。
群生相のメスは一度の産卵数が少ない場合もあるが、群れ全体の個体数や産卵場所の密集によって、結果として大規模な繁殖につながる。
好適な環境で繁殖が続くと、個体数は急激に増加する。FAOは、世代交代ごとに個体数が約20倍になる場合があると説明している。3か月で20倍、6か月で400倍という増加が起こり得るため、初期段階の発見が極めて重要になる。
【2026年最新情報】サバクトビバッタの発生状況と現在の生息地域を時系列で検証
2026年のサバクトビバッタは、年初から西部地域を中心に発生が続いた。特に西サハラとモロッコでは繁殖が進み、アルジェリアにも成虫の群れが広がった。
しかし、発生は年間を通じて一方向に拡大したわけではない。FAOの月報や地域別の発生情報を追うと、春から夏にかけて活動が活発になった後、9月には全体として平穏な状態に移行したことが分かる。
2026年の主な発生状況| 時期 | 主な発生地域 | 確認された状況 |
|---|---|---|
| 2026年1月 | モーリタニア、西サハラ | 成虫の群れや小規模な群れが確認され、モロッコ方面への移動も報告された。 |
| 2026年2~3月 | 西サハラ、モロッコ、アルジェリア | 成虫の群れが増加し、繁殖が再開。一部はカナリア諸島やアルジェリアにも到達した。 |
| 2026年4~5月 | モロッコ、アルジェリア | 幼虫の集団や小規模な群れが形成され、モロッコで繁殖が継続した。 |
| 2026年6月 | モロッコ | 幼虫と成虫の群れが広範囲で確認され、5月の防除面積は約4万1792ヘクタールに達した。 |
| 2026年7月 | モロッコ、アルジェリア、モーリタニア | モロッコで成虫の群れが広がり、6月の防除面積は約8万8501ヘクタールに増加した。 |
| 2026年9月 | 西部・中央部・東部の繁殖地域 | FAOの月報では3つの繁殖地域全体でおおむね平穏。西部地域では孤立した成虫が確認された。 |
この経過から分かるのは、2026年の発生が主として北西アフリカの西部地域に集中し、夏の終わりから秋にかけて落ち着いたことだ。
特に注目したいのが防除面積である。FAOの2026年7月7日付の発生情報によると、6月に処理された面積は88,501ヘクタールに達し、5月の41,946ヘクタールから大きく増加した。これはモロッコを中心とする発生への対応が強化されていたことを示している。
一方、9月の最新月報では、全体として平穏な状況が報告された。2026年11月5日時点でFAOのLocust Watchに掲載されている最新月報は、9月分の第576号である。したがって、2026年の状況を「世界各地で巨大な大群が拡大し続けている」と理解するのは正確ではない。
なお、平穏という評価は、すべての地域からバッタが消滅したことを意味しない。孤立した個体が残っていれば、降雨と植生の条件が整った際に再び繁殖する可能性がある。
現在の主な生息地域はどこなのかサバクトビバッタの通常の生息範囲は、西アフリカのモーリタニアからサハラ砂漠、中東、アラビア半島を経て、インド西部に至る乾燥地域だ。
FAOによれば、発生が落ち着いている時期の生息範囲は、年間降水量200mm未満の半乾燥・乾燥地域を中心とする約30か国、約1600万平方kmに及ぶ。
一方、大発生が進行すると、普段はサバクトビバッタがほとんど確認されない地域にも侵入する。深刻な蝗害(こうがい)の段階では、最大約60か国、地球上の陸地面積の約20%に相当する地域が影響を受ける可能性がある。
重要なのは、通常の生息地域と、大発生時に一時的に侵入する地域を区別することだ。ある国で一度確認されたからといって、その国が恒常的な繁殖地になったとは限らない。
【飛翔能力と農業被害】1日150km移動する群れが食料危機を招く理由
サバクトビバッタが世界的な農業問題になる理由は、繁殖能力だけではない。広範囲を移動できる飛翔能力と、非常に幅広い食性が被害を拡大させる。
1日130~150km以上移動する飛翔能力FAOの資料によると、サバクトビバッタの群れは風に乗って時速約16~19kmで飛翔する。日中に飛び、日没前に地上へ降りる行動が一般的で、条件が整えば1日130~150km以上移動する。
国際農研の解説でも、群生相の群れが1日に100km以上移動することが紹介されている。
また、移動距離の長さを示す歴史的な事例として、1988年には西アフリカから大西洋を越えてカリブ海に到達したことが記録されている。移動距離は4000km以上と考えられている。
群生相は主に日中に飛翔する一方、孤独相の成虫も長距離移動すると考えられており、夜間に移動する傾向がある。したがって、長距離移動は群生相だけの能力ではない。
農作物への食害はどれほど深刻なのかサバクトビバッタは非常に広い食性を持ち、500種類以上の植物を食べると国際農研は説明している。
主な食害対象には、次のような農作物がある。
- トウモロコシ
- コムギ
- ソルガム
- トウジンビエ
- サトウキビ
- ワタ
- 果樹や野菜
- 牧草や野生植物
葉や茎だけでなく、花、果実、種子なども食べるため、農作物の生育段階によっては収穫量に大きな影響が出る。
FAOの公表データでは、成虫1匹が1日に食べる量は体重とほぼ同じ約2gとされる。加えて、1平方kmの群れには約4000万~8000万匹の成虫が存在する場合がある。
FAOが示す試算では、4000万匹の群れが1日に消費する食料は、約3万5000人分に相当する。
この数字は、単に農作物が食べられるという問題ではない。家畜が食べる牧草まで失われれば、畜産業や農村住民の生活にも影響する。収穫の減少、家畜の飼料不足、食料価格の上昇が重なると、地域全体の食料安全保障が脅かされる。
大発生が食料危機に発展する構造サバクトビバッタの被害が深刻なのは、被害を受けた農家が次の作付けに必要な種子や家畜まで手放さなければならなくなる場合があるからだ。
農作物を失えば収入が減少し、家畜の飼料も不足する。生活費を確保するために家畜を売却すれば、その後の農業生産を支える資産も失われる。
このように、蝗害は農業だけの問題ではなく、地域経済、栄養状態、貧困、食料供給にまで連鎖する危機なのである。
【日本への飛来可能性】サバクトビバッタは日本にもやって来るのか
アフリカからインドまで移動できるサバクトビバッタが、日本に到達する可能性はあるのだろうか。
結論からいえば、理論上の可能性を完全に否定することはできないものの、現在の科学的知見では日本への飛来や定着は極めて起こりにくいと考えられている。
日本への飛来に必要な3つの条件国際農研の解説では、日本への飛来が成立するには、少なくとも次の条件が重なる必要があると考察されている。
- 出発地に大量の個体が存在すること:長距離移動を起こせる規模の群れが形成されている必要がある。
- 気象条件が整うこと:風向き、風速、気温、天候などが長距離移動に適していなければならない。
- 飛翔に必要なエネルギーがあること:長時間の飛翔に耐えられる栄養状態である必要がある。
これらが同時に成立する可能性は極めて低いとされている。
日本の気候は繁殖・定着に適しているのかサバクトビバッタは乾燥した環境に適応した昆虫であり、日本のように降水量が多い地域とは生息環境が大きく異なる。
国際農研の解説では、幼虫は19℃以下で発育できず、成虫も20℃以下では性成熟して繁殖することが難しいとされている。また、卵は10℃以下の環境に2週間置かれると、ほぼ死滅すると説明されている。
もちろん、日本にも夏季の高温地域や乾燥した裸地は存在する。しかし、飛来できることと、そこで継続的に繁殖して個体群を維持できることは別の問題だ。
特に日本は降水量が多く、湿度や冬季の低温も生息環境を制限する要因になり得る。
トノサマバッタとの混同にも注意日本ではトノサマバッタが大量発生することがある。また、海外で報道されたバッタの大群が、すべてサバクトビバッタというわけでもない。
国際農研は、南米で発生するミナミアメリカトビバッタとサバクトビバッタを区別している。種類の違うバッタの映像やニュースを、サバクトビバッタの日本接近と結び付けるのは誤解につながる。
2026年11月5日時点で、FAOの最新月報にも日本への侵入を示す情報は掲載されていない。現状では、日本国内で大規模な被害を想定するより、発生地域の変化と国際的な監視情報を確認することが適切だ。
【防除と国際研究】FAOの監視システムと国際農研の対策最前線
サバクトビバッタの大発生を抑えるには、群れが巨大化してから駆除するのでは遅い。繁殖の初期段階で発生場所を特定し、幼虫の集団や成虫の小規模な群れを早期に発見する必要がある。
FAOのLocust WatchとはFAOは、サバクトビバッタの発生状況を世界規模で監視するため、Desert Locust Information Service(DLIS)を運用している。
その情報発信の中心となるのが「Locust Watch」だ。発生地域の現地調査データ、気象情報、植生、土壌水分、衛星画像などを組み合わせ、現在の発生状況や今後の移動・繁殖リスクを評価している。
主な機能は以下のとおりだ。
- 発生状況の把握:各国の調査機関から送られる現地データを集約する。
- 気象・環境分析:降雨量、土壌水分、植生の変化を分析する。
- 発生予測:繁殖や移動の可能性を評価し、最大6週間先までの予測を提供する。
- 早期警戒:被害が拡大する可能性のある国や地域に警告を発する。
- 国際協力:各国の防除活動や技術支援を調整する。
監視に使われる衛星データは、バッタの個体や群れを直接見つけるためだけのものではない。主に植物の生育状況や土壌水分などを把握し、バッタが繁殖しやすい場所を予測するために利用されている。
また、現地の調査員が使用するeLocust3などのデジタルツールを通じて、バッタの発見地点や密度、幼虫・成虫の状態などが収集される。情報は各国の調査機関を経てFAOに送られ、監視や予測に活用される。
2026年はドローンを使った防除技術も強化2026年9月20日、FAOの中央地域砂漠バッタ防除委員会(CRC)と西部地域の関係機関は、モーリタニアでドローンを利用した防除能力の強化に取り組んだ。
訓練では、精密な薬剤散布に対応する専用ドローンの運用、飛行計画、散布装置の調整、気象条件の確認、安全管理などが扱われた。
ドローンの利点は、従来の車両や航空機では調査・作業が難しい地域にも対応しやすいことだ。小規模な発生を早期に把握し、必要な場所に絞って防除できれば、薬剤使用量や環境への影響を抑えられる可能性がある。
ただし、ドローンだけで世界規模の蝗害を解決できるわけではない。現地調査員の育成、正確なデータの収集、各国の農業行政との連携が不可欠となる。
主な防除方法は薬剤・生物農薬・早期発見現在のサバクトビバッタ対策では、主に次の方法が使われている。
- 化学農薬:成虫の群れや幼虫の集団に対して、適切な薬剤を散布する。
- 生物農薬:昆虫病原性の糸状菌Metarhizium acridumなどを利用する。
- 昆虫成長制御剤:脱皮や成長を阻害する薬剤を活用する。
- 早期監視:小規模な群れや産卵場所を発見し、被害が拡大する前に対応する。
FAOが紹介するMetarhizium acridumは、バッタなどに感染する昆虫病原菌を利用した生物農薬だ。感染後すぐに死亡するわけではないが、摂食活動を低下させ、時間をかけて個体を死滅させる。
化学農薬の大量使用には、ミツバチなどの有益な昆虫や家畜、周辺環境への影響という課題がある。そのため、FAOは適切な訓練を受けた専門チームによる、対象を絞った防除を重視している。一般住民や農家が独自に薬剤散布を行うことは推奨されていない。
国際農研の研究が明らかにした特異な繁殖行動日本の国立研究開発法人・国際農林水産業研究センター(国際農研)も、サバクトビバッタの生態解明と防除技術の開発に取り組んでいる。
特に注目されるのが、2021年10月12日に公表された繁殖行動に関する研究成果だ。
国際農研は、モーリタニアのサハラ砂漠で2011~2019年に野外調査を実施し、成虫の交尾や産卵の行動を詳しく調べた。
その結果、調査対象となった集団では、オスが集まる場所に産卵直前のメスが飛来して交尾し、夜間になるとペアで集団産卵する行動が確認された。
この発見は、防除の方法を考えるうえで重要な意味を持つ。
オスの集団が産卵場所を予測する手掛かりになるため、昼間にオスの集団を発見した場合、夜間の集団産卵のタイミングを考慮して防除する方法が検討できる。広大な砂漠を無差別に調査・散布するのではなく、バッタ自身の行動を利用して対象を絞る考え方だ。
この研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。生態の理解が進めば、農薬の使用量を抑えながら防除効率を高められる可能性がある。
国際農研はその後も、モーリタニアの防除機関などと連携し、群生相の幼虫や成虫がどこに集まるのか、いつ移動するのかといった野外生態の調査を進めている。
サバクトビバッタ対策が難しい本当の理由防除を困難にする要因は、バッタの強さだけではない。
第一に、発生場所が広大であること。サハラ砂漠などの遠隔地は道路や通信設備が十分ではなく、調査員が現地に到達すること自体が難しい。
第二に、発生時期が不規則であること。長期間ほとんど発生しない時期が続いた後、異常気象をきっかけに突然繁殖が進むことがある。
第三に、国境を越えて移動することだ。ある国が防除を進めても、隣国で繁殖した群れが移動してくれば、新たな被害が発生する可能性がある。
したがって、長期的な対策には、各国が単独で防除するだけでなく、FAOを中心とした情報共有と地域間の連携が欠かせない。
【よくある質問】サバクトビバッタに関するFAQ
Q1:サバクトビバッタはなぜ突然大量発生するのですか?
A1:干ばつ後の大雨によって植物が増え、湿った土壌が産卵に適した状態になると繁殖が活発化します。その後、個体が集中して接触することで群生相化が進み、大群を形成することがあります。
Q2:サバクトビバッタは1日に何km移動できますか?
A2:風に乗って1日130~150km以上移動する場合があります。1988年には西アフリカからカリブ海まで4000km以上移動したと考えられる事例もあります。
Q3:サバクトビバッタは日本にも飛来しますか?
A3:可能性を完全に否定することはできませんが、飛来に必要な大群、風向き、気温などの条件が重なる確率は極めて低いと考えられています。日本の気候や環境も、継続的な繁殖には適さない可能性があります。
Q4:2026年現在、サバクトビバッタはどこで発生していますか?
A4:2026年の年初から夏にかけては西サハラ、モロッコ、アルジェリアなどで発生が報告されました。FAOの最新月報である2026年9月分では、3つの繁殖地域全体でおおむね平穏とされ、西部地域では孤立した成虫が確認されています。
Q5:サバクトビバッタの幼虫と成虫はどう見分けますか?
A5:幼虫には翅がなく、成虫には飛翔に使う翅があります。また、群生相の幼虫は黒色や黄色と黒色の模様、群生相の成虫は未成熟時にピンク色、成熟時に黄色系になる傾向があります。
Q6:サバクトビバッタは何を食べますか?
A6:500種類以上の植物を食べる広食性の昆虫です。トウモロコシ、コムギ、ソルガム、サトウキビ、果樹、野草、牧草などが主な食害対象になります。
Q7:FAOはどのようにサバクトビバッタを監視していますか?
A7:各国から送られる現地調査データに、気象情報、土壌水分、植生、衛星画像などを組み合わせています。Locust Watchを通じて発生状況や予測を公表し、早期警戒と国際的な防除活動につなげています。
サバクトビバッタが突然大発生する背景には、雨と植生の変化、繁殖環境の改善、個体密度の上昇、そして孤独相から群生相への相変異という複数の仕組みがある。
特に注目すべきなのは、環境の変化に応じて個体の行動が短時間で変化し、集団で移動するようになる点だ。1日150km以上移動する能力と、世代交代ごとの急速な個体数増加が組み合わさることで、被害は国境を越えて拡大する。
2026年の発生状況を見ると、西サハラやモロッコを中心に春から夏にかけて防除活動が強化された一方、9月には全体として平穏な状況が報告された。ただし、乾燥地帯の降雨や植生の変化によって、新たな繁殖が始まる可能性は残されている。
今後の対策で重要になるのは、巨大な群れが形成される前に発生を把握することだ。FAOの監視システム、衛星データ、ドローンによる調査、国際農研の野外研究は、そのための重要な基盤となる。
サバクトビバッタの問題は、単なる害虫駆除ではない。農業生産、食料安全保障、地域経済、国際協力が結び付いた地球規模の課題である。2026年以降も、発生地域の最新情報と降雨・植生の変化を継続して確認することが、被害を最小限に抑えるための重要な判断材料となる。
主な参考資料・情報源
- 国連食糧農業機関(FAO)「Desert Locust Bulletin」「Locust Watch」
- FAO「Desert Locust Q&A」
- 国際農林水産業研究センター「サバクトビバッタについて」(2025年8月8日)
- 国際農研「サバクトビバッタの特異な繁殖行動を解明」(2021年10月12日)
- FAO中央地域砂漠バッタ防除委員会(CRC)2026年9月のドローン防除訓練発表