珈琲専門店エースを語るうえで欠かせないのが、看板メニューの「元祖のりトースト」です。
一見すると、普通のトーストに海苔を挟んだだけのシンプルな料理。しかし、パン、焼き海苔、バター、醤油という身近な材料を組み合わせた独特の味わいが、全国から訪れる客を引き付けていました。
のりトーストの誕生は母親の「のり弁」がヒントHarumari TOKYOの取材で、清水英勝さんは、のりトーストの発想の原点が母親の手作り弁当にあったことを明かしています。
子どものころ、母親がよく作ってくれたのが、醤油をつけた海苔をご飯で挟んだのり弁でした。その構造をパンに置き換えれば、新しい喫茶店メニューになるのではないか。こうしたアイデアから誕生したのが、エースののりトーストです。
創業当初から提供されており、兄弟が他店との差別化を考えた結果生まれた、店を象徴する料理でもありました。
のりトーストの材料と作り方基本となる材料は、食パン、焼き海苔、醤油、バターの4つです。特別な高級食材を使うわけではありません。
2022年の「ほぼ日」の取材記事では、厨房での調理工程も紹介されています。
1. 食パンを並べ、表面に醤油をかける。
2. パンの間に海苔を挟む。
3. オーブンでトーストする。
4. 焼き上がったパンの片面にバターを塗る。
5. トーストを重ね、耳を落として三角形に切り分ける。
この工程によって、醤油の香ばしさ、海苔の磯の風味、バターのコクが一体になります。サクッとしたパンの食感も特徴です。
なぜ家庭で再現しても同じ味にならないのかのりトーストは材料だけを見れば、家庭でも簡単に作れそうな料理です。実際、エースの店主も特別な材料は使っていないと説明しています。
それでも店の味が支持された背景には、醤油をかける量、海苔の挟み方、焼き加減、バターを塗るタイミングなど、日々の調理で積み重ねられた技術がありました。
加えて、創業以来の味を求めて繰り返し訪れる常連客の存在も大きかったはずです。料理そのものだけでなく、いつ訪れても同じ店で同じ味を楽しめる安心感が、エースの価値を高めていました。
口コミで評価された味の特徴過去の訪問記やグルメ記事では、次のような特徴が紹介されています。
- 海苔の磯の香りと醤油の香ばしさが印象的。
- バターの風味が加わり、和風ながら洋風のトーストとして成立している。
- シンプルな材料なのに、ほかではなかなか味わえない個性がある。
- 甘さよりも塩気が際立つため、コーヒーとの組み合わせを楽しめる。
一方、塩気の強さを感じるという個人の感想もあります。誰にでも同じ評価になる料理ではありませんが、その特徴的な味こそが、好きな人に繰り返し注文される理由でした。
【約40種類のコーヒー】珈琲専門店エースのメニューとモーニングを解説

エースの魅力は、のりトーストだけではありません。店名に「珈琲専門店」と掲げていたとおり、コーヒーの種類の豊富さも大きな特徴でした。
コーヒーはブレンド・ストレート・アレンジの3系統2022年に公開された「ほぼ日」の記事では、清水英勝さんが当時のメニュー構成を次のように説明しています。
| コーヒーの種類 | 品ぞろえ | 特徴 |
|---|---|---|
| ブレンドコーヒー | 5種類 | 複数の豆を組み合わせた定番 |
| ストレートコーヒー | 15種類 | 豆ごとの個性を楽しむ |
| アレンジコーヒー | 20種類 | 生クリームや洋酒などを使った個性的な一杯 |
| 合計 | 40種類 | 多彩な好みに対応 |
さらに紅茶は15種類、フードメニューは10種類をそろえていました。コーヒーだけで40種類という充実ぶりは、一般的な喫茶店とは一線を画すものでした。
アレンジコーヒーにも個性があったエースのアレンジコーヒーは、単純に砂糖やミルクを加えるだけではありません。
ほぼ日の取材では、チョコレートやリキュール、ブランデーなどを使ったメニューについても触れられています。Harumari TOKYOでは、ラム酒とホイップクリーム、シナモンシュガーを組み合わせた「ジャマイカンマジック」も紹介されていました。
苦味を楽しみたい人、酸味を好む人、甘く華やかな味わいを求める人。それぞれの好みに合わせて選べることが、専門店としての強みでした。
サイフォン式コーヒーへのこだわりエースでは、一杯ずつサイフォンを使ってコーヒーを抽出していました。
サイフォン式は、フラスコ内の湯が蒸気圧によって上昇し、コーヒー粉と接触した後に再び下へ戻る抽出方法です。抽出の様子を目で楽しめることもあり、昔ながらの喫茶店を象徴する器具として親しまれています。
Harumari TOKYOの2020年の記事では、使用していたサイフォンが48年ものだったことも紹介されました。長年使い続けた器具も、店の歴史を物語る存在でした。
モーニングサービスも人気だった朝の時間帯に提供されていたモーニングも、エースの魅力の一つです。
代表的だったのが、ブレンドコーヒーとのりトーストを組み合わせた「モーニングサービスA」。Harumari TOKYOの紹介では、午前10時までに注文すると、ブレンドコーヒーのおかわりが1杯付くサービスもありました。
食べログの過去の店舗情報では、モーニングの営業時間は7時から10時と記載されています。また、過去の訪問記には500円のモーニングセットを利用した記録も残っています。ただし、これは当時の価格であり、現在購入できるメニューではありません。
朝の神田でコーヒーを飲みながら、のりトーストを食べる。仕事前の会社員にとっても、遠方から訪れる喫茶店ファンにとっても、特別な時間を過ごせる場所だったのです。
【口コミ・評判を検証】食べログ喫茶店百名店に選ばれた理由
珈琲専門店エースは、単に昔から営業していたという理由だけで評価された店ではありません。独創的なメニュー、コーヒーへの専門性、独特の内装、接客など、複数の要素が支持につながっていました。
食べログの評価と百名店の実績3.65
食べログ掲載評価
口コミ投稿者数
762人
百名店選出
2021年・2022年
店舗の状態
食べログの2026年11月掲載画面で確認できる数値。評価や口コミ数は変動する場合があります。
食べログの「喫茶店 百名店」は、喫茶店を対象とした人気店の選出企画です。エースは2021年と2022年の両方で選ばれています。
2年連続の選出は、長年の営業実績だけでなく、グルメファンからも評価されていたことを示す実績です。
口コミ・評判で評価されていた4つの魅力1.のりトーストという唯一無二の看板商品
最も分かりやすい魅力は、やはりのりトーストです。普通の喫茶店ではなかなか見かけない料理であり、これを食べること自体が来店目的になっていました。
2.コーヒーの選択肢が豊富
40種類のコーヒーは、常連客にとっても新しい味を試す楽しみがありました。初めて訪れる人にとっては、壁いっぱいのメニューを見る時間も印象に残る体験だったはずです。
3.昭和の面影を残した店内
赤と白の椅子、手書きのメニュー、昔ながらの看板など、店内には長年受け継がれてきた独特の雰囲気がありました。単にレトロな装飾を再現した店舗とは異なり、実際に長い年月を重ねてきた空間だったことが魅力です。
4.一人でも入りやすい喫茶店
食べログには、一人で入りやすい利用シーンも掲載されていました。カウンター席があり、仕事の合間に一人でコーヒーを飲む利用にも適していました。
評価が分かれるポイントもあった一方で、のりトーストの醤油味や塩気は、人によって好みが分かれる部分です。洗練された現代的なカフェ空間を求める人にとっては、昔ながらの内装や喫茶店特有の雰囲気が必ずしも好みに合うとは限りません。
また、人気店だったため、時間帯によっては混雑することもありました。純喫茶の魅力は、万人向けの均質なサービスではなく、その店ならではの個性にあります。エースはまさに、その個性を楽しむ人々に愛された店でした。
【閉店後も残るもの】珈琲専門店エースが神田に残した功績
53年間の営業を終えた珈琲専門店エースですが、その歴史は閉店とともに完全に消えてしまったわけではありません。
20th Centuryが受け継いだ店内の椅子2024年6月18日、20th Centuryは公式SNSで、珈琲専門店エースから椅子を譲り受けたことを報告しました。
譲り受けた椅子は、坂本昌行さん、長野博さん、井ノ原快彦さんの3人が運営する「喫茶二十世紀」で使用されることになりました。
スポニチアネックスによると、20th Centuryはマスターへの感謝とともに、52年間にわたる営業へのねぎらいを伝えています。家具という形で店の記憶が別の喫茶店に受け継がれた出来事でした。
神田の街とともに歩んだ老舗喫茶店エースが創業した1971年と2024年では、神田の街の姿も大きく変わりました。
かつては近隣に住む人々が中心だった客層も、時代とともにビジネスパーソンや遠方から訪れる観光客へと広がっていきました。2022年の「ほぼ日」の取材で、清水英勝さんは、コロナ禍によるテレワークの普及で会社員の来店が減り、遠方からの来店者が目立つようになったことを話しています。
スマートフォンで店の様子やメニューを撮影し、情報を広めてくれる客も増えていました。昔ながらの喫茶店が、インターネットを通じて新しい世代に知られていく様子がうかがえます。
【プロの結論】エースの価値は「料理・専門性・空間」の一体感にあった珈琲専門店エースが長年支持された理由を整理すると、3つの要素が浮かび上がります。
第一に、家庭料理を独創的な看板商品に変えた商品開発力。第二に、40種類のコーヒーを提供する専門性。第三に、創業時から続く内装や接客を含めた店舗体験です。
特に注目したいのは、のりトーストが高級食材や複雑な調理技術に依存していなかったことです。身近な食材でも、発想と工夫によって店を代表する商品になり得る。そのことをエースは半世紀以上にわたって示していました。
また、コーヒーの種類を豊富にそろえながら、初めて訪れる客にも選ぶ楽しさを提供していた点も見逃せません。商品だけでなく、店で過ごす時間そのものが価値になっていたのです。
閉店の背景や理由については別の問題として残りますが、エースが神田の喫茶文化に残した功績は、百名店への選出や閉店を惜しむ口コミ、そして店内の椅子の継承からも伝わってきます。
【FAQ】珈琲専門店エースに関するよくある質問
Q1:珈琲専門店エースは2026年現在も営業していますか?
A1:営業していません。東京都千代田区内神田の旧店舗は2024年5月31日に閉店しています。2026年11月現在、旧店舗での営業再開は確認されていません。
Q2:珈琲専門店エースの閉店理由は何ですか?
A2:閉店日は2024年5月31日と報道されていますが、経営不振、健康問題、後継者不足など、具体的な閉店理由を公式に説明した情報は確認できません。
Q3:元祖のりトーストはどのような料理ですか?
A3:食パンに醤油を塗り、海苔を挟んで焼き、バターを加えたトーストです。母親が作っていたのり弁をヒントに誕生しました。
Q4:珈琲専門店エースには何種類のコーヒーがありましたか?
A4:2022年の店主インタビューによると、ブレンド5種類、ストレート15種類、アレンジ20種類の合計40種類でした。紅茶も15種類用意されていました。
Q5:珈琲専門店エースは食べログ百名店に選ばれましたか?
A5:はい。食べログの喫茶店 百名店2021と2022の両方に選出されています。
Q6:珈琲専門店エースのモーニングは何時からでしたか?
A6:過去の店舗情報では、午前7時から10時までがモーニングの時間帯でした。ブレンドコーヒーとのりトーストのセットが代表的なメニューでした。
Q7:閉店後、珈琲専門店エースの椅子はどうなりましたか?
A7:2024年6月、20th Centuryが椅子を譲り受け、東京・神宮前の「喫茶二十世紀」で使用すると発表しました。
珈琲専門店エースは、1971年に神田で創業し、2024年5月31日に53年間の営業を終えた老舗喫茶店です。
母親ののり弁から着想を得た元祖のりトースト、約40種類のコーヒー、サイフォン式の抽出、手書きのメニューや昭和の面影を残す店内。こうした個性が組み合わさり、食べログ喫茶店百名店にも2年連続で選ばれる名店へと成長しました。
2026年現在、神田の旧店舗は閉店しており、以前と同じメニューを味わうことはできません。閉店理由についても具体的な公式説明は確認できない状況です。
それでも、過去の取材記事や訪問記、食べログに残る口コミ、そして20th Centuryに受け継がれた椅子は、エースが多くの人に愛されていたことを伝えています。
珈琲専門店エースが残した最大の功績は、単に珍しいのりトーストを生み出したことではありません。身近な食材と一杯のコーヒー、そして人を迎える日々の積み重ねによって、神田にしかない喫茶店の文化を築いたことにあります。
53年の歴史を持つ名店の記憶は、これからも純喫茶を愛する人々の間で語り継がれていくでしょう。