冬眠期に熊が活動する理由は一つではない。食物の確保、個体の栄養状態、人里への依存、冬眠穴の移動などが関係している。
1. 人里で食べ物を確保できるようになった冬眠を遅らせる可能性がある要因として注目されるのが、人間の生活圏にある食べ物だ。
森林総合研究所の大西尚樹氏は、2026年1月の報道で、市街地に食べ物があると学習した熊について、年末や年明けまで冬眠せずに出没する可能性を指摘している。
本来、熊は秋までに十分な脂肪を蓄え、冬に食物が乏しくなると冬眠に入る。しかし、住宅地で食べ物を得られる個体にとっては、山の中で餌を探す必要性が低くなる。人里が効率のよい餌場になれば、冬眠に入るタイミングにも影響する可能性がある。
2. 秋のドングリや木の実の豊凶が影響する熊の冬眠準備に欠かせないのが、秋の栄養補給だ。ブナ、ミズナラ、コナラなどのドングリ類は、冬を乗り切るための重要な食物となる。
山の木の実が凶作になると、熊は普段の行動範囲を広げ、別の餌場を探す。その結果、山間部の集落や農地、住宅地に出没する機会が増える。
ただし、ここには誤解しやすいポイントがある。餌不足だからといって、必ず冬眠しなくなるわけではない。山の餌が不足して十分な脂肪を蓄えられなければ、むしろ早い時期に冬眠へ入る場合もある。
一方、ドングリが豊作であれば、食べ続けるために12月頃まで活動する個体もいる。つまり、餌不足は秋の出没を増やす要因になり得るが、冬眠をしない直接的な理由として単純化することはできない。
3. 柿や生ごみなど、人間の食べ物に執着する人里に熊を引き寄せるものとして、特に注意したいのが柿、栗、生ごみ、ペットフードなどだ。
環境省の「クマ類の出没対応マニュアル」では、住宅周辺にある柿や栗などの果樹、生ごみ、コンポスト、ペットフードなどを熊の誘引物として挙げている。
柿や栗は、一つの木に多くの実がなり、熊にとって効率よく栄養を得られる食物だ。人間にとっては不要な残飯でも、熊にとっては食料になる。特に強いにおいを発する生ごみは、誘引につながりやすい。
さらに問題なのは、熊が人里で食べ物を得られると学習することだ。一度餌場として認識した場所に繰り返し現れる可能性がある。冬になっても人里への出没が続く背景には、こうした学習行動が関係している。
4. 個体差や冬眠に入るタイミングの違い同じ地域に生息する熊でも、すべての個体が同じ日に冬眠を始めるわけではない。
性別、年齢、繁殖状態、体脂肪の蓄積量、周囲の食物環境などによって、冬眠の開始時期や終了時期は変わる。
特に、妊娠したメスは冬眠中に出産し、子グマを育てながら長期間穴の中で過ごす。一方、オスはメスより早く冬眠から目覚める傾向がある。
このような個体差があるため、同じ山域でも冬眠に入った熊と、まだ活動している熊が存在する可能性がある。
【熊の冬眠と暖冬・温暖化】気温上昇で冬眠しなくなるのか?

冬に熊が出没すると、暖冬や地球温暖化の影響を疑う声が上がる。実際、気候条件が冬眠の時期に影響することは環境省も説明している。
しかし、暖冬だけを原因にするのは正確ではない。熊の冬眠には気温や降雪だけでなく、秋の食物資源、栄養状態、個体ごとの生物リズムなど複数の要因が関係している。
雪が積もっていても活動する熊が確認されている北里大学獣医学部の岡田あゆみ教授の研究グループは、2025年1月中旬、八甲田山系の雪深い森林で活動するツキノワグマを自動撮影装置で記録した。
積雪がある時期に熊が雪上を歩く姿を捉えたもので、冬眠期の行動を考えるうえで興味深い観察結果となった。
同大学の解説では、食物資源の変動や温暖化が熊の冬眠行動に影響している可能性にも触れている。ただし、この1回の撮影だけで、温暖化が原因で冬眠しない熊が増えたと断定することはできない。継続的な調査が必要なテーマだ。
2026年秋のドングリ調査にも地域差がある2026年度の秋の餌環境を見ると、全国一律に豊作・凶作と判断できないことが分かる。
愛知県が2026年10月8日に公表した調査では、県全体のドングリの実りは並作だったものの、調査地点によって凶作から豊作までばらつきがあった。地域によっては、熊が餌を求めて人里に出没する頻度が高まる可能性が指摘されている。
一方、埼玉県が2026年10月20日に発表した調査では、コナラとミズナラは並作、ブナは凶作だった。前年より全体的には改善したものの、樹種によって実りに差がある。
埼玉県内の熊の目撃件数は、2026年9月末時点で95件だった。2025年度の172件と比べて現時点では少ないが、年度途中の数字であり、今後の出没を保証するものではない。
こうした調査結果から分かるのは、熊の冬眠や出没を予測するには、気温だけでなく地域ごとの餌資源を確認する必要があるということだ。
【冬に熊が出没したら】人里で遭遇しないための対策と注意点
冬眠するはずの時期だからといって、山道や住宅周辺で熊に遭遇しないとは限らない。特に山林と住宅地が近い地域では、冬でも基本的な対策を続ける必要がある。
自宅周辺で実践したい5つの対策
1. 柿や栗の実を残さない
収穫できる果実は早めに取り、落ちた実も放置しない。不要な果樹は地域の方針に沿って管理する。
2. 生ごみを屋外に放置しない
ごみは屋内で保管し、収集日当日の朝に出す。頑丈な容器や施錠できるごみ集積所を活用する。
3. ペットフードや保存食を外に置かない
庭の餌皿、干物、漬物など、においのある食品も熊を引き寄せる可能性がある。
4. 山に入る前に出没情報を確認する
自治体の熊出没マップを確認し、単独行動を避ける。鈴やラジオなどで人の存在を知らせる。
5. 住宅周辺の見通しを確保する
家や農地に接する茂み、耕作放棄地などは、自治体や地域と連携して管理する。
これらは環境省のクマ類出没対応マニュアルや、2026年度の愛知県の注意喚起にも沿った対策だ。特に果樹と生ごみの管理は、熊を人里に定着させないための基本となる。
実際に熊を見かけたときの行動もし冬に熊を見つけても、近づいたり、写真を撮ろうとしたりしてはいけない。熊を驚かせると、攻撃される危険がある。
環境省が推奨する基本的な行動は次のとおりだ。
- 熊との距離を保ち、絶対に近づかない。
- 熊を見ながら、落ち着いてゆっくり後退する。
- 熊が立ち去るまで無理に通行しない。
- 背を向けて走らない。
- 大声を出したり、物を投げたりして刺激しない。
- 目撃した場所や時間を自治体・警察に知らせる。
万が一襲われた場合は、うつ伏せになり、首・顔・腹部を守る。熊撃退スプレーを携帯している場合は、事前に確認した使用方法に従う。
【プロの結論】冬眠しない熊を見分けるために知っておきたいこと
冬眠しない熊という言葉には、いくつかの異なる行動が含まれている。冬眠前の活動、冬眠穴の移動、早い冬眠明け、そして人里の餌場に依存した活動は、それぞれ区別して考える必要がある。
冬の目撃情報を正しく理解するための判断基準は、次の3点だ。
第一に、目撃された時期だけで冬眠の有無を決めないこと。
1月に熊が目撃されても、冬眠前なのか、冬眠穴を移動しているのか、いったん目覚めたのかは、目撃情報だけでは分からない。
第二に、山の餌と人里の餌を分けて考えること。
ドングリの凶作は熊の行動範囲を広げる要因となる。一方、柿や生ごみなどが残っていれば、熊が人里に繰り返し現れるきっかけになる。
第三に、温暖化だけを原因にしないこと。
暖冬は活動時期を変える可能性があるが、個体差や地域の食物環境も無視できない。2026年の各自治体のドングリ調査でも、地域や樹種による豊凶の違いが明らかになっている。
「冬だから熊はいない」という思い込みを捨て、実際の出没情報と地域の餌環境を確認することが、冬の安全につながる。
【冬眠しない熊】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:熊は一生冬眠しないことがあるのでしょうか?
A1:森林総合研究所東北支所の大西尚樹チーム長は、一度も冬眠しない個体はいないと説明しています。ただし、ある冬に冬眠へ入るのが遅れたり、冬眠中に穴を移動したりして、冬も活動する熊は存在します。
Q2:熊は何月から何月まで冬眠しますか?
A2:一般的には11月下旬~12月頃から翌年3月頃までが目安です。ツキノワグマとヒグマで地域差があり、出産したメスは5月頃まで冬眠穴で過ごす場合もあります。
Q3:暖冬になると熊は冬眠しなくなるのでしょうか?
A3:暖冬によって活動時期が前後することはありますが、暖冬だけで冬眠しなくなるわけではありません。餌の豊凶、栄養状態、人里にある食べ物、個体差なども関係しています。
冬眠しない熊は本当にいるのか。その答えは、冬眠期にも活動を続ける熊は実際に存在するが、冬眠をまったくしない熊と、冬眠の時期や場所が通常と異なる熊は区別しなければならない、というものだ。
2026年1月には福島県や宮城県で冬眠期の出没が報道され、森林総合研究所の大西尚樹氏も、冬眠前の個体や冬眠穴を移動する個体、人里の餌場を利用する個体の可能性を解説した。
ツキノワグマとヒグマは、基本的に冬眠する動物だ。しかし、冬眠時期には地域差があり、秋の餌不足や人里の食べ物、気候条件などによって行動が変化する。
2026年以降も注目すべきなのは、冬眠するかどうかという一点だけではない。山の餌資源がどの程度確保されているのか、人里に熊を引き寄せる食べ物が残っていないか、冬眠期の目撃がどの地域で続いているかという複数の視点だ。
柿や生ごみを適切に管理し、自治体の出没情報を確認する。こうした日常的な対策が、人と熊の予期せぬ遭遇を防ぐ第一歩になる。雪が積もる季節であっても、熊への警戒を緩めないことが大切だ。