「泣きっ面に蜂(なきっつらにはち)」は、すでに不幸や困難に見舞われているところへ、さらに別の災難が重なることを表す日本のことわざです。仕事で失敗した日に体調まで崩したり、旅行先で財布をなくしたうえに電車まで運休したりするような状況に使われます。
この表現は、泣いて腫れた顔をさらに蜂が刺すという、想像するだけでも痛々しい情景に由来します。江戸時代から使われてきた歴史があり、「弱り目に祟り目」「踏んだり蹴ったり」といった類語とも深く関係しています。2026年現在も日常会話や文章で使われる、意味の分かりやすいことわざの一つです。
【意味と読み方】泣きっ面に蜂はどんな状況を表すことわざ?

「泣きっ面に蜂」の読み方は「なきっつらにはち」です。「泣き面に蜂」と書く場合もあり、どちらも同じ意味で使われます。
意味は、すでに不幸な目に遭っている人に、追い打ちをかけるように別の不幸が起こることです。単に嫌なことが起きるだけではなく、最初の災難に続いて、さらに困った事態が発生するという点が特徴です。
言葉を分解すると意味が理解しやすいこのことわざは、「泣きっ面」と「蜂」という二つの言葉から成り立っています。
- 泣きっ面:悲しいことや苦しいことがあって泣いている顔。
- 蜂:すでに痛みや苦しみを抱えている顔に、さらに痛みを与える存在。
つまり、泣くほどつらい状況にある人が、さらに蜂に刺されるという二重の苦痛を表現しています。
ここで重要なのは、必ずしも本人が実際に泣いている必要はないという点です。仕事の失敗、金銭的な損失、体調不良、人間関係のトラブルなど、精神的・物理的な不運が続く状況にも幅広く使えます。
「不運が重なる」との意味の違い「不運が重なる」は、複数の悪い出来事が続くことを直接的に説明する表現です。一方、「泣きっ面に蜂」は、その状況を印象的な比喩で伝えることわざです。
例えば、「今週は不運が重なった」と言えば事実を淡々と説明する表現になります。「今週は泣きっ面に蜂だった」と言い換えれば、次々と災難に見舞われたことへの嘆きや苦笑いまで伝わります。
相手に状況を簡潔に説明したい場合は「不運が重なる」、会話に感情や臨場感を加えたい場合は「泣きっ面に蜂」が適しています。
【由来・語源】泣きっ面に蜂は江戸時代から使われていた?
「泣きっ面に蜂」の由来は、泣いている顔をさらに蜂が刺すという情景を、不幸が重なる状況にたとえたものです。
単なる言葉遊びではなく、すでに苦痛を感じている人に追加の痛みが襲いかかるという、非常に分かりやすい比喩になっています。
もともとは「泣きっ面を蜂が刺す」という形だった『ことわざを知る辞典』の解説によると、この表現は江戸時代中期には「泣きっ面を蜂が刺す」など、現在より長い形で使われていました。
その後、江戸時代後期には江戸いろはかるたに収録され、広く知られるようになりました。20世紀に入ると、現在一般的な「泣きっ面に蜂」という短い形が優勢になっています。
つまり、現代の表現は、もともとの情景を簡潔にまとめた形として定着したものです。
江戸いろはかるたとの関係「泣きっ面に蜂」は、江戸いろはかるたの「な」の札として知られています。いろはかるたは、いろは順の文字にことわざや教訓を組み合わせた遊びで、子どもが言葉や生活の知恵を学ぶ機会にもなっていました。
ことわざがかるたに採用されたことで、家庭や地域の遊びを通じて多くの人に伝わり、日常的な表現として定着したと考えられます。
なお、蜂に刺された実在の人物や特定の事件が語源になったという話ではありません。言葉の由来は、あくまで不幸の上に不幸が重なる様子を描いた比喩にあります。
【使い方・例文】泣きっ面に蜂を自然に使うポイント
「泣きっ面に蜂」は、最初のトラブルだけでなく、その後に別の災難まで起きた状況で使うのが基本です。
自分の身に起きた不運を振り返るときにも、他人の不運を説明するときにも使用できます。ただし、相手の苦しみを軽く扱うように聞こえる場合もあるため、場面に応じた配慮が必要です。
日常会話で使える例文例文1:仕事でのトラブル
「大事な会議で資料を間違えてしまったうえに、帰り際にはパソコンまで故障した。まさに泣きっ面に蜂だ。」
最初の失敗に加えて、さらに別の問題が起きた状況です。仕事や学校など、日常的な場面で使いやすい例です。
例文2:旅行中の災難
「旅行先で財布を落としただけでも大変なのに、帰りの電車まで運休するなんて泣きっ面に蜂だよ。」
一つ目のトラブルに続いて、移動にも支障が出た状況を表しています。
例文3:体調不良と生活上の問題
「風邪で寝込んでいるときに給湯器まで壊れてしまった。泣きっ面に蜂とはこのことだ。」
すでに体調が悪いところへ、生活に関わる問題が追加されたケースです。
例文4:金銭的なトラブル
「急な出費が続いて貯金が減っているのに、今度は車の修理代まで必要になった。まったく泣きっ面に蜂だ。」
経済的な負担が重なっていることを表現しています。
例文5:友人との会話
「昨日は寝坊して遅刻したし、今日はスマートフォンを壊してしまった。最近、本当に泣きっ面に蜂だよ。」
続けて起きた小さな不運を、少し自嘲気味に話す使い方です。
文章で使う場合の表現会話だけでなく、日記やブログ、ビジネス関連の文章でも使用できます。
- 「災難が続き、まさに泣きっ面に蜂の状態だった。」
- 「業績が落ち込むなかで主要取引先との契約も終了し、泣きっ面に蜂となった。」
- 「故障した機械を修理した直後に別の設備まで停止するとは、泣きっ面に蜂というほかない。」
- 「一つの問題が解決する前に次の問題が発生し、泣きっ面に蜂のような状況に陥った。」
よくある誤用は、単に一つの悪い出来事が起きただけの状況に使うことです。
例えば、「試験に落ちてしまった。泣きっ面に蜂だ」という文章では、試験に落ちた後に別の不運が発生していないため、ことわざの本来の意味が十分に生かされていません。
「試験に落ちたうえに、受験料の振り込みまで忘れていた。泣きっ面に蜂だ」とすれば、二つの問題が重なっているため自然です。
また、深刻な事故や病気、身近な人を亡くした人に対して安易に使うのも避けたいところです。言葉としては正しくても、相手の苦しみを軽く受け止めている印象を与える可能性があります。
【類語・対義語】似た意味のことわざとの関係を比較
「泣きっ面に蜂」には、似た意味を持つことわざや慣用表現が複数あります。特に「弱り目に祟り目」「踏んだり蹴ったり」は、日常会話でも置き換えられることが多い表現です。
ただし、それぞれに微妙なニュアンスの違いがあります。意味を理解して使い分けると、状況をより正確に伝えられます。
代表的な類語・関連表現の比較| 表現 | 意味・中心となるイメージ | 使い分けのポイント |
|---|---|---|
| 泣きっ面に蜂 | 不幸の上にさらに不幸が重なる | 追い打ちをかける災難を強調する |
| 弱り目に祟り目 | 弱っているときに、さらに災難に遭う | 困難な状態にある人への追加の災難を強調する |
| 踏んだり蹴ったり | 重ね重ねひどい目に遭う | 災難が続いた結果や散々な状況を強調する |
| 一難去ってまた一難 | 一つの問題が解決すると、次の問題が起きる | 災難が順番に続く状況を表す |
| 傷口に塩を塗る | すでにある苦痛をさらに増やす | 誰かの行動が苦しみを悪化させる場合にも使う |
| ダブルパンチ | 二つの打撃や不利益を受ける | 二重の打撃をカジュアルに表現する |
「弱り目に祟り目(よわりめにたたりめ)」は、すでに弱った状態にある人が、さらに災難に遭うことを意味します。
小学館の『デジタル大辞泉』でも、「弱り目に祟り目」は「泣き面に蜂」と同じような意味を持つ表現として説明されています。
両者の意味は非常に近く、基本的には言い換えが可能です。ただし、言葉が持つイメージには違いがあります。
「泣きっ面に蜂」は、泣いている顔に蜂が刺すという具体的で視覚的な比喩です。一方、「弱り目に祟り目」は、すでに弱っているところへ災いが重なるという、状態そのものに焦点を当てています。
例えば、次のように使い分けられます。
- 「失恋した直後に財布までなくした。泣きっ面に蜂だ。」
- 「病気で仕事を休んでいるところへ家族まで体調を崩し、弱り目に祟り目だ。」
「踏んだり蹴ったり」は、何度もひどい目に遭うことを表す慣用表現です。
「泣きっ面に蜂」と同様に不運が続く状況で使えますが、こちらは災難の連続によって、最終的に散々な目に遭ったというニュアンスが強くなります。
例えば、「朝から電車が遅れ、仕事ではミスをし、帰宅途中には雨に降られた。今日は踏んだり蹴ったりだ」という使い方が自然です。
一方、「泣きっ面に蜂」は、すでに困っているところへ追加の災難が襲ってきたという構図を、より強く意識させる表現です。
対義語は「笑う門には福来る」?「泣きっ面に蜂」には、辞書で一対一に定められた一般的な対義語はありません。ただし、意味の方向性が反対になることわざとして「笑う門には福来る」が挙げられます。
「笑う門には福来る(わらうかどにはふくきたる)」は、いつも笑い声が絶えず、明るく和やかな家庭には自然と幸福が訪れるという意味です。
不幸が重なる「泣きっ面に蜂」に対し、幸福が訪れる「笑う門には福来る」という対照的な関係です。
また、「禍を転じて福となす(わざわいをてんじてふくとなす)」も、関連する対照表現です。こちらは災難や失敗をうまく生かして、最終的に良い結果につなげることを意味します。
ただし、単に幸運が続くことを意味するわけではありません。悪い出来事をきっかけに、状況を好転させるという積極的な意味があります。
【英語表現】泣きっ面に蜂は英語で何と言う?
「泣きっ面に蜂」を英語で表現する場合、意味が近いことわざとして「Misfortunes never come singly.」が挙げられます。
直訳すると「不幸は単独ではやって来ない」という意味で、日本語の「不幸が重なる」「泣きっ面に蜂」に近いニュアンスを持っています。
代表的な英語表現3つ1. Misfortunes never come singly.
「災難は一つだけではやって来ない」という意味のことわざです。複数の不幸が続く状況を表し、日本語の「泣きっ面に蜂」に近い表現として紹介できます。
2. When it rains, it pours.
「雨が降るときは土砂降りになる」という意味の英語の慣用表現です。悪いことが一つ起きると、次々に別の悪いことまで起こる状況で使われます。
Cambridge English Dictionaryでも、悪い出来事が起きた後に、さらに多くの悪い出来事が続いて状況を悪化させる場合の表現として説明されています。
日常会話で使いやすく、現代英語で「泣きっ面に蜂」に近い言い回しを探している場合に適しています。
3. It never rains but it pours.
こちらは「When it rains, it pours」と同じ意味で使われる表現です。Cambridge English Dictionaryでは、主にイギリス英語で使われる言い方として紹介されています。
英語の例文英語での使用例を見てみましょう。
例文1:
「I lost my wallet, and then my phone broke. When it rains, it pours.」
財布をなくしたうえに、今度は携帯電話まで壊れた。まさに泣きっ面に蜂だ。
例文2:
「First I lost my job, and then my car broke down. Misfortunes never come singly.」
最初に仕事を失い、そのうえ車まで故障した。不幸は重なるものだ。
英語では、ことわざらしい言い方をしたいなら「Misfortunes never come singly.」、会話の中で自然に表現したいなら「When it rains, it pours.」を選ぶとよいでしょう。
【プロの結論】泣きっ面に蜂を正しく使うための判断基準
「泣きっ面に蜂」を自然に使うために押さえておきたいのは、すでに起きている不幸に、さらに別の不幸が加わったかどうかという点です。
この条件を理解しておけば、似た表現との混同や誤用を防げます。
使う前に確認したい3つのポイント- 最初の不運があるか:すでに失敗や困難、損失などが発生している。
- 追加の災難が起きているか:最初の問題に加えて、別の悪い出来事が発生している。
- 表現する場面に配慮できているか:相手の深刻な不幸を軽く扱うような使い方になっていない。
この三つを満たしていれば、日常会話でも文章でも自然に使いやすくなります。
場面によって類語を使い分ける会話で不運が重なったことを軽く伝えたいなら「踏んだり蹴ったり」、すでに困っている人にさらなる災難が起きた状況なら「弱り目に祟り目」が適しています。
一つの問題が片付いた直後に次の問題が起きた場合は「一難去ってまた一難」がぴったりです。
また、誰かの言動によって、すでに傷ついている人がさらに苦しむ状況では「傷口に塩を塗る」が使えます。
このように、似た表現でも、災難が起きる順番や原因、誰の立場から状況を描写するかによって適切な言葉は変わります。
【よくある質問】泣きっ面に蜂に関するFAQ
Q1:泣きっ面に蜂の正しい読み方は?
A1:「なきっつらにはち」と読みます。「泣き面に蜂」という表記もありますが、意味は同じです。
Q2:泣きっ面に蜂の由来は何ですか?
A2:泣いている顔をさらに蜂が刺すという情景に由来します。江戸時代中期には長い形で使われ、江戸後期には江戸いろはかるたにも収録されました。
Q3:泣きっ面に蜂と弱り目に祟り目は同じ意味ですか?
A3:基本的には同じ意味です。どちらも、困っているときにさらに災難が重なることを表します。「泣きっ面に蜂」は具体的な情景、「弱り目に祟り目」は弱った状態に災難が加わることに重点があります。
Q4:泣きっ面に蜂の対義語は何ですか?
A4:厳密に定まった対義語はありませんが、反対の意味合いを持つ表現として「笑う門には福来る」が挙げられます。また、災難を良い結果につなげる意味では「禍を転じて福となす」も関連する表現です。
Q5:泣きっ面に蜂は英語で何と言いますか?
A5:「Misfortunes never come singly.」や「When it rains, it pours.」が代表的です。どちらも不幸が続く状況を表します。
Q6:泣きっ面に蜂は悪いことが一つ起きただけでも使えますか?
A6:基本的には適切ではありません。最初の不運に加えて、さらに別の災難が起きた状況で使うのが本来の意味です。
「泣きっ面に蜂」は、すでに不幸や困難に見舞われているところへ、さらに別の災難が重なることを表す日本のことわざです。読み方は「なきっつらにはち」で、泣いている顔を蜂がさらに刺すという印象的な情景が由来になっています。
江戸時代中期から使われ、江戸いろはかるたにも取り入れられた歴史のある表現です。現代でも、仕事や学校、旅行、日常生活など、さまざまな場面で使われています。
類語には「弱り目に祟り目」「踏んだり蹴ったり」「一難去ってまた一難」があり、それぞれ少しずつニュアンスが異なります。対照的な表現としては「笑う門には福来る」があり、英語では「Misfortunes never come singly.」や「When it rains, it pours.」が近い意味を持ちます。
使い分けの要点は、一つ目の不運だけでなく、その後に追加の災難が起きているかどうかです。意味と背景を正しく理解しておけば、自分の状況を説明するときにも、相手の話に共感するときにも、より自然な日本語として活用できます。
主な参照資料: 小学館『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』、学研『ことわざを知る辞典』、イミダス「会話で使えることわざ辞典」、Cambridge English Dictionary。