「そろりそろり」という言葉を聞くと、狂言師・和泉元彌の独特な表情や動きを再現するチョコレートプラネットの長田庄平を思い浮かべる人も多いのと考えられます。テレビやバラエティー番組をきっかけに広く知られるようになったこのフレーズですが、実は和泉元彌やチョコプラが考案した言葉ではありません。日本語として古くから存在し、伝統芸能の狂言でも使われてきた表現です。
辞書に記された本来の意味は「ゆっくりと静かに動くさま」。狂言の定型的な台詞「最初に、そろりそろりと参ろう」と、2018年ごろから広まった長田のものまねには、どのような関係があるのでしょうか。言葉の歴史、和泉流と大蔵流の違い、「あむあむ」の正体、そして2026年現在の和泉元彌の活動まで、時系列に沿って整理します。
【意味を解説】そろりそろりとは何?辞書に記された本来の使い方

「そろりそろり」は、動作がゆっくりと静かに行われる様子を表す副詞です。単に移動速度が遅いというだけではなく、周囲に気を配りながら、物音を立てないように慎重に動くニュアンスも含みます。
「そろりそろり」の辞書的な意味『精選版 日本国語大辞典』では、「そろりそろり」を、動作がゆっくりと静かに行われるさまを表す語として説明しています。多くの場合、「そろりそろりと」という形で使われます。
例えば、次のような場面が典型的です。
- 眠っている赤ちゃんを起こさないように、そろりそろりと部屋を出る。
- 暗い廊下を、そろりそろりと歩いていく。
- 物音を立てないように、そろりそろりと扉を開ける。
- 相手の様子をうかがいながら、そろりそろりと話を切り出す。
いずれも共通しているのは、勢いよく動くのではなく、静かに慎重に行動するという点です。
「そろそろ」と「そろりそろり」は何が違う?似た言葉に「そろそろ」がありますが、意味と使い方には違いがあります。
| 表現 | 主な意味 | 使用例 |
|---|---|---|
| そろりそろり | ゆっくり静かに動く | そろりそろりと歩く |
| そろりと | 静かに、滑らかに動く | そろりと戸を開ける |
| そろそろ | 時期が近づく、徐々に進む | そろそろ帰ろう |
| そろそろと | ゆっくり、少しずつ進む | そろそろと前進する |
特に「そろそろ帰ろう」は、帰る時間が近づいているという意味ですが、「そろりそろりと帰ろう」は、静かにゆっくり帰る動作を表しています。
この違いを理解すると、チョコプラ長田のものまねで表現される独特の動きが、なぜ「そろりそろり」という言葉と結び付いているのかも分かりやすくなります。
【元ネタと由来】そろりそろりは狂言が発祥?15世紀から続く言葉の歴史
「そろりそろり」の元ネタを調べる際に押さえておきたいのが、日本語としての歴史と、狂言の中での使われ方を分けて考えることです。
結論からいえば、この言葉は和泉元彌が作ったものでも、チョコレートプラネットが考案したものでもありません。狂言で使われてきた表現ではありますが、狂言だけに限定された言葉でもありません。
辞書に残る最古級の用例は1458~1460年『精選版 日本国語大辞典』には、「そろりそろり」の初出例として、1458~1460年の『漢書列伝竺桃抄』に記された用例が掲載されています。
つまり、少なくとも15世紀には、この表現が日本語として使われていたことを確認できます。現在のテレビ番組で聞く「そろりそろり」より、はるかに長い歴史を持つ言葉なのです。
ただし、辞書の初出は現存する文献で確認できる使用例を意味します。言葉が実際に生まれた瞬間や、最初に使った人物を特定するものではありません。
狂言では移動場面を表現する定型句として定着狂言では「最初に、そろりそろりと参ろう」という表現が、登場人物の移動を示す台詞として使われてきました。
2010年に上越教育大学の研究紀要に掲載された中里理子氏の論文『狂言台本山本東本に見るオノマトペ』では、狂言110曲を対象に表現を分析しています。
その研究では、「まずそろりそろりと参ろう」という表現が、110曲中60曲に登場し、合計73例確認されたと報告されています。
この台詞は、多くの場合、登場人物が名乗りを終え、目的地へ向かう場面で使用されます。物語の中で人物が移動する時間や空間を、観客に自然に伝える役割を担っているのです。
ここが要点です。「そろりそろり」は、和泉元彌の個人的な口癖ではなく、狂言の演劇的な構造とも結び付いた伝統的な表現なのです。
語源と狂言の歴史は分けて考える「そろりそろり」の語源については、15世紀の文献に使用例があることと、狂言で定型表現として使われてきたことが確認できます。
一方、特定の人物が考案した、あるいは特定の狂言師の家系から生まれたという説明は、辞書の初出記録からは導けません。
したがって、言葉そのものの由来を説明する場合は「古くから存在する副詞」、狂言における元ネタを説明する場合は「登場人物の移動場面で使われる定型句」と理解するのが適切です。
【狂言の正体】「そろりそろりと参ろう」はどんな台詞?和泉流との関係
「そろりそろり」が狂言と深く結び付いている理由は、単に古い言葉だからではありません。狂言の舞台では、台詞と身体の動きが一体となって物語を進めるからです。
「最初に、そろりそろりと参ろう」の意味狂言の台詞に登場する「最初に、そろりそろりと参ろう」は、現代語に直すと「それでは、ゆっくりと向かうことにしよう」という意味になります。
ここでの「参ろう」は、現代語の「行こう」に近い意味を持つ表現です。登場人物が自分の行動を宣言し、目的地へ移動する場面につながります。
観客にとっては、人物がこれからどこかへ向かうことが分かると同時に、舞台上の動作を楽しむきっかけにもなります。
狂言における反復表現の役割狂言では、同じような構造や台詞が複数の演目に登場します。これは単なる使い回しではなく、観客に状況を理解させ、舞台のリズムを作るための伝統的な表現方法です。
前述の中里氏の研究でも、狂言の定型表現やオノマトペは、典型的な人物像や舞台背景を観客に想像させる働きを持つと分析されています。
「そろりそろり」という繰り返しも、ゆっくりとした動きを言葉のリズムで伝える表現です。言葉と所作を組み合わせることで、観客に動作のイメージを伝えやすくしています。
和泉流とは?和泉元彌が受け継ぐ伝統芸能和泉流は、狂言の流派の一つです。現在の狂言には主に和泉流と大蔵流があり、それぞれに受け継がれてきた型や所作、演出上の特徴があります。
和泉流宗家の公式紹介によると、同流は京都を中心に伝承され、江戸時代には尾張徳川家との関係を持ち、独自の伝統を形成しました。現在は東京を中心に全国や海外でも活動しています。
その和泉流の二十世宗家を務めるのが、狂言師の和泉元彌です。
テレビで見る和泉元彌の独特な姿勢や手の形、発声は、単なる個性ではなく、伝統芸能の中で受け継がれてきた型と関係しています。
そのため、同じ狂言を題材にしたものまねであっても、流派が違えば動作の細部に違いが生じます。
【関係者と時系列】和泉元彌とチョコプラ長田のものまねはどう広まった?
現在の「そろりそろり」というフレーズの知名度を押し上げたのは、チョコレートプラネットの長田庄平による和泉元彌のものまねです。
このものまねは、顔の表情だけでなく、狂言特有の構えや動き、柿を食べる仕草などを組み合わせたもの。伝統芸能の特徴を、バラエティー向けの分かりやすい笑いに変換した点が大きな特徴です。
2018年ごろからものまねが話題に2024年の文春オンラインによる和泉元彌本人へのインタビューでは、長田が2018年ごろから和泉元彌のものまねをしていたことが語られています。
和泉元彌によれば、最初に目にしたのは長田が自分の顔をまねてテレビに出演している姿でした。その後、周囲から「そろりそろり」や柿を食べる「あむあむ」が似ていると言われ、自分でも動画を確認したそうです。
2018年12月28日、ついに本人と初対面大きな転換点となったのが、テレビ朝日系『金曜ロンドンハーツ』の2018年12月28日放送回です。
番組では、和泉元彌と長田の初対面が実現しました。ものまねを披露していた長田の背後から本人が登場するというドッキリ形式の企画でした。
和泉元彌は、長田のものまねを笑顔で受け止めながらも、手の形や姿勢などに違いがあることを指摘。長田に直接、狂言の型を指導しました。
単なるものまねの披露に終わらず、本物の狂言師による指導が加わったことで、二人の関係はさらに注目を集めました。
ものまねの経緯と関係者を一覧で整理| 時期 | 人物・出来事 | 確認できる内容 |
|---|---|---|
| 15世紀 | 日本語の「そろりそろり」 | 1458~1460年の文献に用例が残る。 |
| 2010年 | 中里理子氏の研究 | 狂言110曲中60曲に「まずそろりそろりと参ろう」が登場。 |
| 2018年ごろ | 長田庄平 | 和泉元彌の顔や狂言の所作をものまねするようになる。 |
| 2018年12月28日 | 和泉元彌・長田庄平 | 『金曜ロンドンハーツ』で初対面。和泉元彌が狂言の型を直接指導。 |
| 2019年 | 長田のものまねが浸透 | 学校公演などで和泉元彌の登場に観客が反応する現象も話題に。 |
| 2021年 | 柿を食べる「あむあむ」 | 大蔵流と和泉流の所作の違いがテレビ番組で紹介される。 |
| 2024年5月11日 | 和泉元彌のインタビュー | 長田との関係や、ものまねに対する本人の考えが語られる。 |
| 2026年 | 和泉流宗家 | 8月と9月に和泉元彌が出演する狂言公演が開催される。 |
気になるのが、和泉元彌本人が長田のものまねを公認しているのかという点です。
2024年5月11日公開の文春オンラインのインタビューで、和泉元彌は長田との関係について詳しく説明しています。
本人は、ものまねを楽しんで見ていた一方、和泉流の型と異なる部分が気になったと語っています。そこで、共演するのであれば稽古指導の時間を設けてほしいと伝え、実際に指導する機会を得たそうです。
公認かどうかを尋ねられた際の回答は、次のとおりです。
「正式に非公認です」
これは本人がインタビューで語った言葉です。もっとも、ものまねそのものを敵視しているという意味ではありません。和泉元彌は、長田のものまねを楽しんで見ていたことも明かしています。
つまり、笑いとしてのものまねは受け入れつつ、伝統芸能の型については本物の狂言師として譲れない部分がある、という関係です。
【あむあむの秘密】長田の柿の食べ方が和泉元彌と違う理由
「そろりそろり」と並んで話題になるのが、長田の「 あむあむあむ」という柿を食べるものまねです。
実は、この仕草にも狂言の流派の違いが関係しています。
長田は中学生のころに大蔵流の狂言を習っていた2019年1月9日、長田は日本テレビ系『スッキリ』の取材で、中学生のころに約1か月間、狂言を習った経験があると明かしました。
その際に習ったのは大蔵流です。一方、ものまねの対象である和泉元彌は和泉流の狂言師です。
つまり、長田のものまねには、もともと本人が習った大蔵流の所作が一部取り入れられていたのです。
柿の食べ方にも流派による違いがある2019年の報道では、長田が大蔵流と和泉流の柿の食べ方の違いを実演しています。
大蔵流では手を大きく動かすような仕草が見られる一方、和泉流では手の動きが比較的控えめです。
2021年7月1日の報道でも、長田は「僕はいつも『あむあむあむ』ってやっている」と説明し、和泉流との違いを紹介しました。
さらに2024年の和泉元彌本人のインタビューでは、柿を食べる際の手の形や動きについて、和泉流の型に合わせた指導をしたことが明かされています。
なぜ長田は「あむあむ」を変えなかったのか興味深いのは、長田がテレビでの見栄えを意識していたことです。
和泉元彌は、和泉流の型に合わせるなら手を動かさないように指導しました。しかし長田は、動きを抑えるとテレビでは地味になるという考えを伝えています。
和泉元彌も、この部分については長田が動きを大きくすることを認めたとインタビューで振り返っています。
ここには、伝統芸能とテレビのお笑いの違いが表れています。
狂言では、長い時間をかけて受け継がれた型を正確に表現することが大切です。一方、バラエティーでは、短い時間で視聴者に特徴を伝え、笑いにつなげる必要があります。
長田のものまねは、伝統芸能の完全な再現ではなく、特徴を抽出して誇張することで成立した芸です。和泉元彌による指導と長田のテレビ的な工夫が共存しているところに、面白さがあります。
【2026年最新】和泉元彌とそろりそろりは現在どうなっている?
2026年現在、「そろりそろり」は単なる一時的なテレビの流行語としてだけではなく、狂言の歴史と現代のお笑いをつなぐ表現として理解できます。
和泉元彌は2026年も狂言の舞台に出演2026年の公演情報を見ると、和泉元彌が和泉流宗家として舞台活動を続けていることが分かります。
セルリアンタワー能楽堂では、2026年8月1日に「第9回 和泉流宗家による狂言会 in SHIBUYA」が開催されました。演目には「蚊相撲」「痺」などが含まれています。
また、磐梯町観光協会が2026年9月2日に告知した公演では、9月27日に和泉元彌をはじめとする和泉流宗家の出演者による公演が予定されていました。演目は「仏師」「泉山伏」などです。
これらの公演情報からも、和泉元彌が現在も伝統芸能の継承と舞台活動に取り組んでいることが確認できます。
チョコプラ長田のものまねが残した影響長田のものまねが広めたのは、単なる決め台詞だけではありません。
狂言に馴染みのなかった人が、「そろりそろり」という言葉をきっかけに、和泉元彌や狂言の独特な動きに興味を持つようになった点にも意味があります。
2019年には、和泉元彌の妻である羽野晶紀が、学校公演で元彌が登場すると観客がざわつくようになったとテレビ番組で語ったことも報道されました。ものまねの認知度が、本物の舞台での観客の反応にも影響していたことがうかがえます。
ただし、2026年の時点で、このフレーズを使った新しい大型企画や再ブームが公式に発表されているという状況ではありません。現在確認できる大切な動きは、和泉流宗家の公演が継続していることと、長田のものまねによって広まった表現が広く認知されていることです。
2026年に「そろりそろり」を正しく理解するにはこの言葉を理解する際は、次の3つを区別すると分かりやすくなります。
- 日本語としての意味:ゆっくり、静かに動く様子。
- 狂言としての背景:登場人物が移動する際に使う伝統的な定型表現。
- 現代のテレビでの元ネタ:長田庄平による和泉元彌のものまね。
この3つを混同しなければ、「そろりそろり」の歴史と現在の人気の理由を正確に理解できます。
【そろりそろりに関するよくある質問(FAQ)】
Q1:「そろりそろり」の意味は何ですか?
A1:動作をゆっくりと静かに行う様子を表す副詞です。慎重に、周囲に気を配りながら動くニュアンスがあります。
Q2:「そろりそろり」の元ネタは和泉元彌ですか?
A2:いいえ。言葉自体は15世紀の文献にも用例が残る古い日本語です。狂言の台詞にも登場します。和泉元彌は、この表現を現代のテレビ視聴者に広く印象付けた人物の一人です。
Q3:「そろりそろりと参ろう」は狂言の台詞ですか?
A3:はい。狂言の登場人物が名乗りを終え、目的地へ向かう場面などで使われる定型的な表現です。研究でも複数の演目に登場することが確認されています。
Q4:チョコプラ長田がものまねを始めたのはいつですか?
A4:和泉元彌本人の2024年のインタビューによれば、2018年ごろからです。2018年12月28日放送の『金曜ロンドンハーツ』では、本人との初対面と狂言指導が実現しました。
Q5:和泉元彌は長田のものまねを公認していますか?
A5:2024年のインタビューで、和泉元彌本人は「正式に非公認です」と回答しています。ただし、ものまねを楽しんで見ていたことや、長田に直接指導したことも明かしています。
Q6:「あむあむ」とは何ですか?
A6:長田が和泉元彌のものまねで披露する、柿を食べる仕草のことです。大蔵流と和泉流では食べる際の所作に違いがあり、長田の動きには中学生のころに習った大蔵流の影響があります。
Q7:2026年現在、和泉元彌は狂言師として活動していますか?
A7:はい。2026年8月にはセルリアンタワー能楽堂での狂言会、9月には磐梯町での公演情報が確認できます。和泉流二十世宗家として舞台活動を続けています。
「そろりそろり」は、ゆっくりと静かに動く様子を表す、日本語として古い歴史を持つ言葉です。辞書には15世紀の用例が残り、狂言では「最初に、そろりそろりと参ろう」という定型的な台詞として、複数の演目で使われてきました。
その伝統的な表現を現代のテレビで広く知らしめたのが、チョコレートプラネットの長田庄平による和泉元彌のものまねです。2018年ごろから話題になり、同年12月には本人との初対面も実現しました。
また、「あむあむ」と呼ばれる柿の食べ方には、大蔵流と和泉流の違いが関係しており、単なる誇張ではなく、長田自身の狂言経験が反映されていることも分かりました。
2026年現在も和泉元彌は狂言の舞台に立ち、和泉流の伝統を受け継いでいます。
【プロの結論】「そろりそろり」の面白さは、古い言葉が現代のお笑いによって新しい意味合いを獲得したところにあります。言葉の本来の意味、狂言における役割、和泉元彌の伝統的な型、長田庄平のテレビ向けの表現は、それぞれ異なるものです。この違いを知ることで、単なるものまねとして楽しむだけでなく、日本の伝統芸能が現代の大衆文化と接点を持つ面白さまで見えてきます。
主な参照資料:『精選版 日本国語大辞典』、上越教育大学研究紀要・中里理子氏の論文、文春オンラインの和泉元彌インタビュー、テレビ情報誌TV LIFE、デイリースポーツ、セルリアンタワー能楽堂、磐梯町観光協会の公演情報。