第175回は、2026年6月11日に候補作が発表され、7月15日に選考会が開催された。日本文学振興会の公式発表によると、芥川賞・直木賞ともに5作品が最終候補となり、それぞれ1作品が受賞した。
『けんぐゎい』

朝倉かすみ
出版社:光文社
『ゾンビ回収婦』
小砂川チト
掲載誌:『群像』2026年5月号
出典:日本文学振興会・第175回公式発表。
| 作家 | 候補作品 | 出版社 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 朝倉かすみ | 『けんぐゎい』 | 光文社 | 受賞 |
| 蝉谷めぐ実 | 『見えるか保己一』 | KADOKAWA | 候補 |
| 凪良ゆう | 『多類婚姻譚』 | 講談社 | 候補 |
| 原田ひ香 | 『#台所のあるところ』 | 文藝春秋 | 候補 |
| 若林正恭 | 『青天』 | 文藝春秋 | 候補 |
| 作家 | 候補作品 | 掲載誌 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 小砂川チト | 「ゾンビ回収婦」 | 群像5月号 | 受賞 |
| 鈴木涼美 | 「悪い血」 | 文學界6月号 | 候補 |
| 仁科斂 | 「丹心(まごころ)」 | 新潮4月号 | 候補 |
| 村司侑 | 「ソリティアおじさんがいた頃」 | 文學界5月号 | 候補 |
| 八木詠美 | 「アンチ・グッドモーニング」 | 文藝春季号 | 候補 |
両賞の候補作は、作家名の50音順で公表されている。したがって、掲載順は選考委員による評価の順位ではない。
今回の選考で注目したいのは、直木賞では過去に候補経験のある作家が受賞し、芥川賞では過去にも候補入りした作家が受賞した点だ。単純な新人・ベテランの対決ではなく、それぞれの作家が積み重ねてきた創作活動も見える結果となった。
【作家と作品の関係】第175回候補者10人の経歴と注目ポイント
候補作を理解するうえでは、作品そのものだけでなく、作者がどのような経歴を経て候補入りしたのかも参考になる。
今回の10人には、新人文学賞から登場した作家、複数回の候補経験を持つ作家、文学賞で実績を重ねてきた作家、エッセイやテレビ・ラジオでも知られる作家が含まれている。
芥川賞候補者の経歴小砂川チト『ゾンビ回収婦』
1990年生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業し、同大学院社会学研究科心理学専攻を修了した。
2022年に「家庭用安心坑夫」で第65回群像新人文学賞を受賞してデビュー。同作は第167回芥川賞候補となり、その後「猿の戴冠式」も第170回候補に選ばれている。
今回の『ゾンビ回収婦』は3度目の芥川賞候補入りを経ての受賞となった。新人文学賞でのデビューから着実に作品を発表してきた作家の受賞である。
鈴木涼美「悪い血」
1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院で社会情報学を学んだ。
2009年から2014年まで日本経済新聞社に勤務し、その後、執筆活動に入った。過去には「ギフテッド」で第167回、「グレイスレス」で第168回芥川賞候補に選ばれている。
今回の「悪い血」は3度目の候補入り。社会に対する観察や分析を背景に持つ作家として、その文学的な表現にも関心が集まる。
仁科斂「丹心(まごころ)」
1994年生まれ。オックスフォード大学セント・ジョーンズ・カレッジを卒業し、東京大学大学院総合文化研究科に在学。多摩美術大学では非常勤講師を務める。
2024年に「さびしさは一個の廃墟」で第56回新潮新人賞を受賞し、作家デビューを果たした。
今回の候補作は『新潮』2026年4月号に掲載された「丹心」。新人賞から芥川賞候補へと進んだ作家として注目される。
村司侑「ソリティアおじさんがいた頃」
1979年生まれ。九州大学文学部卒業。
2026年、「ソリティアおじさんがいた頃」で第131回文學界新人賞を受賞し、作家としてデビューした。同じ作品で第175回芥川賞候補にも選ばれている。
新人文学賞の受賞作が、そのまま芥川賞の最終候補に進んだ点は今回の特徴の一つだ。
八木詠美「アンチ・グッドモーニング」
1988年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。
2020年に「空芯手帳」で第36回太宰治賞を受賞してデビューした。同作は海外でも翻訳が進み、英訳版『Diary of a Void』はニューヨーク・タイムズやニューヨーカーでも書評が掲載された。
今回の「アンチ・グッドモーニング」は『文藝』2026年春季号に掲載された作品。国内の文学賞にとどまらない活動歴を持つ作家としても注目したい。
直木賞候補者の経歴朝倉かすみ『けんぐゎい』
1960年生まれ。北海道武蔵女子短期大学卒業。
2003年に北海道新聞文学賞、2004年に小説現代新人賞を受賞し、2005年に『肝、焼ける』でデビューした。
『田村はまだか』『平場の月』などの作品で知られ、『平場の月』では山本周五郎賞を受賞。第161回直木賞候補にも選ばれている。
さらに『よむよむかたる』で第172回直木賞候補となり、今回の第175回で『けんぐゎい』が受賞作となった。
蝉谷めぐ実『見えるか保己一』
1992年生まれ。早稲田大学文学部演劇映像コースを卒業した。
2020年に『化け者心中』で小説野性時代新人賞を受賞し、作家デビュー。その後、『おんなの女房』『万両役者の扇』などを発表してきた。
『見えるか保己一』は2026年に第39回山本周五郎賞を受賞した作品でもある。文学賞での評価を重ねて第175回直木賞候補となった。
凪良ゆう『多類婚姻譚』
2007年に初著書を刊行し、本格的な作家活動を開始した。
代表作には『流浪の月』『汝、星のごとく』などがある。『流浪の月』では2020年の本屋大賞を受賞し、『汝、星のごとく』でも2023年の本屋大賞を受賞した。
『汝、星のごとく』は第168回直木賞候補にもなっている。今回の『多類婚姻譚』は、こうした文学賞での実績を持つ作家の新たな候補作となった。
原田ひ香『#台所のあるところ』
1970年生まれ。大妻女子大学卒業。
2007年に「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞を受賞し、翌年に同作を収録した単行本でデビューした。
『三千円の使いかた』『古本食堂』『図書館のお夜食』『定食屋「雑」』など、暮らしに身近な題材を扱った作品でも知られる。
今回の候補作は、2026年5月刊行の『#台所のあるところ』だ。
若林正恭『青天』
1978年生まれ。お笑いコンビ・オードリーのツッコミ担当としてテレビやラジオで活動する。
2013年に初のエッセイ集『社会人大学人見知り学部 卒業見込』を刊行。その後も『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』『ナナメの夕暮れ』などを発表してきた。
2024年には「オードリーのオールナイトニッポン」15周年記念の東京ドームライブを開催。幅広い表現活動を続ける若林が、2026年刊行の『青天』で直木賞候補に選ばれたことも話題となった。
【芥川賞と直木賞の違い】対象作品・作家・選考基準を比較
芥川賞と直木賞は、同じ日本文学振興会が主催する文学賞だが、評価対象となる作品の性質が異なる。
日本文学振興会の公式FAQでは、芥川賞は新進作家による純文学の中・短編作品、直木賞は新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本が対象と説明されている。
| 比較項目 | 芥川賞 | 直木賞 |
|---|---|---|
| 正式名称 | 芥川龍之介賞 | 直木三十五賞 |
| 主な対象 | 純文学 | エンターテインメント文学 |
| 作品形式 | 中・短編 | 長編小説・短編集 |
| 発表媒体 | 雑誌・同人雑誌など | 書籍・単行本 |
| 主な対象作家 | 新進作家 | 新進・中堅作家 |
| 2026年第175回受賞作 | 『ゾンビ回収婦』 | 『けんぐゎい』 |
| 受賞者 | 小砂川チト | 朝倉かすみ |
芥川賞は、純文学の中・短編作品を対象とする文学賞だ。
作品の題材だけでなく、文章表現、構成、人物の内面、テーマの掘り下げ方など、文学作品としての表現が評価される。
ただし、純文学だから必ず難解でなければならないわけではない。読みやすい作品が候補になることもあり、テーマや文体も作家によって大きく異なる。
直木賞はエンターテインメント作品を対象とする賞直木賞は、長編小説や短編集などの単行本を中心に選考される。
歴史小説、時代小説、現代小説など、扱うジャンルは幅広い。読者を物語に引き込む構成や人物描写、物語としての完成度なども作品を読む際の注目点となる。
第175回では、時代小説『けんぐゎい』が受賞した一方、『見えるか保己一』『多類婚姻譚』『青天』など、異なる経歴を持つ作家の作品も候補となった。
芥川賞と直木賞はどちらが上なのか両賞に上下関係はない。
芥川賞は純文学、直木賞はエンターテインメント文学という評価対象の違いがあるだけで、どちらかが文学的に優れているという序列ではない。
また、両賞は一般公募の新人賞ではない。出版社や雑誌に発表・刊行された作品の中から候補作が選ばれ、予備選考を経て最終候補が決まる。
読者が作品を選ぶ場合は、賞の知名度だけでなく、自分が純文学の表現を楽しみたいのか、物語性の強い小説を読みたいのかを基準にすると選びやすい。
【第176回候補作】発表はいつ?2026年11月・12月の重要日程
2026年下半期の第176回は、直木賞の候補作発表時期が変更される最初の回にあたる。
日本文学振興会は2025年12月12日付のお知らせで、直木賞の候補作発表を従来より約1カ月前倒しすると公表した。
第176回のスケジュール
2026年11月中旬
第176回直木賞候補作の発表予定。
2026年12月中旬ごろ
従来の発表スケジュールを維持。具体的な発表日は公式発表を確認したい。
2027年1月20日
第176回芥川賞・直木賞の選考会。
日程は日本文学振興会の公表資料に基づく。候補発表の具体的な日付は別途公式告知による。
これまで直木賞の候補作は、上半期が6月中旬、下半期が12月中旬に発表されていた。
第176回からは次のように変更される。
| 発表区分 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 上半期 | 6月中旬 | 5月中旬 |
| 下半期 | 12月中旬 | 11月中旬 |
この変更によって、候補作が書店やメディアで紹介される期間を確保し、読者が作品に触れる機会を増やすことが期待される。
なお、第176回は移行措置として、直木賞の対象作品が2026年6月刊から10月刊までとなる。
第177回以降は、下半期の対象期間が5月刊から10月刊に変更される予定だ。
芥川賞の発表時期は変更される?芥川賞については、候補作発表のスケジュールに変更はない。
そのため、第176回以降は直木賞の候補作が先に発表され、芥川賞の候補作が後から発表される形になる。
これは両賞の選考会を別々に開催するという意味ではない。選考会は引き続き同じ時期に開催され、第176回は2027年1月20日に予定されている。
今回の変更は、直木賞の候補作発表と対象期間に関する制度変更として理解するのが正確だ。
【候補作を読む前に】文学賞の結果だけで作品を判断しないためのポイント
芥川賞・直木賞の候補作を探す読者にとって、受賞作と候補作の違いは気になるところだ。
しかし、受賞しなかった作品が、読者にとって魅力のない作品というわけではない。
第175回の候補作を例にすると、次のような読み方ができる。
- 文学的な表現に注目したい人: 芥川賞候補の5作品から選ぶ。
- 物語の展開を楽しみたい人: 直木賞候補の5作品から選ぶ。
- 作家の過去作から入りたい人: 朝倉かすみ、凪良ゆう、原田ひ香、小砂川チトなどの既刊作品を読む。
- 新しい作家を発見したい人: 仁科斂、村司侑など、新人文学賞から候補入りした作家に注目する。
- 海外での評価も気になる人: 八木詠美の『空芯手帳』など、翻訳実績のある作家の作品を手に取る。
候補作は、予備選考を経て最終選考の対象となった作品だ。
受賞作は、その最終候補の中から選考委員による討議を経て決定される。
したがって、候補入りは最終選考に残ったという実績であり、受賞とは区別される。
また、両賞とも受賞作が必ず決まるわけではない。日本文学振興会の説明でも、受賞作が1作品または2作品となる場合のほか、「受賞作なし」となる場合がある。
この点は、候補作の数と受賞作の数を混同しないためにも押さえておきたい。
受賞作はどこで読める?日本文学振興会のFAQによると、受賞作の掲載先は賞によって異なる。
- 芥川賞:『文藝春秋』に受賞作全文を掲載。
- 直木賞:『オール讀物』に受賞作の一部を掲載。
2026年上半期の受賞発表号は、いずれも2026年9月号にあたる。選考委員による選評も掲載されるため、受賞理由や作品の評価を深く知りたい人にも参考になる。
【プロの結論】2026年の芥川賞・直木賞は候補作と発表制度の両方に注目
第175回は、直木賞で朝倉かすみ『けんぐゎい』、芥川賞で小砂川チト『ゾンビ回収婦』が受賞した。
今回の候補者には、複数回の候補経験を持つ作家、文学賞で実績を重ねてきた作家、新人文学賞を経てデビューしたばかりの作家、エッセイや芸能活動でも知られる作家が並んだ。
特に押さえておきたいのは、次の3点だ。
1. 第175回の受賞結果は確定している。 朝倉かすみと小砂川チトがそれぞれの賞を受賞した。
2. 両賞は評価対象が異なる。 純文学の中・短編を対象とする芥川賞と、エンターテインメント作品を対象とする直木賞を同じ基準で比較する必要はない。
3. 第176回から直木賞の候補発表が前倒しされる。 2026年11月中旬の発表予定は、次回の文学賞情報を追ううえで重要な変更点だ。
受賞結果だけを追うのではなく、候補作の掲載誌や出版社、作家の過去の作品にも目を向けることで、日本文学の現在地がより立体的に見えてくる。
【直木賞・芥川賞候補】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2026年の芥川賞・直木賞の受賞作は何ですか?
A1:第175回の直木賞は朝倉かすみの『けんぐゎい』、芥川賞は小砂川チトの『ゾンビ回収婦』です。2026年7月15日に選考会が開催されました。
Q2:第175回の芥川賞・直木賞候補作は何作品ですか?
A2:合計10作品です。芥川賞が5作品、直木賞が5作品です。それぞれ1作品が受賞しました。
Q3:第176回の候補作はいつ発表されますか?
A3:直木賞は2026年11月中旬、芥川賞は従来の発表スケジュールを維持します。第176回の選考会は2027年1月20日の予定です。
Q4:芥川賞と直木賞の違いは何ですか?
A4:芥川賞は新進作家による純文学の中・短編作品、直木賞は新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本が対象です。
Q5:直木賞や芥川賞は一般公募されていますか?
A5:どちらも一般公募の賞ではありません。対象となる雑誌掲載作品や書籍の中から候補作が選ばれ、予備選考を経て最終候補が決まります。
Q6:芥川賞・直木賞は年に何回開催されますか?
A6:年2回です。上半期は7月、下半期は翌年1月に選考会が開催されます。
Q7:第175回で受賞しなかった候補作は評価が低いということですか?
A7:そうではありません。候補入り自体が最終選考の対象になった実績です。受賞の有無だけで作品の文学的価値や読者との相性が決まるわけではありません。
2026年上半期の第175回芥川賞・直木賞では、朝倉かすみ『けんぐゎい』と小砂川チト『ゾンビ回収婦』が受賞した。10作品の候補には、それぞれ異なる文学的背景とキャリアを持つ作家が名を連ねた。
次に注目したいのは、第176回の候補作発表だ。直木賞は2026年11月中旬へ前倒しされ、芥川賞は従来のスケジュールを維持する。選考会は2027年1月20日に予定されている。
日本文学振興会の公式発表を確認しながら、候補作の発表、受賞結果、選考委員の選評を追うことが、文学賞をより深く楽しむための確かな方法となる。
2026年の文学賞を追うなら、第175回の受賞作を読むことと、第176回の候補発表をチェックすること。この2つが次の注目ポイントだ。
主な情報源:公益財団法人日本文学振興会「芥川龍之介賞」「直木三十五賞」「よくあるご質問」「直木賞候補作発表時期の変更についてのお知らせ」「報道関係者の皆さまへ」。候補作・受賞結果・日程は各公式公表資料に基づく。