2026年の大きな変化は、生成AIによる肖像の無断利用が、単なるネット上のマナーやプラットフォームの利用規約だけでなく、民事責任や学校教育の課題として具体的に整理され始めたことです。
法務省が2026年8月に公表した解釈指針法務省は2026年4月24日、「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」を設置しました。研究者や弁護士らが参加し、生成AIによって人物の顔や声が本人の許可なく使われた場合の法的問題を検討しています。
検討会は全5回開催され、同年8月7日に報告書「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」を公表しました。さらに10月22日には、9月30日の東京地裁判決に関する記載を追加した第1.1版が公開されています。
この報告書で特に注目されるのが、実在する俳優の顔と別人の裸体をAIで合成し、本人が裸になったかのような画像をSNSに公開する想定事例です。
法務省の検討会は、このような画像の公開について、本人に強い羞恥心や不快感を抱かせ、自尊心を傷つける行為となり、社会生活上受忍すべき限度を超える肖像権侵害に当たる可能性が高いとの考え方を示しました。
さらに重要なのは、対象者が芸能人ではなく一般人であっても、肖像権による保護の基本的な考え方は変わらないと整理している点です。収益を得ていない場合でも、肖像権侵害の可能性が当然になくなるわけではありません。
この報告書は新しい法律そのものではありません。既存の民法や判例法理を踏まえ、生成AIによる肖像・声の無断利用について、損害賠償や削除請求などの考え方を整理した資料です。
文部科学省は学校での被害・加害防止を推進文部科学省は2026年3月12日、性的ディープフェイクによる児童生徒の被害・加害を防ぐため、各教育委員会などに広報・啓発資料の活用を依頼しました。
啓発資料の一つが「そのAIの使い方、犯罪かも……~服を脱がすなどの画像加工のリスク~」です。本人が着衣している写真を生成AIで加工し、性的な画像に変える行為の危険性を伝える内容になっています。
文部科学省は、生命の安全教育やSNS上の情報モラル教育の充実も呼びかけています。被害が発生した場合には警察と連携し、被害を受けた児童生徒の心のケアや、加害側の児童生徒への指導にも取り組むよう求めています。
2026年の重要な動きを時系列で整理法務省、文部科学省、裁判所の動きを整理すると、画像・音声の無断利用に対する社会的な対応が段階的に具体化していることが分かります。
出典:法務省、文部科学省、東京地方裁判所関連資料。
なお、9月30日の東京地裁判決は、声優の津田健次郎さんの声に似たAI音声を使用した動画の削除請求に関するものです。裁判所は、人の声も個人の人格の象徴であり、一定の商業的利用についてパブリシティ権の保護対象になり得ると判断しました。
一方、削除請求そのものは、対象動画がすでに削除されていたため棄却されています。性的画像についての直接の判決ではありませんが、顔だけでなく声についても本人の権利が問題になることを示す動きです。
【法律を詳しく解説】AI性的画像の作成・公開で問われる5つの法的リスク

AIによる性的画像をめぐる法律問題は、一つの法律だけで判断できるものではありません。誰の画像を使ったのか、どのように作ったのか、公開したのか、収益を得たのか、被写体が実在する人物なのかによって適用される法的枠組みが変わります。
1. 肖像権・人格権の侵害肖像権は、本人の容貌などをみだりに撮影・利用されないという人格的利益に関わる権利です。日本では、憲法や民法の解釈、裁判例を通じて保護されてきました。
AI画像の場合、実際に撮影した写真を無断使用するケースだけが問題になるわけではありません。生成AIによって本人に似た顔を再現し、本人がしていない行為をしているように見せることも、権利侵害につながり得ます。
法務省の2026年報告書では、次のような事情を踏まえて判断する考え方が示されています。
- 画像の人物が本人に似ているか。
- 本人を対象にする意図があったか。
- 画像の生成・公開にどのような目的があったか。
- 画像の内容や公開方法が本人に与える影響。
- 本人が公開によって受ける精神的苦痛や私生活への影響。
特に性的な画像の場合、本人が自分を対象にしたものだと認識できることが、肖像権侵害の判断で重要になる場合があります。一般の閲覧者が本人だと特定できるかどうかだけで、すべてが決まるわけではありません。
2. パブリシティ権の侵害パブリシティ権とは、著名人などの氏名や肖像が持つ顧客吸引力を、商業的に利用する利益を保護する権利です。
例えば、著名な俳優の顔を無断でAI画像に使い、その人物の知名度を利用して有料コンテンツを販売したり、閲覧数を集めて広告収入を得たりする行為では、パブリシティ権が問題になる可能性があります。
ただし、本人の顔を使ったという事実だけで、必ずパブリシティ権侵害になるわけではありません。法務省の報告書は、肖像そのものを商品として利用する場合、商品を差別化するために使う場合、広告に利用する場合などの判断枠組みを整理しています。
また、パブリシティ権と肖像権は別の利益を保護しています。商業的な目的が認められないケースでも、肖像権や人格的利益の侵害が成立する可能性は残ります。
3. 性的姿態撮影等処罰法・リベンジポルノ防止法との関係日本には、本人の同意なく性的な姿態を撮影する行為などを処罰する性的姿態撮影等処罰法があります。また、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律、いわゆるリベンジポルノ防止法も存在します。
これらの法律は、実際の性的な姿態の撮影や、撮影された私事性的画像記録の提供・公表などを対象とするものです。そのため、AIがゼロから生成した画像に、これらの法律がすべて自動的に適用されると考えるのは正確ではありません。
実在する人物の写真を素材にした合成なのか、実際の性的画像を加工したのか、誰がどのような方法で公開したのかなど、具体的な事情によって法的評価が異なります。
4. 児童ポルノ禁止法との関係児童を対象とする性的ディープフェイクは、成人の画像とは異なる深刻な法的問題を抱えています。
2025年4月9日の衆議院内閣委員会では、AIで生成された性的画像が児童ポルノ禁止法の対象になるかについて、政府が答弁しました。
法務省側は、同法上の児童ポルノについて、実在する児童の姿態を描写したものが対象になるという最高裁判所の解釈を説明。そのうえで、実在する児童の画像を基に生成された性的画像や動画についても、具体的な証拠に照らして実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合には、児童ポルノに該当し得るとの考え方を示しています。
つまり、AIによる加工を施したからといって、実在する児童を対象とした性的画像が当然に法律の対象外になるわけではありません。画像の製造や提供などについても、具体的な行為に応じた法的評価が必要です。
また、実在しない児童を描写した画像が同法の定義に含まれるかという問題と、他の法律や権利侵害が成立するかという問題は分けて考える必要があります。
5. 名誉毀損・侮辱・その他の民事責任性的なAI画像を本人の名前や所属先と結び付けて公開すると、名誉や社会的評価を傷つける問題も発生します。
内容や公開方法によっては、刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪、民法709条に基づく不法行為責任などが問題になる可能性があります。脅迫や嫌がらせを伴う場合には、さらに別の法的問題が生じることもあります。
重要なのは、画像がAIで作られたという理由だけで、公開者の責任がなくなるわけではないことです。作成者、投稿者、拡散者の行為は、それぞれの関与や認識、具体的な状況に応じて評価されます。
【著作権との違い】AI画像加工で気を付けたい権利関係
AI画像をめぐるトラブルでは、肖像権と著作権が混同されがちです。しかし、両者は保護する対象が異なります。
肖像権は人物、著作権は創作的な表現を保護する例えば、写真家が撮影した人物写真をAIで加工するケースを考えてみます。
この場合、写真そのものには撮影者の著作権が関係する可能性があります。一方、写真に写っている人物については、肖像権やプライバシーなどの人格的利益が問題になります。
つまり、写真の著作権者から使用許可を得たとしても、被写体本人の権利まで自由に利用できるとは限りません。逆に、本人が画像の利用を許可していても、写真家の著作権が自動的に消滅するわけではありません。
生成AIの学習データと生成画像の著作権文化庁は2024年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」を公表しています。これは2026年時点でも、日本における生成AIと著作権の関係を理解するための基本資料です。
主な論点は次の3つです。
- 学習段階: 著作権法30条の4などによって、一定の条件下で著作物をAI学習に利用できる場合がある。ただし、無条件に許されるわけではない。
- 生成段階: 既存の著作物に類似した画像を生成した場合、元作品への依拠性などが問題になる。
- 利用段階: 生成画像を公開・販売する場合も、既存作品の創作的表現を利用していないか確認する必要がある。
また、AI生成画像そのものに著作権が成立するかどうかは、利用者の創作的寄与などによって個別に判断されます。プロンプトを入力しただけで、すべての生成画像に自動的に著作権が発生するわけではありません。
このため、AI画像を商用利用するクリエイターや企業は、利用する生成AIの規約だけでなく、学習データの権利関係、生成物の類似性、利用目的などを確認する必要があります。
【実際の利用で失敗しない】被害を防ぐための判断基準と対応策
画像を作る側が守りたい5つの基準AI画像を制作・公開する場合は、次の基準を設けると権利侵害やトラブルのリスクを抑えられます。
1. 実在する人物の顔や身体を、本人の許可なく性的な画像に合成しない。
2. 他人の写真をAIサービスにアップロードする前に、利用許諾とサービスのデータ取り扱いを確認する。
3. 有名人や一般人になりすました画像を、本人の実際の行動や発言であるかのように公開しない。
4. 既存の写真、イラスト、キャラクターの権利関係を確認する。
5. 生成画像であることや利用条件を、必要に応じて明確に表示する。
安全な創作を目的とするなら、実在人物の肖像を無断で再現するのではなく、特定の人物と結び付かない架空の成人キャラクターやオリジナルの世界観を利用する方法が適しています。
被害に遭った場合の対応自分や家族、知人の顔写真を使った性的ディープフェイクを発見した場合、最初に行いたいのは証拠の保全です。
投稿内容を記録する
投稿日時、アカウント名、投稿画面、画像の掲載状況などを記録します。削除される前に、必要な証拠を安全に保存します。
プラットフォームに削除を申請する
性的画像の無断利用や本人になりすました投稿であることを説明し、削除やアカウントへの対応を求めます。
警察や法律の専門家に相談する
脅迫、金銭要求、児童生徒への被害、継続的な嫌がらせなどがある場合は、早期に警察へ相談します。
学校や支援機関と連携する
児童生徒が被害に遭った場合は、学校や保護者と連携し、心理的な負担を軽減する支援につなげます。
被害画像を確認するために何度も閲覧したり、第三者に転送したりすることは避けましょう。拡散を止めることと、被害者の心理的な安全を守ることを優先する必要があります。
文部科学省が2026年に示した学校向けの対応方針も、警察との連携、被害を受けた児童生徒への心のケア、加害側への指導を重視しています。
【プロの結論】AI無修正を調べるときに知っておくべき本質
「AI無修正」という検索語だけでは、画像の出所も、実在人物が写っているかどうかも、権利関係も判断できません。
本当に重要なのは、画像がAI生成なのか実写なのかという二択だけではありません。誰を対象に、どのような意図で作成し、本人の同意なく公開したのかという背景です。
2026年の法務省報告書が示した大きな要点は、生成AIによる性的画像の合成について、実際に裸の写真を撮影していなくても、本人の人格的利益を侵害する可能性があると整理したことです。しかも、この問題は著名人だけでなく一般の人にも関係します。
一方、AI画像のすべてが違法というわけでもありません。架空の人物を使った創作、正当な許諾を得た画像加工、権利関係を適切に処理した商用利用などは、具体的な内容と条件に応じて評価されます。
情報を見極める際には、次の判断基準が役立ちます。
- 画像の生成元や撮影元が説明されているか。
- 実在人物の顔や身体を無断で使っていないか。
- 本人の同意や画像の利用許諾が確認できるか。
- AI生成画像を実写として誤認させる公開方法になっていないか。
- 著作権、肖像権、プライバシーなどの権利関係が整理されているか。
技術の進歩によって、見た目だけで実写とAIを区別することはますます難しくなっています。だからこそ、画像の来歴と本人の権利を重視する姿勢が、AIを安全に利用するための基本になります。
AI無修正に関するよくある質問(FAQ)
Q1:AI無修正とは、加工されていないAI画像のことですか?
A1:必ずしもそうではありません。「AI無修正」は正式な技術用語ではなく、生成直後の未加工画像、実写風のAI画像、性的なAI画像など、複数の意味で使われています。検索結果の内容を確認し、何を指しているのか区別する必要があります。
Q2:AI無修正画像と実写写真を確実に見分ける方法はありますか?
A2:見た目だけで100%判別する方法はありません。手指や光の不自然さ、画像検索、投稿履歴、メタデータ、C2PAなどの来歴情報を組み合わせて確認することが有効です。ただし、どの方法にも限界があります。
Q3:本人の許可なくAIで性的画像を作成・公開すると違法ですか?
A3:内容や作成・公開方法によっては、肖像権、プライバシー権、パブリシティ権などの侵害となり、損害賠償や削除請求の対象になる可能性があります。加えて、画像の内容や対象者、公開方法によっては刑事法上の問題も生じます。2026年の法務省報告書でも、本人が裸になったように見せるAI画像の公開について、肖像権侵害の可能性が高いとの考え方が示されています。
AI無修正という言葉は、画像の加工状態や生成方法を示す統一された専門用語ではありません。AI生成画像、実写風画像、AI加工画像、性的ディープフェイクを区別して理解することが第一歩です。
2026年は、法務省による肖像・声の無断利用に関する解釈指針の公表、文部科学省による学校向けの性的ディープフェイク対策など、具体的な対応が進んだ年となりました。
今後は、AI生成画像の技術的な精度だけでなく、生成物の来歴を証明する技術、本人の同意を確認する仕組み、SNSによる削除対応、被害者の救済制度が重要な論点になると考えられます。
AI画像を利用する側に求められるのは、生成できるかどうかだけで判断しないことです。本人の同意、肖像権、著作権、公開目的を確認し、他人の尊厳を損なわない使い方を選ぶことが、これからの生成AI時代に欠かせない判断基準です。
主な参照資料:法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書」(2026年8月・第1.1版)、文部科学省「生成AIによる画像加工に関する啓発」、文化庁「AIと著作権に関する考え方について」、衆議院内閣委員会会議録(2025年4月9日)、NEDO「AI 知っておきたい基礎知識」。