「One Last Kiss」のミュージックビデオを監督したのは、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の総監督である庵野秀明です。アーティストとアニメーション監督という立場を超え、両者の関係が映像作品としても結実した事例です。
興味深いのは、その撮影方法です。宇多田ヒカル側からの制作オファーを受けた庵野監督は、撮影現場で直接演出するのではなく、本人が撮影した素材を受け取り、それを編集して作品に仕上げる方法を提案しました。
当時は新型コロナウイルス感染症への対策が必要な時期でした。宇多田ヒカルは少人数のスタッフとともにロンドン郊外で撮影し、スマートフォンなど複数の機材で撮った映像を日本に送付。庵野監督らが編集を担当しました。
この制作過程は、宇多田ヒカルの公式YouTubeチャンネルでも紹介されています。映像には日常の延長にあるような自然な表情や風景が含まれ、作品全体からは、過ぎ去った大切な時間を振り返るような感覚が生まれています。
アニメーションの登場人物や劇中シーンを中心に構成するのではなく、アーティスト本人の記録映像を主体にしたことも特徴です。楽曲が持つ個人的な記憶や別れの感覚と、映像の親密さがよく調和しています。
Beautiful World (Da Capo Version)はなぜ作られた?完結編を語るうえで、「One Last Kiss」と並んで欠かせないのが「Beautiful World (Da Capo Version)」です。
この曲は、庵野秀明総監督から宇多田ヒカルに直接オファーがあったことで制作されました。2021年3月8日付のエヴァンゲリオン公式発表によると、完結編のエンディングロールがシリーズ最長になることが想定され、「One Last Kiss」だけでは長さが足りないという事情もありました。
そこで庵野監督は、シリーズ第1作のテーマソングだった「Beautiful World」を最後に加え、新劇場版全体のエンディング曲にしたいという意向を伝えました。宇多田ヒカルはこれを快諾し、原曲をゼロからリメイク。完成した2曲は「One Last Kiss」から「Beautiful World (Da Capo Version)」へと続くメドレー形式で使用されました。
「Da Capo」は音楽用語で、曲の冒頭に戻ることを意味します。シリーズの最初に生まれた「Beautiful World」が、14年後の完結編で新しい姿となって戻ってくる構成は、タイトルの意味とも美しく響き合います。
公式発表によれば、自身の楽曲をこのような形でセルフカバーするのは宇多田ヒカルにとって初めての試みでした。新曲だけで終わらず、過去の代表曲を再解釈して物語を締めくくった点に、このコラボレーションの特別さがあります。
【EPの収録曲】One Last Kissは全8曲!CD・LPの内容を解説

宇多田ヒカルのエヴァ関連曲をまとめて聴くなら、2021年発売のEP『One Last Kiss』が代表的な作品です。
このEPは、2021年3月9日にデジタル配信、3月10日にCD・LPで発売されました。CDの収録曲は全8トラック。そのうち6トラックがエヴァ関連のボーカル楽曲で、残る2トラックはインストゥルメンタルです。
ここで注意したいのは、「関連曲6曲」と「EPの全収録曲8曲」は同じ意味ではないことです。歌入りの関連曲をすべて確認したい人は、次の6曲を押さえておけば、映画との関係を整理できます。
EP『One Last Kiss』の収録内容
2021年3月発売・CD全8トラック
1. One Last Kiss
2. Beautiful World (Da Capo Version)
3. Beautiful World -2021 Remastered-
4. Beautiful World (PLANiTb Acoustica Mix) -2021 Remastered-
5. 桜流し -2021 Remastered-
6. Fly Me To The Moon (In Other Words) (2007 MIX) -2021 Remastered-
7. One Last Kiss (Instrumental)
8. Beautiful World (Da Capo Version) (Instrumental)
注目したいのは、過去の楽曲が2021年リマスター版として収録されている点です。単なるベスト盤ではなく、完結編のテーマソングを軸に、シリーズの音楽的な歴史をまとめ直した作品として構成されています。
CDとLPはどちらがおすすめ?CDは8トラックを通して楽しめる構成で、インストゥルメンタルも収録されています。歌詞や楽曲の違いを比較しながら聴きたい人には、CDが分かりやすい選択肢です。
一方、LPはアナログ盤ならではのコレクション性が魅力です。公式発表では完全生産限定盤として案内され、その後、海外向けのUS盤・EU盤も展開されました。盤面カラーなど仕様が異なる商品もあるため、購入する際は盤種と収録内容を確認する必要があります。
初めて聴く人には、まずデジタル配信で6つのボーカル楽曲を映画の公開順に聴く方法がおすすめです。作品を見直す予定があるなら、映画を鑑賞してから楽曲を聴き直すと、歌詞やアレンジの違いがより鮮明になります。
【よくある質問】宇多田ヒカルとエヴァの関係に関するFAQ
Q1:宇多田ヒカルがエヴァに提供した曲は全部で何曲ですか?
A1:エヴァ関連のボーカル楽曲は6トラックです。「Beautiful World」「Fly Me To The Moon -2007 MIX-」「Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-」「桜流し」「One Last Kiss」「Beautiful World (Da Capo Version)」が該当します。なお、EP『One Last Kiss』にはインストゥルメンタル2曲も含め、合計8トラックが収録されています。
Q2:エヴァの最初の主題歌はBeautiful Worldですか?
A2:新劇場版の第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のテーマソングが「Beautiful World」です。2007年8月29日にシングルとして発売されました。ただし、同作の予告編には「Fly Me To The Moon (In Other Words) -2007 MIX-」も使用されています。
Q3:Beautiful WorldのDa Capo Versionは何が違うのですか?
A3:2007年の原曲を2021年にゼロからリメイクしたバージョンです。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のエンディングで「One Last Kiss」に続いて使用され、新劇場版シリーズ全体の締めくくりを担いました。庵野秀明総監督からの直接のオファーで制作されたものです。
Q4:One Last KissのMVは本当に庵野秀明が監督したのですか?
A4:はい。エヴァンゲリオン公式サイトと宇多田ヒカルの公式YouTubeチャンネルが、庵野秀明による監督を公表しています。宇多田ヒカルがロンドン郊外などで撮影した映像素材を日本に送り、庵野監督らが編集する方法で制作されました。
Q5:桜流しはエヴァのためだけに書かれた曲ですか?
A5:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のテーマソングとして書き下ろされた楽曲です。一方で、宇多田ヒカル自身は2016年のテレビ番組で、制作時に東日本大震災後の思いにも心を寄せていたと説明しています。映画との関係だけでなく、命や喪失という普遍的なテーマも持つ楽曲です。
宇多田ヒカルとエヴァの関係は、2007年の「Beautiful World」から2021年の「One Last Kiss」まで、約14年間にわたって続きました。
『序』では誰かを思うことの意味を歌い、『破』では原曲を異なるアレンジで再構築。『Q』では喪失と命を見つめ、完結編では「One Last Kiss」と「Beautiful World (Da Capo Version)」によって、シリーズの始まりと終わりを結びつけました。
この関係を理解するうえで、押さえておきたい要点は3つあります。
- 映画本編のテーマソングと予告編の挿入歌を区別すること。
- 「Beautiful World」の原曲・PLANiTb Acoustica Mix・Da Capo Versionは、それぞれ異なる映画や役割を持つこと。
- EP『One Last Kiss』は、過去の楽曲のリマスターと完結編の新曲をまとめた全8トラックの作品であること。
初めて聴くなら「Beautiful World」から「桜流し」、そして「One Last Kiss」へと進む順番がおすすめです。最後に「Beautiful World (Da Capo Version)」を聴けば、最初の楽曲が完結編でどのように生まれ変わったのかを実感できます。
宇多田ヒカルのエヴァ楽曲は、映画の公開時期を彩ったタイアップ曲という枠を超え、シリーズの14年間を音楽で振り返ることのできる作品群です。2026年に改めて聴いても、その歌声が描く出会い、孤独、喪失、別れ、そして再出発というテーマは色あせていません。