江別大学生暴行死事件の刑事裁判を理解するうえで重要なのが、適用された罪名である「強盗致死罪」です。
一般的には大学生殺人事件と呼ばれることがありますが、起訴された主な罪名は殺人罪ではなく、刑法240条の強盗致死罪でした。
強盗致死罪とはどのような犯罪か強盗致死罪は、強盗の過程で人を死亡させた場合に成立する犯罪です。
2024年10月の事件当時に適用されていた刑法240条では、次のように規定されていました。
刑法第240条(強盗致死傷)
強盗が人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
つまり、被害者が死亡した場合の法定刑は、死刑または無期懲役という非常に重いものです。
ここで注意したいのは、強盗致死罪と殺人罪は異なる犯罪だという点です。
| 犯罪 | 問われる行為 |
|---|---|
| 殺人罪 | 人を殺す意思をもって死亡させる行為 |
| 強盗致死罪 | 強盗の過程で人を死亡させる行為 |
| 傷害致死罪 | 暴行・傷害によって人を死亡させる行為 |
今回の事件では、金品を奪う目的が生じた後の暴行によって長谷さんが死亡したかどうかが、強盗致死罪の成立を判断する要点になりました。
札幌地裁が示した強盗致死罪成立の判断2026年6月3日、札幌地裁は先行する3人の裁判員裁判で中間判断を示しました。
裁判所は、金品を要求する意思が生じた後の暴行によって長谷さんが死亡したと認定し、強盗致死罪が成立するとの考えを示しました。
つまり、最初の交際トラブルをめぐる暴行だけでなく、金品を奪う目的が加わった後の暴行と死亡結果との関係が、法的に重く評価されたのです。
この判断によって、先行審理では罪名そのものよりも、各被告にどの程度の刑罰を科すべきかという量刑が中心的な争点になりました。
なぜ2026年の判決で懲役30年と無期懲役が出たのか同じ強盗致死事件でも、全員に同じ刑罰が科されたわけではありません。
裁判所が重視したのは、主に次のような点です。
- 犯行を主導したか、それとも従属的な立場だったか。
- 暴行をどの程度繰り返したか。
- 金品を奪う行為にどのように関与したか。
- 被害者の死亡にどの程度関与したか。
- 犯行当時の年齢や個別の事情。
例えば川口被告については、暴行を主導し、動画撮影や残忍な行為の提案によって犯行をエスカレートさせたことが重く評価され、無期懲役となりました。
一方、川村被告については、事件のきっかけを作り犯行を牽引したと評価されながらも、死亡への直接的な寄与は限定的と判断され、懲役30年となっています。
同じ犯罪の共犯者であっても、関与の内容や責任の重さによって量刑が異なることを示す判断です。
2025年の拘禁刑制度変更との関係もう一つ知っておきたいのが、刑罰制度の変更です。
2025年6月1日から、日本では従来の懲役刑と禁錮刑が廃止され、新たに拘禁刑が導入されました。
ただし、この事件の発生は2024年10月です。
そのため、2025年6月1日より前の行為には原則として従来の懲役・禁錮の制度が適用されます。2026年に判決が言い渡されていても、懲役30年や無期懲役という表記が使われるのはそのためです。
これは事件の発生時期と判決時期を区別するうえで、要点です。
【2026年最新裁判状況】札幌地裁の判決と控訴審の行方

2026年は、江別大学生暴行死事件の刑事裁判が大きく進展した年です。
特に注目されたのが、6月25日と8月7日に言い渡された2つの裁判員裁判の判決です。
6月25日:川村被告ら3人に実刑判決最初の裁判員裁判では、川村葉音被告、滝沢海裕被告、当時16歳の少年の3人に判決が言い渡されました。
検察側は川村被告に無期懲役を求刑していましたが、札幌地裁は懲役30年を選択しました。
滝沢被告には求刑通りの懲役20年、当時16歳の少年には求刑を下回る懲役9年以上13年以下の不定期刑が言い渡されました。
判決の特徴は、事件の発端を作ったとされる川村被告と、実際に暴行を助長した滝沢被告、比較的従属的だった少年の責任を、それぞれ区別したことです。
7月9~10日:控訴と判決確定7月9日には、川村被告本人と札幌地検の双方が控訴しました。
検察側は無期懲役の求刑に対して懲役30年となった判決を不服とし、川村被告側も判決を争う姿勢を示しました。
一方、滝沢被告と当時16歳の少年は、双方が控訴しなかったため、7月10日にそれぞれの判決が確定しました。
8月7日:川口被告に無期懲役、当時17歳の少年に懲役30年2つ目の裁判員裁判では、川口侑斗被告と当時17歳の少年に判決が言い渡されました。
川口侑斗被告
札幌地裁は、暴行を終始主導したことや、動画撮影などによって犯行をエスカレートさせたことを重く評価しました。
検察側の求刑通り、無期懲役です。
当時17歳の少年
川口被告とともに金品を執拗に要求し、犯行で果たした役割が大きかったと判断されました。
こちらも求刑通りの懲役30年です。
8月以降の控訴状況8月10日には川口被告本人が無期懲役判決を不服として控訴しました。
当時17歳だった少年は控訴せず、8月24日に懲役30年が確定しています。
2026年11月5日現在の裁判状況を整理すると、次の3つに分かれます。
- 判決確定: 滝沢被告、当時16歳の少年、当時17歳の少年。
- 控訴中: 川村被告、川口被告。
- 一審未実施: 八木原被告。
なお、川村被告と川口被告については、控訴したことが報じられていますが、ここで紹介する2026年の公開報道では控訴審の結論は確認できません。
【プロの結論】江別大学生殺人事件の真相から見える3つの重要な論点
この事件を理解するには、単に6人の刑罰を比較するだけでは不十分です。
裁判で明らかになった事実を整理すると、事件には3つの重要な論点があります。
1. 交際トラブルは事件の発端であって、暴行の正当化にはならない検察側は、交際関係をめぐる問題が事件の発端だったと説明しています。
しかし、個人的な不満や交際相手への怒りがあったとしても、集団で人を拘束するように取り囲み、暴行を加え、金品を奪う行為が正当化されることはありません。
この事件では、対人トラブルが複数人に共有され、暴力によって解決しようとする方向へ進んだことが問題の本質です。
2. 共犯者の責任は「誰が一番殴ったか」だけでは決まらない今回の判決で特に重要なのは、暴行の直接的な実行者だけでなく、犯行を始めるきっかけを作った人物や、ほかの共犯者を動かした人物の責任も問われた点です。
川村被告は、主犯とは評価されなかったものの、事件の端緒を作り、暴行をエスカレートさせたと判断されました。
川口被告は、犯行全体を主導したことが無期懲役という判決につながりました。
つまり、刑事責任を考える際には、暴行の回数だけでなく、犯行計画、共謀、役割分担、金品強奪への関与、死亡結果との関係を総合的に見る必要があります。
3. 事件は一審判決だけでは終わっていない2026年11月現在、5人に一審判決が出ている一方、川村被告と川口被告は控訴しています。
加えて、八木原被告の裁判も残っています。
したがって、6人全員について司法判断が確定したと考えるのは正確ではありません。
特に八木原被告については、長谷さんとの交際関係や事件当日の経緯、ほかの被告との共謀関係などが審理されることになります。
長谷知哉さんの遺族が訴えたこと事件の刑罰を考える際に忘れてはならないのが、被害者遺族の存在です。
2026年8月の裁判では、長谷さんの姉が法廷で意見陳述を行いました。
「事件の日を境に人生が変わりました」
姉は、反省や謝罪の言葉を聞いても弟が帰ってくることはないと訴え、年齢を理由に弟の命が軽く扱われることがあってはならないと述べました。
父親と母親も、主犯格とされた被告に対する厳しい処罰を求めています。
これは単に重い刑罰を望むというだけでなく、突然家族を失った遺族の深い悲しみと、事件に対する強い処罰感情を示すものです。
【江別大学生殺人事件】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:江別大学生殺人事件はいつ、どこで発生しましたか?
A1:2024年10月25日深夜から26日早朝にかけて、北海道江別市文京台南町の公園で発生しました。千歳市在住の大学生、長谷知哉さん(当時20歳)が集団暴行を受け、外傷性ショックで死亡しました。
Q2:事件に関与した6人の被告は誰ですか?
A2:八木原亜麻被告、川村葉音被告、川口侑斗被告、滝沢海裕被告、事件当時17歳の少年、事件当時16歳の少年です。
Q3:川村葉音被告の判決は懲役何年ですか?
A3:2026年6月25日、札幌地裁は懲役30年を言い渡しました。検察側は無期懲役を求刑しており、被告側と検察側の双方が控訴しています。
Q4:川口侑斗被告は無期懲役になったのですか?
A4:はい。2026年8月7日、札幌地裁は無期懲役を言い渡しました。川口被告本人は8月10日付で控訴しています。
Q5:キャッシュカードからはいくら引き出されたのですか?
A5:報道や起訴内容によると、長谷さんのキャッシュカードから引き出された金額は12万7,000円です。奪われたクレジットカードも、たばこなどの購入に使われたとされています。
Q6:八木原亜麻被告の裁判はどうなっていますか?
A6:ほかの5人とは別に裁判が予定されています。2026年8月時点の報道では初公判の日程は未定で、2026年11月5日時点でも、判決は出ていません。
江別大学生暴行死事件は、2024年10月に北海道江別市で発生した、極めて重大な集団暴行・強盗致死事件です。
長谷知哉さん(当時20歳)は、交際関係をめぐるトラブルを発端として複数人から暴行を受け、現金やカードを奪われ、命を落としました。
2026年には札幌地裁で5人に実刑判決が言い渡され、刑罰は次のように分かれました。
- 川口侑斗被告:無期懲役(控訴)
- 川村葉音被告:懲役30年(双方控訴)
- 当時17歳の少年:懲役30年(確定)
- 滝沢海裕被告:懲役20年(確定)
- 当時16歳の少年:懲役9年以上13年以下(確定)
一方、八木原亜麻被告の裁判は残されています。
今後の焦点は、控訴した2人の司法判断と、八木原被告の公判がどのように進むかです。
事件の背景にあった交際トラブル、集団暴行に至るまでの経緯、金品強奪への関与、そして被告それぞれの刑事責任。これらを切り分けて理解することが、事件の全容を正しく捉えるために欠かせません。
何よりも、長谷さんが生きて帰ることのない現実と、残された家族の苦しみを忘れてはならないでしょう。
2026年11月5日現在、この事件はまだ司法手続のすべてが終わったわけではありません。今後の控訴審と残る裁判の行方が注目されます。