妊娠初期から吐き気や嘔吐がひどいと、「赤ちゃんは女の子なのかな?」「つわりが軽いと男の子が生まれる?」と気になる人も多いのと考えられます。昔から、つわりの重さと赤ちゃんの性別には関係があるというジンクスが語られてきました。実は、この言い伝えには日本の大規模な出生コホート研究による科学的な裏付けもあります。
注目されたのは、環境省が実施する「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを使った研究です。91,666人の妊婦を対象とした分析では、女児を妊娠している場合、男児の場合と比べて、つわりを経験する割合だけでなく、重いつわりを経験する割合も高いという関連が示されました。ただし、これは集団全体で見られた統計的な傾向であり、個人の赤ちゃんの性別を判定できるものではありません。2026年時点の医学的知見を踏まえ、研究結果の意味、つわりがひどくなる理由、性別の見分け方、受診の目安まで詳しく解説します。
【研究結果を検証】つわりがひどいと女の子が生まれやすい?

結論からいえば、つわりがひどい妊婦ほど女児を妊娠している割合が高かったという研究結果は存在します。
これは単なる妊婦の体験談や昔からの言い伝えではありません。日本の大規模な出生コホート調査を用いた、査読付き学術論文で報告された結果です。
エコチル調査で判明した約9万人の分析結果研究の正式名称は「Severity of Nausea and Vomiting in Singleton and Twin Pregnancies in Relation to Fetal Sex: The Japan Environment and Children's Study(JECS)」です。
研究には、高知大学医学部などの研究者である光田直美氏らが参加しました。
論文は2018年11月にオンライン公開され、2019年9月に学術誌『Journal of Epidemiology』第29巻9号に掲載されています。
研究対象となったのは、環境省のエコチル調査に参加した妊婦のうち、必要な情報がそろった91,666人です。
研究では妊娠12週以前の吐き気・嘔吐について質問し、症状を4段階に分類しました。
1. つわりなし
2. 吐き気のみ
3. 吐き気・嘔吐があるが食事はできる
4. 吐き気・嘔吐があり、食事ができない
この分類によって、つわりの有無だけでなく、症状の重さと胎児の性別との関係も分析しています。
女児妊娠で重いつわりのオッズが1.28倍特に注目したいのが、単胎妊娠における分析結果です。
女児を妊娠している場合、男児を妊娠している場合と比較して、つわりの存在や重症化に関連が認められました。
具体的な結果は次のとおりです。
- つわりが存在するオッズ:1.15倍
- 重いつわりのオッズ:1.28倍
いずれも母親の年齢、妊娠前のBMI、経産歴、喫煙、教育歴などを考慮した調整後の数値です。
特に重いつわりについては、調整オッズ比1.28(95%信頼区間1.23~1.34)という結果でした。
つまり、女児妊娠では男児妊娠より、重いつわりが見られる傾向が統計的に強かったのです。
ただし、1.28倍という数字は発症確率が28ポイント上がるという意味ではありません。あくまで統計上のオッズの比較です。
【数字で比較】エコチル調査91,666人の研究結果と読み解き方
今回の研究を理解するうえで重要なのは、つわりの有無と重症度、そして胎児の性別を分けて考えることです。
研究対象者の内訳91,666人の妊婦のうち、単胎妊娠は90,826人、双胎妊娠は840人でした。
全体のつわりの状況を見ると、何らかの症状を経験した人は75,828人で、全体の82.7%に達しています。
一方、食事ができないほどの重いつわりに分類された人は10,159人、全体の11.1%でした。
つわりの程度と胎児の性別の比較| 比較項目 | 研究結果 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 研究対象者 | 91,666人 | 日本の大規模出生コホート |
| 単胎妊娠 | 90,826人 | 全体の大部分を占める |
| 双胎妊娠 | 840人 | 双子も分析対象 |
| つわりを経験した人 | 75,828人(82.7%) | 多くの妊婦が何らかの症状を経験 |
| 重いつわりの人 | 10,159人(11.1%) | 食事ができない状態を含む |
| つわりなしの単胎妊娠で女児 | 45.2% | 男児の割合が高い |
| 重いつわりの単胎妊娠で女児 | 54.1% | 女児の割合が高い |
| 女児妊娠のつわりのオッズ | 1.15倍 | 男児妊娠との比較 |
| 女児妊娠の重いつわりのオッズ | 1.28倍 | 男児妊娠との比較 |
特に興味深いのは、つわりがなかった単胎妊娠では女児の割合が45.2%だったのに対し、重いつわりのグループでは54.1%だったことです。
重いつわりのグループでは、女児が男児を上回っています。
ただし、ここで注意したいのは、54.1%という数字が「つわりのひどい妊婦が女の子を産む確率」を直接示しているわけではないことです。
研究で確認されたのは、症状の程度ごとに分けた集団の性別構成の違いです。
双子の場合にも性別との関連が見られた研究では双胎妊娠についても分析しています。
双子の場合、男児同士、男女の組み合わせ、女児同士の3グループに分けて比較しました。
その結果、女児を1人以上含む双胎妊娠では、男児同士の妊娠よりも、つわりの存在や重症化のオッズが高い傾向が示されました。
特に女児同士の双胎妊娠では、重いつわりとの関連が強く認められています。
この結果から、胎児の性別だけでなく、胎児の数もつわりの重さに関係する可能性が考えられます。
研究結果を個人の性別予測に使えない理由この研究には大きな強みがあります。日本人の妊婦を対象とした大規模データで、単胎と双胎の両方を検証できたことです。
一方で、研究上の限界もあります。
最初に、つわりの情報は妊婦本人が回答したアンケートに基づいています。嘔吐の回数や症状が続いた期間までは十分に把握されていません。
また、重いつわりの定義は「吐き気・嘔吐があり、食事ができない」という回答に基づいており、医師が診断する妊娠悪阻と完全に同じではありません。
加えて、分析では必要な情報がそろった妊婦を対象としており、流産、死産、三つ子以上の妊娠などは除外されています。
そのため、研究結果をすべての妊婦にそのまま当てはめることはできません。
医学的に正しい理解は、女児妊娠と重いつわりには統計的な関連があるものの、つわりの重さだけで赤ちゃんの性別を予測することはできない、ということです。
【医学的な理由】つわりがひどくなる原因は胎児の性別だけではない
つわりがひどいと、赤ちゃんの性別以外にも「なぜ自分だけこんなにつらいのか」と不安になることがあります。
実際、つわりの原因は一つではありません。
妊娠に伴うホルモンの変化、胎盤から分泌される物質、母親の体質や遺伝的な要素など、複数の要因が関係しています。
妊娠初期のホルモン変化妊娠すると、母体のホルモン環境は大きく変化します。
代表的なものが、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、エストロゲン、プロゲステロンです。
これらは妊娠を維持するために重要な役割を持っていますが、妊娠初期の吐き気や嘔吐にも関係していると考えられています。
特にhCGは妊娠初期に急速に増加するため、つわりとの関連が研究されてきました。
一般的には妊娠5~6週ごろから症状が現れ、妊娠8~10週ごろに強くなり、12~16週ごろに落ち着く人が多いとされています。
ただし、症状が続く期間や程度には大きな個人差があります。
GDF15というホルモンにも注目つわりの医学的研究では、GDF15という物質も重要なテーマになっています。
2023年12月に学術誌『Nature』で発表された研究では、妊娠中の吐き気・嘔吐や妊娠悪阻に、胎児・胎盤由来のGDF15と母親側の感受性が関係していることが報告されました。
GDF15は脳幹に作用するホルモンで、食欲や吐き気に関わる仕組みに影響します。
この研究では、妊娠中に母体の血液中で増加するGDF15の大部分が胎児・胎盤に由来することも示されました。
また、妊娠前からのGDF15への曝露や母親の遺伝的な背景によって、妊娠中の急激な変化に対する感受性が異なる可能性も示されています。
加えて、女児妊娠とGDF15の増加との関連も研究されています。
ただし、GDF15だけで個々のつわりの重さを説明できるわけではありません。母体側の体質や遺伝的な要素など、複数の条件が重なって症状が現れると考えられています。
つわりの症状には大きな個人差がある同じ女児を妊娠していても、つわりがほとんどない人もいれば、日常生活が難しくなるほど症状が強い人もいます。
反対に、男児を妊娠していても、重いつわりに悩む人はいます。
妊娠回数によって症状が変化することもあり、1人目のときは軽かったのに、2人目では強い吐き気が続くケースもあります。
双子などの多胎妊娠では、ホルモン環境の違いなどから、つわりが強くなる傾向も報告されています。
つわりの強さは赤ちゃんの性別だけで決まるものではありません。
【ジンクスの真相】つわりがひどいと女の子・軽いと男の子は本当?
妊娠中には、赤ちゃんの性別を予想するさまざまなジンクスがあります。
代表的なものが、つわりの重さによる性別予想です。
「つわりがひどいと女の子」は科学的根拠がある?今回のエコチル調査では、女児妊娠で重いつわりのオッズが高いという結果が示されています。
そのため、「つわりがひどいと女の子」という言い伝えには、一定の科学的な関連性があるといえます。
ただし、ここでいう科学的根拠とは、集団レベルの統計的な関連です。
つわりがひどい妊婦の赤ちゃんが必ず女の子になるという意味ではありません。
また、女児を妊娠していても、つわりが軽い人や、ほとんど症状がない人もいます。
「つわりが軽いと男の子」も確定ではないつわりが軽い場合に男の子が生まれやすいという考え方もあります。
エコチル調査では、つわりがなかった単胎妊娠のグループで男児の割合が高い結果になりました。
しかし、これは女児妊娠でつわりが起きやすい傾向を反映したものです。
つわりが軽いから男の子だと断定することはできません。
よくある性別ジンクスと医学的な評価| 性別ジンクス | 一般的な言い伝え | 医学的な評価 |
|---|---|---|
| つわりがひどい | 女の子 | 大規模研究で女児との関連あり |
| つわりが軽い | 男の子 | 集団傾向はあるが個人の予測は不可 |
| 甘いものが食べたい | 女の子 | 性別を判定する根拠はない |
| 塩辛いものが食べたい | 男の子 | 性別を判定する根拠はない |
| お腹が前に出る | 男の子 | 骨格や体形などの影響が大きい |
| お腹が丸く広がる | 女の子 | 性別判定には使えない |
| 肌荒れがひどい | 女の子 | 性別を判定する根拠はない |
こうしたジンクスは妊娠中の楽しみとして親しまれていますが、医学的な性別判定とは区別する必要があります。
特に、食べ物の好みやお腹の形、肌の状態は、妊娠中のホルモン変化や体質などに左右されます。
研究で関連が確認されたつわりについても、個人の性別を当てる検査として利用することはできません。
【性別の見分け方】赤ちゃんの性別はいつから分かる?
つわりの重さでは赤ちゃんの性別を確定できません。
では、実際にはいつ、どのような方法で性別が分かるのでしょうか。
超音波検査(エコー)で外性器を確認する一般的な方法は、妊婦健診で行われる超音波検査です。
胎児の外性器の形状を確認し、男児か女児かを判断します。
目安としては妊娠16週以降、特に18~20週ごろになると判定できるケースが増えてきます。
ただし、胎児の向きや姿勢、足の位置などによっては、外性器が見えにくいことがあります。
そのため、妊娠中期になっても性別が分からないケースは珍しくありません。
性別が分かる時期には個人差がある超音波検査による性別判定は、検査時の条件によって変わります。
例えば、赤ちゃんが足を閉じていたり、背中を向けていたりすると、判断が難しくなります。
また、医療機関によって性別を伝える方針が異なることもあります。
性別を知りたい場合は、妊婦健診の際に医師へ希望を伝えておくとよいでしょう。
つわりと超音波検査の違い| 確認方法 | 分かること | 性別判定への利用 |
|---|---|---|
| つわりの重さ | 吐き気や嘔吐の程度 | 判定できない |
| 食べ物の好み | 妊娠中の嗜好の変化 | 判定できない |
| お腹の形 | 母体の体形や胎児の位置など | 判定できない |
| 超音波検査 | 胎児の形態や外性器 | 条件が整えば判定可能 |
赤ちゃんの性別を知るうえでは、ジンクスよりも妊婦健診での医学的な確認が適しています。
【見逃さないで】つわりがひどいときの受診目安と妊娠悪阻
つわりがひどいときに、最も注意したいのが妊娠悪阻です。
妊娠悪阻は、通常のつわりより症状が重く、食事や水分を十分に取れなくなり、脱水や栄養障害などを引き起こす状態です。
単なる吐き気として我慢し続けると、母体の健康に影響する可能性があります。
妊娠悪阻を疑う主な症状次のような症状がある場合は、早めに産婦人科へ相談してください。
- 何度も嘔吐して食事が取れない
- 水分を飲んでも吐いてしまう
- 尿の量や回数が明らかに減っている
- 口の中や唇が乾燥している
- 急激に体重が減少している
- 立ち上がるとふらつく
- 強い倦怠感が続いている
特に、水分が取れない、尿がほとんど出ない、体重が大きく減っている場合は、早めの受診が必要です。
意識がぼんやりする、血液が混じったものを吐く、強い腹痛や発熱がある場合も、速やかに医療機関へ連絡してください。
体重減少や脱水は重要な判断材料日本産科婦人科学会の『産婦人科診療ガイドライン―産科編2023』では、妊娠悪阻への対応として、脱水や栄養状態を評価し、必要に応じて輸液などを行うことが示されています。
特に、妊娠前と比較して体重が5%以上減少し、水分摂取ができない場合や、尿中ケトン体が強陽性となる場合などは、輸液を検討する重要な状況です。
ただし、5%という数値に達するまで受診を待つ必要はありません。
水分が取れない状態が続いているなら、体重の変化が小さくても医師に相談してください。
つわりがひどいときの治療と対処法妊娠悪阻では、症状や脱水の程度に応じて治療が行われます。
主な対応は次のとおりです。
1. 水分補給と輸液
経口で水分が取れない場合には、点滴によって水分や必要な栄養素を補います。
2. ビタミンB1の補充
重い嘔吐が続くと、ビタミンB1が不足する可能性があります。輸液の際にはビタミンB1の補充も重要です。
3. 吐き気を抑える薬
症状が強い場合は、医師が状態を確認したうえで制吐薬などの使用を検討します。
4. 食事や生活環境の調整
一度にたくさん食べようとせず、少量ずつ食べる方法や、においなどの刺激を避ける工夫も役立ちます。
食べられるものや飲めるものには個人差があるため、無理をせず、自分の状態に合った方法を医療スタッフと相談しましょう。
つわりの重さと赤ちゃんの健康は別に考えるつわりがひどいからといって、赤ちゃんが必ず健康上の問題を抱えているわけではありません。
一方、重い妊娠悪阻では母体の栄養状態や体重増加が妊娠経過に影響する可能性があります。
国立成育医療研究センターなどの研究チームは、エコチル調査の約10万人のデータを用いた2022年の研究で、妊娠悪阻の症状が治まった後も母親の体重増加が伸び悩むことが、出生時の赤ちゃんの体重に関係する可能性を報告しました。
この研究が示しているのは、つわりの症状が落ち着いた後も母体の栄養状態を確認する必要があるということです。
女の子か男の子かを考えることも楽しみの一つですが、まずは母体の健康と赤ちゃんの発育を優先することが大切です。
【よくある質問】つわりがひどい場合の性別に関する疑問
Q1:つわりがひどいと女の子が生まれる確率は高くなりますか?
A1:日本のエコチル調査では、女児妊娠の場合、男児妊娠よりも重いつわりのオッズが1.28倍高いという結果が報告されています。ただし、これは集団全体の統計的な関連であり、個人の出産結果を予測する確率ではありません。
Q2:つわりがまったくない場合は男の子ですか?
A2:そのようには判断できません。つわりがない妊婦でも女の子を出産することはあります。つわりの有無や重さだけで胎児の性別は分かりません。
Q3:つわりがひどいと双子の可能性もありますか?
A3:双胎妊娠では単胎妊娠よりもつわりが重くなる傾向が、エコチル調査で報告されています。ただし、つわりがひどいことだけで双子かどうかは判断できません。妊婦健診の超音波検査で胎児の数を確認できます。
Q4:赤ちゃんの性別は妊娠何週ごろに分かりますか?
A4:超音波検査では妊娠16週以降から分かるケースが増え、18~20週ごろには確認できることがあります。ただし、胎児の向きや姿勢によっては判定できない場合もあります。
Q5:つわりがひどい場合、妊娠悪阻なのでしょうか?
A5:必ずしもそうではありません。ただし、食事や水分が取れない、尿量が減る、体重が急激に減少するなどの症状がある場合は、妊娠悪阻の可能性があります。自己判断で我慢せず、産婦人科を受診してください。
「つわりがひどいと女の子」という言い伝えには、日本の大規模な出生コホート研究による裏付けがあります。
エコチル調査の91,666人を対象とした分析では、女児を妊娠した場合、男児の場合よりもつわりを経験するオッズが1.15倍、重いつわりのオッズが1.28倍高いことが示されました。
ただし、この研究は集団全体の傾向を明らかにしたものであり、つわりの症状から個人の赤ちゃんの性別を見分けることはできません。
2023年の『Nature』の研究などでは、胎児・胎盤由来のGDF15や母親側の感受性がつわりの重さに関係することも明らかになってきました。つわりの仕組みは、性別だけでは説明できない複雑なものです。
赤ちゃんの性別を知るには、妊婦健診での超音波検査による確認が基本です。
そして何より大切なのは、つわりの重さを我慢しないことです。水分が取れない、尿量が減る、体重が大きく減るなどの症状があれば、早めに産婦人科へ相談してください。
女の子でも男の子でも、妊娠中のつらさを一人で抱え込最初に、母体と赤ちゃんの健康を守ることを最優先にしましょう。
参考にした主な医学・公的資料- 光田直美氏ら「Severity of Nausea and Vomiting in Singleton and Twin Pregnancies in Relation to Fetal Sex」『Journal of Epidemiology』(2019年)。
- 環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」。
- 『Nature』「GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy」(2023年12月)。
- 日本産科婦人科学会『産婦人科診療ガイドライン―産科編2023』、厚生労働省「妊娠悪阻」。
- 国立成育医療研究センター「重いつわり(妊娠悪阻)と出生体重に関する研究」(2022年)。