インターネット上の誹謗中傷は、単なる悪口や一時的なトラブルでは済まないことがある。SNSでの執拗な攻撃、匿名アカウントによる人格否定、個人情報の暴露、投稿の拡散などが重なり、被害者の精神状態や日常生活を深刻に損なうケースもある。誹謗中傷と自殺の関係を考えるうえでは、被害による精神的苦痛だけでなく、家庭、学校、職場、健康状態など複数の背景を捉える必要がある。
2026年10月23日、厚生労働省は「令和8年版自殺対策白書」を閣議決定した。公表された令和7年(2025年)の自殺者数は19,188人で、統計開始以来初めて2万人を下回った。一方、小中高生の自殺者数は538人と過去最多を記録している。警察庁の資料や国会答弁からは、SNS・インターネット上のトラブルと自殺をめぐる統計上の課題も見えてくる。
【2026年最新】誹謗中傷と自殺の関係は?厚生労働省・警察庁の資料から検証

厚生労働省が2026年10月23日に閣議決定した「令和8年版自殺対策白書」は、日本の自殺問題を考えるうえで重要な資料となっている。
令和7年の自殺者数は19,188人。前年の20,320人から1,132人減少し、1978年に統計を開始して以来、最少となった。男女別では男性13,176人、女性6,012人である。
全体の数字が改善した一方、子どもを取り巻く状況は異なる。小中高生の自殺者数は538人となり、統計のある1980年以降で最多を更新した。大人の自殺者数が減少しているからといって、すべての年代で危機が改善しているわけではない。
ネット誹謗中傷による自殺者数は把握されているのかここで重要なのが、誹謗中傷と自殺の因果関係を直接示す公的統計の有無である。
2025年5月15日の衆議院特別委員会では、インターネット上の誹謗中傷などによって亡くなった人の数について、警察庁は個別に集計していないと説明した。
一方、警察庁が集計している自殺の原因・動機のうち、SNS・インターネット上のトラブルが一つの要因として含まれている人については、令和4年から令和6年までの3年間で101人だったと政府参考人が答弁している。
ただし、この101人は誹謗中傷だけを原因とする人数ではない。SNS上のトラブルには、対人関係、個人情報の流出、オンライン上のいじめなど、異なる種類の問題が含まれ得る。また、複数の原因・動機が関係している場合もある。
したがって、「ネット誹謗中傷による自殺者は年間何人」と単純に換算することはできない。公的資料から読み取れるのは、インターネット上の問題が自殺に関連する要因の一つとして存在する一方、その実態を独立した統計で十分に把握できていないという課題である。
誹謗中傷と自殺の因果関係をどう考えるべきか自殺は、一つの出来事だけで説明できるものではない。厚生労働省の自殺対策基本法も、自殺には多様かつ複合的な原因と背景があることを基本理念に掲げている。
例えば、SNSでの攻撃を受けた人が、もともと抱えていた健康問題、家庭内の問題、学校や職場での人間関係の悩みなどを同時に経験している場合がある。そこにネット上の中傷が加わり、孤立感や精神的負担が強まることも考えられる。
一方、誹謗中傷を受けた人が必ず自殺を考えるわけではない。周囲の支援や相談環境、本人の生活状況などによっても、その後の状況は異なる。
大切なのは、単純な因果関係を決めつけることではなく、誹謗中傷を深刻な心理的負担を生む可能性のある問題として捉え、被害の早期発見と支援につなげることである。
【令和7年の自殺者数】19,188人・小中高生538人の実態を比較
2025年の自殺統計で注目すべき数字令和8年版自殺対策白書によると、2025年の自殺者数は前年より減少したものの、年間約2万人という深刻な状況が続いている。
特に注目すべきなのは、小学生、中学生、高校生の自殺者数が合計538人に達した点だ。前年の529人から9人増加しており、子ども・若者に対する自殺対策の強化が課題になっている。
| 統計項目 | 令和7年の数値 | 比較・確認できる事実 |
|---|---|---|
| 自殺者総数 | 19,188人 | 前年より1,132人減少。統計開始以来最少 |
| 男性 | 13,176人 | 男性の自殺者数は2年連続減少 |
| 女性 | 6,012人 | 女性の自殺者数は3年連続減少 |
| 小中高生合計 | 538人 | 1980年以降で過去最多 |
| 小学生 | 10人 | 前年より5人減少 |
| 中学生 | 172人 | 前年より9人増加。過去最多 |
| 高校生 | 356人 | 前年より5人増加 |
資料:厚生労働省「令和8年版自殺対策白書」、警察庁自殺統計原票データ。2026年3月27日現在の確定値。
自殺の原因・動機で最も多いのは健康問題同白書に掲載された令和7年の原因・動機別統計では、原因・動機が特定された17,178人について、健康問題が11,355件と最も多かった。
続いて経済・生活問題が5,387件、家庭問題が4,201件、勤務問題が2,390件、交際問題が875件、学校問題が524件となっている。
ここで注意したいのは、これらの数字が自殺者数と単純に一致しないことだ。原因・動機は複数計上でき、1人につき最大4つまで集計される。また、原因・動機が特定されていない人もいる。
学校問題の524件を、そのままネットいじめやSNS誹謗中傷の件数と解釈することもできない。学校での問題とインターネット上のトラブルは重なる場合があるものの、統計上は区別して考える必要がある。
子どもの自殺問題とSNS環境の関係子どもや若者にとってSNSは、友人との交流や情報収集に欠かせない存在になっている。その一方、ネット上の人間関係が学校生活や家庭生活に影響を及ぼすこともある。
例えば、学校でのトラブルがSNSに持ち込まれると、限られた人間関係の中で発生した問題が、不特定多数の目に触れる状態へと変わる。投稿のスクリーンショットや転載によって、元の投稿が消えても情報が残る場合もある。
法務省の人権啓発資料でも、ネットいじめは周囲の大人に発覚しにくく、情報や誹謗中傷が拡散しやすいことが指摘されている。被害者の心を傷つけ、日常生活や人間関係に悪影響を与え、深刻な事態につながる可能性がある。
子どもの場合、本人が被害をうまく説明できないこともある。学校への欠席、急な交友関係の変化、SNSを見た後の強い落ち込みなど、日常の変化に周囲が気づくことも重要になる。
【精神的苦痛の実態】SNS誹謗中傷が被害者の心と生活に与える影響
匿名投稿・拡散・集団攻撃が被害を深刻化させるネット誹謗中傷の特徴は、攻撃が一度の投稿で終わらない可能性があることだ。
対面での悪口とは異なり、SNSや掲示板の投稿は保存、転載、検索、再拡散される。投稿者が削除した後も、第三者が保存した画像や引用投稿によって情報が残り続けることがある。
加えて、匿名性の高い環境では、複数のアカウントから同じ人物に対して攻撃が集中するケースも考えられる。個々の投稿は短い悪口であっても、繰り返し目にすることで被害者の精神的負担が大きくなる可能性がある。
誹謗中傷によって生じ得る精神的な影響被害者が経験する心理的・身体的な反応は一様ではない。代表的なものとして、次のような影響が挙げられる。
- 不安や恐怖:次にどのような投稿がされるのか、誰が見ているのか分からないことへの不安。
- 自己肯定感の低下:繰り返される人格否定や侮辱によって、自分自身を否定的に捉えるようになる。
- 睡眠や食欲への影響:投稿内容を思い出して眠れなくなったり、食欲が低下したりする場合がある。
- 対人関係への影響:他人への不信感が強まり、友人や家族との交流を避けるようになることがある。
- 学校・仕事への影響:周囲の視線が気になり、登校や出勤が難しくなる場合がある。
- 孤立感の増大:相談しても理解されないと感じ、誰にも話せなくなることがある。
これらは誰にでも同じように生じる症状ではなく、医学的な診断を意味するものでもない。ただし、生活への影響が続いている場合には、心療内科、精神科、学校のスクールカウンセラーなど専門家の支援を検討する必要がある。
誹謗中傷を受けた人に「気にしなければいい」は通用するのか被害者に対して「ネットの書き込みだから無視すればいい」「アカウントを消せば解決する」と伝えるだけでは、問題の本質を捉えられない。
誹謗中傷による苦痛は、投稿を見ている時間だけに発生するわけではない。自分の名前や写真がどこかに転載されているのではないか、学校や職場の人に知られているのではないかという不安が、日常生活に影響することもある。
被害者に必要なのは、本人の努力だけに解決を委ねることではない。攻撃を止めるための削除対応、安心して話せる相手、精神的なケア、必要に応じた法的支援を組み合わせることである。
周囲の人が気づいたときにできること家族や友人、教師、職場の同僚が被害に気づいた場合は、まず本人の話を否定せずに聞くことが大切だ。
「なぜそんな投稿をしたのか」「あなたにも原因があるのではないか」と責めるのではなく、何が起きているのか、今どのような支援が必要なのかを一緒に考える。
自殺を考えている可能性がある場合は、遠回しにせず本人の安全を確認し、一人にしないようにする。差し迫った危険がある場合には、119番や救急医療につなぐことも必要だ。
【被害に遭ったときの対処法】誹謗中傷の投稿削除依頼と証拠保存の手順
最初に行うべきことは投稿の証拠保存誹謗中傷を受けたとき、すぐに投稿者へ反論したり、感情的な返信をしたりする必要はない。最初に、後から削除請求や警察への相談、発信者情報開示請求を行えるように、証拠を残すことが重要だ。
保存しておきたい情報は次のとおり。
- 誹謗中傷が掲載された投稿のスクリーンショット。
- 投稿が掲載されているページのURL。
- 投稿者のアカウント名やプロフィール情報。
- 投稿日時や発見した日時。
- 前後の投稿や返信、引用、拡散の状況。
- 個人情報や写真が無断掲載されている場合は、その掲載状況。
スクリーンショットは投稿本文だけでなく、サイト名やアカウント、日時などが分かる状態で保存する。投稿が削除された場合に備えて、可能であれば複数の場所に記録を保管しておく。
投稿削除を依頼する具体的な方法削除を希望する場合は、投稿が掲載されたSNSや掲示板の運営者に対して、利用規約に基づく通報や削除申請を行う。
削除依頼では、問題となる投稿を特定し、どの権利が侵害されているのか、なぜ削除が必要なのかを具体的に説明することが重要になる。
- 投稿の特定:問題の投稿URL、アカウント名、投稿日時を整理する。
- 権利侵害の説明:名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害など、該当する可能性のある問題を説明する。
- 削除申請:サービス運営者が指定する通報フォームや削除申請窓口から申し立てる。
- 申請記録の保存:申請日時、受付番号、運営者からの回答などを保存する。
- 解決しない場合の相談:違法・有害情報相談センターや法務局、弁護士などに相談する。
削除を求めたからといって、必ず投稿が削除されるわけではない。運営者は投稿の内容、権利侵害の有無、利用規約などを踏まえて判断する。
削除依頼と並行して避けたい行動被害が拡大している場合、相手に直接抗議することで、さらに攻撃的な投稿や個人情報の拡散を招く可能性もある。
相手のアカウントを晒し返したり、投稿者の個人情報を特定して公開したりする行為は、新たな権利侵害につながりかねない。証拠を保存した後は、ミュートやブロックなどを利用して接触を減らし、対応を専門機関に引き継ぐことも選択肢となる。
特に住所や学校、勤務先などが公開された場合や、具体的な危害を加えるという脅迫がある場合には、削除依頼だけで済ませず警察への相談を優先したい。
【情報流通プラットフォーム対処法2026】発信者情報開示請求で投稿者を特定する方法
情報流通プラットフォーム対処法とは2026年のネット誹謗中傷対策で押さえておきたい制度が、情報流通プラットフォーム対処法である。
正式には「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」といい、旧プロバイダ責任制限法の改正によって名称と制度が変更された。改正法は2024年5月17日に公布され、2025年4月1日に施行されている。
この法律の大きな特徴は、一定規模以上の大規模プラットフォーム事業者に対し、権利侵害情報への削除対応の迅速化と運用状況の透明化を求めている点だ。
大規模プラットフォーム事業者に課された主な義務対象となる大規模事業者には、主に以下のような義務が設けられている。
- 削除申出窓口の整備・公表:権利侵害情報の削除を申し出るための窓口と手続きを整える。
- 調査体制の整備:権利侵害に該当するかどうかを判断するため、必要な調査を実施する。
- 専門人材の選任:侵害情報の調査に関する専門的な知識や経験を有する人員を確保する。
- 原則7日以内の通知:削除申出を受けた場合、原則として7日以内に措置の有無などを申出者に通知する。
- 運用状況の透明化:削除基準や対応状況などを公表する。
特に誤解されやすいのが7日以内という期限だ。これは、すべての誹謗中傷投稿を7日以内に削除しなければならないという意味ではない。原則として、削除申出に対する判断と通知を行う期限であり、申出内容によっては削除されない場合もある。
また、法律の義務が直接適用されるのは指定された大規模事業者であり、すべてのウェブサイトや掲示板に同じ規制が及ぶわけではない。
発信者情報開示請求とは何か投稿の削除だけでは解決できず、投稿者に損害賠償を請求したい場合や、法的責任を追及したい場合には、発信者情報開示請求を検討できる。
発信者情報開示請求とは、権利を侵害する投稿を行った人物を特定するため、SNS運営者や通信事業者などに対して、投稿者に関する情報の開示を求める法的手続きである。
通常、SNSの運営者が保有するIPアドレスなどの情報と、インターネット接続事業者が保有する契約者情報などを照合して、発信者の氏名や住所の特定を目指す。
発信者情報開示請求の基本的な流れ- 証拠を確保する:投稿内容、URL、アカウント情報、投稿日時などを保存する。
- 権利侵害の有無を検討する:名誉毀損、プライバシー侵害などに該当する可能性を整理する。
- 開示を求める:投稿が掲載されたSNSやサイトの運営者に、発信者情報の開示を請求する。
- 必要な裁判手続きを行う:任意の開示が認められない場合、裁判所に発信者情報開示命令を申し立てることを検討する。
- 通信事業者に情報開示を求める:取得した情報をもとに、アクセスプロバイダなどに契約者情報の開示を求める。
- 特定後の対応を決める:損害賠償請求、示談交渉、刑事告訴など、事案に応じた手続きを検討する。
2022年施行の改正法で導入された発信者情報開示命令制度により、従来の複数の手続きを組み合わせる方法に加え、裁判所の手続きを利用して一体的に開示を求める選択肢が設けられている。
ただし、すべてのケースで投稿者を特定できるわけではない。開示には権利侵害の明白性や開示を求める正当な理由など、法律上の要件がある。また、アクセスログには保存期間があるため、時間が経過すると特定が難しくなる場合もある。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼するメリット発信者情報開示請求は、法律や通信技術に関する知識が必要となる専門的な手続きである。投稿の違法性を示す資料の整理、請求先の判断、裁判所への申立てなど、個人で対応するには負担が大きい。
弁護士に相談することで、削除請求と発信者情報開示請求をどの順序で進めるべきか、損害賠償請求まで行う合理性があるかなどを検討できる。
一方、費用や時間がかかる可能性があり、開示が認められる保証もない。被害の内容、証拠の状態、今後の目的を整理したうえで依頼することが望ましい。
【法律で対抗できる?】侮辱罪・名誉毀損罪の違いと相談窓口一覧
侮辱罪と名誉毀損罪は何が違うのかネット上の誹謗中傷は、内容や投稿状況によって刑法上の犯罪に該当する可能性がある。代表的なものが名誉毀損罪と侮辱罪だ。
両者の最も大きな違いは、具体的な事実を示しているかどうかにある。
名誉毀損罪(刑法230条)は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する可能性がある。ここでいう事実は、真実か虚偽かを問わない。ただし、公共の利害に関する事実で、公益を図る目的があり、真実であることが証明された場合などには、刑法230条の2による特例が適用されることがある。
侮辱罪(刑法231条)は、具体的な事実を示さず、公然と人を侮辱した場合に成立する可能性がある。人格を否定するような表現や、公然と軽蔑を示す行為などが問題となる。
2026年現在の法定刑侮辱罪は2022年7月7日に法定刑が引き上げられた。さらに2025年6月1日には拘禁刑が導入され、刑法上の刑罰表記が変更されている。
- 名誉毀損罪:3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。
- 侮辱罪:1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料。
なお、名誉毀損罪と侮辱罪はいずれも親告罪であり、原則として被害者による告訴がなければ公訴を提起できない。
ただし、相手を不快にさせる投稿がすべて犯罪になるわけではない。発言の内容、対象者の特定可能性、公然性、投稿の文脈などを踏まえた判断が必要になる。また、刑事責任とは別に、民法上の不法行為として損害賠償責任が生じる可能性もある。
ネット誹謗中傷に対応する主な相談窓口被害に遭った場合、すぐに弁護士を探すことが難しくても、公的機関や専門団体に相談できる。各窓口は役割が異なるため、目的に応じて使い分けたい。
1. 違法・有害情報相談センター(総務省委託事業)
ネット上の誹謗中傷、名誉毀損、プライバシー侵害などについて、専門知識を持つ相談員が削除対応の方法や発信者特定の手続きなどを案内する。
本人に代わって削除請求を行う機関ではなく、相談者自身が適切に対応するための助言を提供する窓口である。
2. 法務省インターネット人権相談・みんなの人権110番
インターネット上の人権侵害について相談できる窓口。削除依頼の方法を助言するほか、法務局が事案に応じてプロバイダなどに削除要請を行う場合もある。
- みんなの人権110番:0570-003-110
- こどもの人権110番:0120-007-110
- インターネット人権相談受付窓口:法務省のオンライン相談窓口
みんなの人権110番の電話受付は、原則として平日8時30分から17時15分まで。
3. 誹謗中傷ホットライン(セーファーインターネット協会)
インターネット上の誹謗中傷について連絡を受け付け、内容を確認したうえで、国内外のプロバイダなどに利用規約に沿った削除対応を促す通知を行う。
ただし、法律相談を行う窓口ではなく、実際に投稿が削除されるかどうかはサービス提供者の判断による。
4. 警察への相談
脅迫、個人情報の晒し、執拗な嫌がらせ、名誉毀損など犯罪に該当する可能性がある場合には、警察への相談も検討する。投稿の画面、URL、投稿者、日時などを整理しておくと相談が進めやすい。
住所や学校、勤務先を特定されるなど身の危険を感じる場合は、最寄りの警察署に相談する。緊急の危険が迫っている場合は110番通報を優先する。
精神的に追い詰められたときの相談先誹謗中傷の被害は法律的な問題だけではない。精神的な負担が強い場合には、削除請求と並行して心のケアを受けることが大切だ。
- #いのちSOS:0120-061-338。無料、24時間365日対応。
- よりそいホットライン:0120-279-338。無料、24時間対応。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556。地域の公的な相談機関につながる。
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310。子どものいじめや悩みについて24時間相談できる。
電話で話すことが難しい場合は、厚生労働省の「まもろうよ こころ」で紹介されているSNS相談やチャット相談も選択肢になる。匿名で利用できる窓口もあるため、身近な人に話せない場合でも支援につながる方法がある。
もし本人が自分を傷つけることを考えている、または差し迫った危険がある場合は、相談窓口への連絡だけでなく、身近な人と一緒に安全な場所で過ごし、必要に応じて119番や救急医療につなぐことを優先したい。
【プロの結論】誹謗中傷による自殺を防ぐために必要な社会の対応
ネット上の攻撃を個人間のトラブルで終わらせない誹謗中傷問題の難しさは、被害が発生してから解決するまでに複数の主体が関係することにある。
投稿者には責任が問われる可能性があり、プラットフォームには適切な削除対応が求められる。被害者には法的支援と精神的なケアが必要になる。子どもの問題であれば、学校、保護者、教育委員会、関係機関の連携も欠かせない。
どこか一つの機関だけで解決できる問題ではない。投稿を消すことと、被害者の生活を回復させることは別の課題として取り組む必要がある。
2026年以降に求められる3つの視点第一に、プラットフォームの対応を実効性のあるものにすること。
情報流通プラットフォーム対処法によって削除申出窓口や対応期限のルールが整備された。今後は、被害者が申請方法を理解しやすいこと、権利侵害の判断が適切に行われること、対応状況が透明であることが重要になる。
第二に、子ども・若者への支援を強化すること。
小中高生の自殺者数538人という数字は、学校や家庭だけでなく、オンライン上の人間関係も含めた支援が必要であることを示している。子どもが被害を申告しやすい環境をつくり、相談したことによってさらに孤立する状況を防ぐ必要がある。
第三に、精神的な支援と法的な支援を切り離さないこと。
投稿が削除されても、被害者の不安や恐怖がすぐに解消するとは限らない。反対に、心理的な支援だけでは、個人情報の流出や継続的な嫌がらせが止まらない場合もある。両方の支援を同時に受けられる体制が望まれる。
誹謗中傷の被害を見極めるための判断基準被害に遭ったとき、どのような対応を優先すべきかは、次の基準で考えると整理しやすい。
- 人格否定や侮辱が繰り返されている:投稿を保存し、サービス運営者への通報や削除申請を検討する。
- 虚偽の情報で社会的評価を落とされている:名誉毀損の可能性を検討し、法務局や弁護士に相談する。
- 住所や電話番号、写真が公開されている:プライバシー侵害への対応を急ぎ、必要に応じて警察にも相談する。
- 投稿者を特定して責任を追及したい:証拠とログが失われる前に発信者情報開示請求を検討する。
- 精神的な苦痛や生活への支障が強い:法的対応と同時に医療機関や心理相談窓口につながる。
- 自分や家族の安全が脅かされている:削除申請を待たず、警察や緊急医療につなぐ。
【誹謗中傷と自殺の関係】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ネット誹謗中傷が原因で自殺した人は何人いますか?
A1:誹謗中傷だけを原因として自殺した人数を示す独立した公的統計はありません。2025年5月の国会答弁では、SNS・インターネット上のトラブルが自殺の原因・動機の一つに含まれる人は、令和4年から令和6年までの3年間で101人と説明されています。ただし、これは誹謗中傷だけによる人数ではありません。
Q2:令和7年の自殺者数は何人ですか?
A2:厚生労働省の令和8年版自殺対策白書によると、19,188人です。前年から1,132人減少し、1978年の統計開始以来、最少となりました。
Q3:小中高生の自殺者数538人は過去最多ですか?
A3:はい。令和7年の538人は、1980年以降で最多です。内訳は小学生10人、中学生172人、高校生356人です。
Q4:SNSの悪口は侮辱罪や名誉毀損罪になりますか?
A4:投稿の内容や状況によっては該当する可能性があります。具体的な事実を公然と示して名誉を傷つけた場合は名誉毀損罪、具体的な事実を示さず公然と侮辱した場合は侮辱罪が問題になります。すべての悪口が犯罪になるわけではなく、個別の判断が必要です。
Q5:誹謗中傷の投稿を削除してもらうにはどうすればいいですか?
A5:まず投稿のスクリーンショット、URL、投稿者、日時などを保存し、SNSや掲示板の運営者に削除申請を行います。自分での対応が難しい場合は、総務省委託の違法・有害情報相談センターや法務局に相談できます。
Q6:発信者情報開示請求をすれば必ず投稿者が分かりますか?
A6:必ず特定できるわけではありません。権利侵害の明白性や開示を求める正当な理由など、法律上の要件を満たす必要があります。また、通信記録の保存期間などの事情によって、特定が難しくなる場合もあります。
Q7:誹謗中傷を受けて精神的につらい場合、どこに相談すればいいですか?
A7:法律的な問題は違法・有害情報相談センターや法務局、警察などに相談できます。精神的な苦痛については医療機関や心理相談窓口を利用できます。#いのちSOS(0120-061-338)は24時間365日対応しています。子どもは24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)も利用できます。
2026年10月に公表された令和8年版自殺対策白書では、令和7年の自殺者数が19,188人と過去最少になった一方、小中高生の自殺者数は538人と過去最多になった。全体の減少だけでは捉えられない、子ども・若者を取り巻く深刻な状況が明らかになっている。
ネット誹謗中傷と自殺の関係については、単純な因果関係だけで説明することはできない。警察庁も誹謗中傷だけを原因とする自殺者数を独立して把握しておらず、SNS・インターネット上のトラブルが複数の背景の一つとして関係する実態がある。
しかし、統計上の限界があることは、被害の深刻さを否定する理由にはならない。匿名の攻撃、投稿の拡散、継続的な侮辱、個人情報の暴露は、被害者の尊厳や日常生活を損なう可能性がある。
2026年現在は、情報流通プラットフォーム対処法による削除対応の迅速化、発信者情報開示請求、侮辱罪・名誉毀損罪など、被害者が利用できる制度も整備されている。
誹謗中傷を受けた人が一人で耐え続ける必要はない。証拠を残し、投稿削除や法的対応を検討すると同時に、信頼できる人や専門機関に助けを求めることが大切だ。
そして、周囲の人や社会に求められるのは、被害が深刻化してから対応するのではなく、小さなSOSに気づき、早い段階で支援につなげる姿勢である。誹謗中傷を許さない環境づくりと、誰も孤立させない支援体制の両方が、被害の拡大と自殺を防ぐために欠かせない。