2025年9月に発表された「IRIS OUT」は、2026年の米津玄師を語るうえで欠かせない代表作となった。
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、作品の世界観と米津の音楽的な実験性が強く結びついた楽曲だ。
「KICK BACK 2」にはしないという明確な意識Billboard JAPANのインタビューで米津は、今回の制作にあたり、以前の『チェンソーマン』オープニングテーマ「KICK BACK」の続編のような楽曲にはしたくなかったと説明している。
制作の順番にも特徴があった。
まず「IRIS OUT」から制作を進め、その後にエンディングテーマ「JANE DOE」を完成させた。
米津自身の説明によると、「KICK BACK」がジェットコースターのような複雑な展開を持つ楽曲なら、「IRIS OUT」はフリーフォールのような作品だという。
始まった瞬間から一直線に進み、鮮烈な印象を残して終わる。その潔さが今回の方向性だった。
デンジとレゼの関係性に焦点を絞った歌詞「IRIS OUT」の制作で重要だったのは、劇場版の中心人物であるデンジとレゼの関係性だ。
米津は、藤本タツキの漫画に登場する、男性を翻弄する魅力的な女性というモチーフに注目した。
レゼは、好意を示しながら相手の感情を揺さぶり、簡単には本心をつかませない人物である。
米津は、レゼの魅力を「気持ちよく振り回してくれる」「心地よく騙してくれる」という趣旨で語っている。
制作時には、原作のレゼが描かれたページを開きっぱなしにして、何度も見つめながら作業していたというエピソードも明かした。
楽曲の焦点を作品全体に広げるのではなく、デンジとレゼという二人の関係に絞り込んだことが、強い衝動性につながっている。
「IRIS OUT」の反響は数字にも表れたBillboard JAPANが発表した2026年上半期チャートでは、「IRIS OUT」が総合ソング・チャート「JAPAN Hot 100」で首位を獲得した。
加えて、海外で聴かれている日本の楽曲を集計する「Global Japan Songs Excl. Japan」でも1位となっている。
注目すべき実績は以下の通りだ。
- 2025年10月1日公開チャート:週間ストリーミング再生数28,733,082回を記録。
- 累計再生数:国内楽曲として史上最速となる4週間で1億回を達成。
- 2025年10月4日付:米Billboard「Global 200」で日本語楽曲として当時の史上最高位となる5位を記録。
- 2026年上半期:Billboard JAPAN「JAPAN Hot 100」で総合1位。
- 海外チャート:「Global Japan Songs Excl. Japan」でも上半期1位。
これらは単発の話題性だけでは説明できない。映画の人気、楽曲自体の中毒性、動画やストリーミングでの広がりが重なった結果である。
宇多田ヒカルとの「JANE DOE」にも表れた表現の変化「IRIS OUT」と対になる「JANE DOE」では、宇多田ヒカルとの共演が実現した。
米津は、映画のエンディングに男性である自分の声を前面に出すことには違和感があり、女性の声を中心にした楽曲が必要だと考えたという。
制作途中で、宇多田の歌声なら成立すると感じた。
宇多田の声に対して米津が抱いていた印象は、孤独や寂しさと、風のように通り抜ける爽やかさの共存だった。
ここにも、単純な歌唱力や知名度ではなく、作品の世界に必要な表現を選ぶ姿勢が見える。
歌詞の「蕩尽」はバタイユからの直接引用なのか「IRIS OUT」の歌詞には「蕩尽」という言葉が登場する。
Billboard JAPANのインタビューでは、思想家ジョルジュ・バタイユの著作との関係について質問されている。
米津は、バタイユを気の合う思想家として挙げながらも、制作時に意識的な引用を行ったわけではないと説明した。
つまり、思想的な影響が間接的に存在する可能性はあるが、特定の著作から意図的に引用したと断定するのは正確ではない。
このやり取りは、米津の歌詞を読み解くうえで重要だ。すべての言葉に明確な一つの意味や、特定の引用元があるわけではない。長年蓄積された読書や経験が、無意識のうちに作品へ流れ込むこともある。
【創作の原点と音楽観】米津玄師が大切にしてきたJ-POPと個人の在り方

2026年のインタビューで繰り返し登場するのが、米津の創作の出発点であるインターネット文化と、J-POPへの意識だ。
徳島で過ごした少年時代とインターネット米津玄師は徳島県出身。
小学生の頃に自宅にパソコンが入り、インターネットを通じて、それまで知らなかった音楽や映像に出会った。
MEN'S NON-NO WEBのインタビューでは、当時のインターネットを、自由で無秩序な創作が存在する場所として振り返っている。
誰が作ったのかも分からない音楽や動画が投稿され、技術的に洗練されていなくても、強い個性や衝動を持った作品が存在していた。
その後、ニコニコ動画との出会いを経て、ハチ名義でボーカロイド楽曲を発表するようになる。
米津の音楽を理解する際、この時代の文化は重要な手掛かりになる。
最初から大規模な商業音楽の世界で完成された作曲家だったわけではない。個人が自由に表現できるインターネットの環境から、自分の音楽を育ててきた人物なのである。
J-POPを選んだ理由にあった若い頃の反発心2026年6月19日掲載のYahoo!ニュース オリジナル 特集では、米津がJ-POPに対して抱いてきた意識を語っている。
本人によると、若い頃は音楽業界の一部にポップスを見下すような空気があることに反発していた。
そのため、あえて自分の音楽をJ-POPだと主張することには、周囲への牽制や反発という意味合いもあったという。
しかし、時間が経つにつれて、その反発心は薄れていった。
現在では、J-POPを作ることが自然な自己認識になっている。
これは単なるジャンルへのこだわりではない。
自分が何を作りたいのかを、周囲の評価や既存の音楽業界の価値観に委ねないという姿勢の変化でもある。
「ヘルシーでいること」と創作を続けるための自己管理Yahoo!ニュースの同インタビューでは、米津が自分自身の内面を健全に保つことについても語っている。
作品を作る際には、悲しみや怒り、嫌悪感といった感情も表現の材料になる。しかし、それらの感情を外部の期待や環境に消費され続ければ、自分自身の状態を保つことが難しくなる。
ここで重要なのは、米津が表現者としての自己と、日常生活を送る個人としての自己を区別して考えていることだ。
以前のBillboard JAPANのインタビューでも、海外ツアーを経験してから生活のあり方が変わり、日々のルーティンや健康に気を配るようになったと話している。
音楽制作だけに没頭していた生活から、日常生活そのものを整える方向へ変化したという。
これは創作への情熱が弱くなったという意味ではない。長く音楽を作り続けるために、自分自身を維持することの必要性を認識した変化と捉えられる。
2026年の米津玄師は何を目指しているのか2026年11月現在、公式サイトでは全国ツアー「米津玄師 2026 TOUR / GHOST」の開催日程が公開されている。
11月6日の長野公演から12月17日の神奈川公演まで、各地でライブが予定されている。
「IRIS OUT」による海外での認知拡大、「烏」と「夜鷹」による異なる表現への挑戦、そしてライブ活動。
これらを並べると、現在の米津が国内外の聴き手と接点を持ちながら、個人としての創作の自由も保とうとしていることが分かる。
【プロの結論】2026年の米津玄師を読み解く3つの視点
一連のインタビューを通して、2026年の米津玄師の表現には、明確な共通点が見えてくる。
それは、外側にある大きな物語を描きながら、その中心にいる一人の人間を見失わないことだ。
第一に、集団と個人を対立させないこと。
「烏」は、チームの勝利を否定する楽曲ではない。集団に所属しながらも、自分の意思で生きることができるという視点を提示している。
第二に、フィクションの中では人間の欲望を大胆に描くこと。
「夜鷹」は、野心や闘争心を持つ人間の姿を真正面から描いている。現実の社会に対する慎重な視線とは異なり、物語の中では人間の衝動を強く表現する。
第三に、過去の自分を創作の資源にすること。
徳島での少年時代、インターネット、ボーカロイド文化、宮沢賢治との出会い。こうした経験は過去の思い出として消費されるのではなく、現在の作品を生み出す材料になっている。
この3点を踏まえると、「烏」と「夜鷹」は単なるタイアップ曲ではなく、米津玄師という表現者の現在地を示す作品だと理解できる。
【米津玄師のインタビュー】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2026年の米津玄師の最新インタビューはどこで読める?
A1:2026年はBillboard JAPAN、音楽ナタリー、MEN'S NON-NO WEB、Yahoo!ニュース オリジナル 特集などでインタビューが公開されている。特に「烏」と「夜鷹」の制作背景を知りたい場合は、Billboard JAPANとMEN'S NON-NO WEBのインタビューが参考になる。
Q2:「烏」はなぜサッカーの曲なのに個人をテーマにしている?
A2:米津は、サッカーの勝敗や団結という構造だけでなく、選手一人ひとりの意思や生き方を表現したかったと説明している。集団に所属することと、個人として自立することは両立できるという考え方が中心にある。
Q3:「夜鷹」は宮沢賢治の『よだかの星』が原作なの?
A3:直接的な原作や物語の再現ではない。米津は宮沢賢治への敬愛が自身の中に深く染み込んでおり、歌詞に「夜鷹」という言葉が自然に生まれたと説明している。
Q4:「烏」と「夜鷹」はどちらが先に制作された?
A4:米津のインタビューによると、「夜鷹」の方が先だった。制作時期は近く、作る前から精神的な双子になるという感覚があったという。
Q5:「IRIS OUT」はなぜ世界的にヒットした?
A5:劇場版『チェンソーマン レゼ篇』との親和性、デンジとレゼの関係性に焦点を絞った楽曲構成、強い衝動性を持つサウンドなどが特徴。2026年上半期にはBillboard JAPAN総合ソング・チャートで1位を獲得し、海外でも大きな成果を残した。
Q6:米津玄師の創作の原点は何?
A6:徳島での少年時代、インターネット、ニコニコ動画、ボーカロイド文化などが重要な原点となっている。ハチ名義での活動を経て、2012年から米津玄師名義で音楽活動を展開してきた。
Q7:2026年の米津玄師の今後の活動は?
A7:公式サイトでは「米津玄師 2026 TOUR / GHOST」の全国ツアー日程が公開されている。2026年11月6日から12月17日まで公演が予定されている。
2026年の米津玄師のインタビューを読み解くと、「烏」「夜鷹」「IRIS OUT」という異なる作品の奥に、一貫した創作思想が見えてくる。
「烏」では集団の中にいる個人の意思を描き、「夜鷹」では野心と闘争を抱えながら進む人間の姿を描いた。「IRIS OUT」では、デンジとレゼの関係に焦点を絞り、衝動的な音楽表現を追求した。
その背景には、徳島で過ごした少年時代、ハチとして活動したインターネット文化、J-POPへのこだわり、そして現在の自分を健全に保とうとする意識がある。
特に注目したいのは、米津が過去の自分を否定するのではなく、何度も辿り直している点だ。
創作の技術や表現の規模が大きくなっても、最初に音楽を好きになった気持ちや、何かを作りたいという野心は失われていない。
2026年の米津玄師を理解する鍵は、作品のヒット規模だけでなく、その作品を生み出した一人の人間の意思に目を向けることにある。
「烏」と「夜鷹」は、その現在地を異なる方向から照らす、対照的でありながら深く結びついた2曲なのである。