箱根駅伝の5区は、小田原中継所から芦ノ湖までを走る往路最後の区間であり、全10区間の中でも特に過酷な「山上り」として知られている。現在の距離は20.8km。国道1号の最高地点である標高約874mまで一気に駆け上がり、終盤には下り坂も待ち受ける。単純な走力だけでは攻略できない、箱根駅伝最大級の勝負どころだ。
2026年1月2日に開催された第102回箱根駅伝では、青山学院大学の黒田朝日が5区で1時間7分16秒を記録。前年に若林宏樹(青山学院大学)が樹立した1時間9分11秒を1分55秒更新する区間新記録を打ち立てた。5位でタスキを受けた青学大を往路優勝へ導いた歴史的な走りだった。2026年11月現在、この記録が5区の最新区間記録となっている。
【基本情報】箱根駅伝5区の距離は20.8km!小田原から芦ノ湖までのコースを解説

箱根駅伝5区は、神奈川県小田原市の小田原中継所をスタートし、箱根町の芦ノ湖を目指す往路最終区間だ。山を上る区間という印象が強いものの、実際には上り一辺倒ではなく、終盤には下りも含まれる。
5区の基本データ- 区間:往路5区
- スタート:小田原中継所
- ゴール:箱根・芦ノ湖
- 距離:20.8km
- 最高地点:国道1号最高地点・標高約874m
- 特徴:長い上り坂と終盤の下り坂が組み合わさった山岳コース
この20.8kmという距離は、第93回大会にあたる2017年以降の現行コースのものだ。東京箱根間往復大学駅伝競走公式サイトでも、5区は往路の「最大の難所・山上り」と紹介されている。
小田原中継所から芦ノ湖までの道のり小田原中継所を出発すると、選手は箱根湯本方面へ向かい、箱根の山道へと進んでいく。箱根湯本付近から本格的な上りが始まり、大平台、宮ノ下、小涌園、芦之湯などを通過する。
コースの大きな特徴は、上り坂が長く続くことだ。平地のように一定のリズムで走ることが難しく、勾配の変化に合わせてペースを調整しなければならない。
そして、約16.2km地点で国道1号の最高地点に到達する。そこを過ぎると、19km過ぎの箱根神社大鳥居付近に向けて下りに転じ、最後は芦ノ湖のゴールを目指す。
つまり5区は、前半から中盤の山上りだけでなく、最高地点を越えた後の走り方も勝敗に影響する区間なのだ。
【高低差を解説】標高874mの最高地点と山上り・山下りの難しさ
箱根駅伝5区の難しさを理解するうえで欠かせないのが、高低差だ。20.8kmという距離だけを見ると、他の長距離区間と大きな違いがないように感じるかもしれない。しかし、実際のコースは標高が大きく変化する山岳ルートである。
標高約874mまで一気に駆け上がる5区の最高地点は、国道1号の最高地点にあたる標高約874m。小田原中継所の標高を約34mとする地形データを基準にすると、最高地点までの標高差は約840mに達する。
もちろん、実際のコースには細かな勾配変化や起伏があるため、標高差と累積上昇量は同じ意味ではない。それでも、わずか20.8kmの間にこれだけの高度を稼ぐことが、5区の特殊性をよく表している。
16.2km地点が大きな転換点5区のレース展開を考える際、注目したいのが最高地点を迎える約16.2km地点だ。
それまで続いてきた上り坂を走り切った後、選手は下り坂へと対応を切り替える。上りで脚を使い切ってしまえば、下りでスピードを維持することが難しくなる。
また、下り坂では着地時の衝撃が大きくなりやすい。上りで消耗した脚にさらに負荷がかかるため、単純に重力を利用してスピードを出せばよいわけではない。
山上りと山下りは別の能力が求められる5区は一般に「山上り」と呼ばれるが、終盤には下りも存在する。上りでは持続的な推進力や登坂能力、下りではスピードを制御する能力や着地の安定性が求められる。
そのため、山上りに強い選手が必ずしも下りでも優れているとは限らない。最高地点までの走りと、そこから芦ノ湖までの走りをどう組み立てるかが、最終タイムを左右する。
この切り替えを含めて20.8kmを走り切ることが、5区を単なる上り坂の競走ではなく、総合的な山岳レースにしている。
【2026年最新】黒田朝日が第102回箱根駅伝5区で1時間7分16秒の区間新記録!
2026年の第102回箱根駅伝で、5区の歴史を塗り替えたのが青山学院大学の黒田朝日だ。従来の区間記録を大幅に更新する1時間7分16秒という記録は、現行コースにおける新たな基準となった。
5位からのスタートで往路優勝へ導く2026年1月2日の往路で、青山学院大学は1区の出遅れなどもあり、4区終了時点で5位だった。首位の中央大学とは3分24秒差。2位の早稲田大学とも2分12秒の差があった。
そこで5区に投入されたのが、4年生で主将も務める黒田朝日だった。
黒田はスタート後、まず城西大学の斎藤将也を引き離し、9.7km付近では國學院大學を抜いて3位に浮上。13.6km付近では中央大学もかわして2位に上がった。
加えて、15.8km付近の芦之湯では先頭の早稲田大学との差を15秒まで縮める。19.2km付近で工藤慎作を逆転すると、そのまま芦ノ湖までトップを守り抜いた。
この逆転劇によって青山学院大学は往路優勝を達成。黒田は1時間7分16秒で区間賞を獲得し、前年の記録を1分55秒も更新した。
従来記録を1分55秒も短縮した意味2025年の第101回大会では、同じ青山学院大学の若林宏樹が1時間9分11秒を記録し、当時の区間記録を更新していた。
それからわずか1年後、同じ大学の黒田がさらに1分55秒も短縮した。20.8kmの山岳区間でこれほどの差をつけて記録を更新したことは、5区の歴史において極めて大きな出来事だ。
月刊陸上競技の月陸Onlineによる大会報道では、黒田が目標としていたタイムは1時間7分50秒だったことも伝えられている。実際の記録はその目標をさらに上回るものだった。
「僕が『シン・山の神です』」
レース後、黒田自身も新たな山の神を名乗る発言をした。青山学院大学の原晋監督も「シン・山の神誕生です」と称賛。記録だけでなく、勝負を決めた走りと本人の言葉も大きな話題となった。
なお、2026年の青山学院大学は往路だけでなく復路も制し、総合タイム10時間37分34秒で大会3連覇を達成している。黒田の5区での快走は、チームの優勝を決定づける重要な転機だった。
【歴代記録ランキング】若林宏樹・山本唯翔・黒田朝日のタイムを比較
箱根駅伝5区の歴代記録を見ると、2024年から2026年にかけて、区間記録の水準が大きく引き上げられていることがわかる。
特に注目したいのは、青山学院大学の若林宏樹と黒田朝日、城西大学の山本唯翔という3人の存在だ。いずれも山上りで際立った結果を残し、現行コースの歴代記録に名を刻んでいる。
現行コースの5区歴代上位記録以下は、第93回大会以降の現行コースにおける5区の歴代上位記録だ。東京箱根間往復大学駅伝競走公式サイトの記録と第102回大会の成績を基に整理した。
| 順位 | 大会 | 選手 | 大学 | 記録 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 2026年・第102回 | 黒田朝日 | 青山学院大学 | 1時間7分16秒 |
| 2位 | 2025年・第101回 | 若林宏樹 | 青山学院大学 | 1時間9分11秒 |
| 3位 | 2024年・第100回 | 山本唯翔 | 城西大学 | 1時間9分14秒 |
| 4位 | 2026年・第102回 | 斎藤将也 | 城西大学 | 1時間9分28秒 |
| 5位 | 2025年・第101回 | 工藤慎作 | 早稲田大学 | 1時間9分31秒 |
このランキングからわかるのは、2026年の黒田の記録が2位以下に大きな差をつけていることだ。2位の若林宏樹との差は1分55秒。3位の山本唯翔との差は1分58秒となっている。
若林宏樹:2025年に青学大の新記録を樹立若林宏樹は、青山学院大学の5区を象徴する選手の一人だ。2024年の第100回大会では1時間9分32秒で区間2位となり、翌2025年の第101回大会では1時間9分11秒を記録した。
この走りによって当時の現行コース区間記録を更新。青山学院大学の山上りの強さを改めて印象づけた。
その記録を翌年に黒田朝日が更新したことで、青学大は2大会連続で5区の区間記録を塗り替えることになった。
山本唯翔:城西大学の「山の妖精」城西大学の山本唯翔は、第99回大会の2023年に1時間10分04秒で区間賞を獲得。続く第100回大会では1時間9分14秒を記録し、自身の記録を更新した。
2年連続の区間賞と区間記録更新によって注目を集め、メディアでは「山の妖精」と呼ばれた。
山本の存在は、5区が特定の大学だけの専用区間ではなく、各校が専門性の高い選手を育てて挑む勝負の舞台であることを示している。
2026年の城西大学・斎藤将也も好記録第102回大会では、城西大学の斎藤将也も1時間9分28秒で区間2位に入った。黒田には及ばなかったものの、現行コース歴代4位に相当する好記録だ。
青山学院大学の黒田だけでなく、城西大学にも高い山上り能力を持つ選手がいたことは、2026年の5区を語るうえで見逃せないポイントである。
【山の神の歴代】今井正人・柏原竜二・神野大地から黒田朝日へ
箱根駅伝5区を語る際に欠かせないのが「山の神」という呼び名だ。長年にわたって山上りで圧倒的な走りを見せた選手に対して使われてきた表現で、箱根駅伝の歴史を象徴する言葉にもなっている。
初代・今井正人(順天堂大学)今井正人は、順天堂大学で2005年から2007年まで3年連続で5区区間賞を獲得した選手だ。山上りでの圧倒的な走りによって「山の神」という呼称を広く知らしめた存在として語り継がれている。
2代目・柏原竜二(東洋大学)柏原竜二は、東洋大学の選手として2009年から2012年まで4年連続で5区区間賞を獲得した。1年生から山上りを任され、4年間にわたって安定した強さを発揮したことから、2代目の山の神として知られる。
3代目・神野大地(青山学院大学)神野大地は、青山学院大学の2015年の往路優勝に貢献した5区の選手だ。2015年に区間賞を獲得し、2016年も区間2位と好走。青学大の黄金期を象徴する存在として、3代目の山の神と呼ばれるようになった。
2026年の黒田朝日は「シン・山の神」2026年の黒田朝日は、従来の区間記録を大幅に更新したことで、歴代の山の神に続く新たな存在として注目された。
ただし、「山の神」は陸上競技団体が定める公式タイトルではない。実況や報道、ファンの間で定着してきた呼称であり、誰が何代目なのかについても公式な認定制度があるわけではない。
また、歴代選手の記録を比較するときには、5区の距離変更を考慮する必要がある。
2017年のコース変更が歴代記録の比較を難しくした5区は長い歴史の中で距離や走行コースが変更されてきた。特に第93回大会の2017年からは、5区の距離が従来の23.4kmから20.8kmへ短縮された。
そのため、今井正人や柏原竜二らが走った時代の記録と、黒田朝日や若林宏樹の現行コース記録を単純にタイムだけで比較することはできない。
同じ5区でも、走る距離やコース条件が異なれば、求められるペース配分も変わる。歴代の山の神を評価する場合には、記録の数字だけでなく、当時のコース条件と競技環境を踏まえることが大切だ。
【勝負のポイント】箱根駅伝5区で強い選手に求められる能力とは?
5区で結果を残す選手には、平地の長距離走とは異なる能力が求められる。標高約874mまで上るコースを攻略し、最後の下りまで走り切るためには、いくつかの要素が必要になる。
1. 長い上り坂に対応する登坂能力最も基本となるのは、長時間にわたって上り坂を走り続ける能力だ。急な勾配だけでなく、緩やかな上りでも脚への負担は蓄積していく。
平地でのスピードが優れていても、登坂で同じようなペースを維持できるとは限らない。5区に適性のある選手を見極めるには、平地の持ちタイムだけでなく、起伏のあるコースでの実績も重要になる。
2. 勾配に合わせたペース配分上り坂では、序盤から無理にスピードを上げると後半に失速する危険がある。一方、慎重になりすぎればライバルとの差を縮める機会を失う。
そのため、コースの勾配や体力の消耗を考慮しながら、どの地点で勝負を仕掛けるかを判断する必要がある。
2026年の黒田は、前半から順位を上げ、最高地点付近で先頭との差を詰め、19.2km付近で逆転した。この展開は、最後まで勝負を諦めずに走り切ることの重要性を示している。
3. 最高地点を越えてからの下りへの対応上りを終えた直後の下りは、5区のもう一つの勝負どころだ。上りで疲労した脚を使いながら、スピードを落としすぎず、転倒や過度な着地衝撃を避けなければならない。
特に終盤の下りでライバルに追いつく、あるいは追いつかれないためには、上りと下りの両方を見据えた走力が欠かせない。
4. タスキを受けた時点での順位と心理面駅伝は個人競技であると同時に、チーム全体の順位を争う競技でもある。5区の選手は、前の区間から受け取った順位やタイム差を踏まえて走らなければならない。
先頭でタスキを受ける場合と、大きな差を追いかける場合では、レースの組み立て方も異なる。2026年の黒田は3分24秒差の5位からスタートし、逆転で往路優勝を実現した。
5区の強さは、登坂能力だけでは測れない。体力、ペース判断、下りへの適応力、そしてチームのために最後まで勝負する精神力が組み合わさって初めて、歴史に残る走りにつながる。
【観戦ガイド】箱根駅伝5区を見るときに注目したい3つのポイント
5区は、単に選手が山を上る姿を見るだけでも迫力があるが、レースの流れを理解するとさらに面白くなる。観戦時には、次の3つのポイントを意識したい。
小田原中継所でのタスキリレーまず注目したいのは、小田原中継所での順位とタイム差だ。5区は往路の最後を担うため、ここでの順位が往路優勝争いに直結することも多い。
先頭と後続の差が大きくても、山上りで一気に順位が入れ替わる可能性がある。2026年の青山学院大学は、その典型的なケースだった。
小涌園から芦之湯にかけての順位変動中盤の上りでは、選手の登坂能力が表れやすい。どの選手が順位を上げ、どの大学が苦戦しているかを確認すると、レースの主導権がどこにあるのかが見えてくる。
2026年の黒田は9.7km付近で3位、13.6km付近で2位に浮上した。こうした途中経過を追うことで、単なる区間タイム以上にレースの緊迫感を味わえる。
最高地点から芦ノ湖までの終盤戦最後に注目したいのが、最高地点を通過してからの下りだ。上りを終えた選手がどのように走りを切り替えるのか、先頭争いがどこで決着するのかが見どころとなる。
2026年の黒田は19.2km付近で早稲田大学の工藤慎作を逆転した。5区は最高地点を通過したら終わりではなく、最後の芦ノ湖まで順位が変わる可能性を残している。
【箱根駅伝5区】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:箱根駅伝5区の距離は何kmですか?
A1:現行コースの距離は20.8kmです。小田原中継所からスタートし、箱根の山を上って芦ノ湖でゴールします。2017年の第93回大会から現在の距離になっています。
Q2:箱根駅伝5区の最高地点は標高何mですか?
A2:国道1号の最高地点である標高約874mです。コースの約16.2km地点にあり、そこを越えると終盤は下り坂に変わります。
Q3:2026年の箱根駅伝5区の区間記録は誰が持っていますか?
A3:青山学院大学の黒田朝日です。第102回大会で1時間7分16秒を記録し、前年の若林宏樹の1時間9分11秒を1分55秒更新しました。
Q4:箱根駅伝5区の歴代の山の神は誰ですか?
A4:一般に、初代が今井正人(順天堂大学)、2代目が柏原竜二(東洋大学)、3代目が神野大地(青山学院大学)とされています。2026年には黒田朝日が「シン・山の神」を名乗り、大きな注目を集めました。
Q5:若林宏樹と山本唯翔の5区の記録は何分ですか?
A5:若林宏樹は2025年に1時間9分11秒、山本唯翔は2024年に1時間9分14秒を記録しています。いずれも現行コースの歴代上位記録です。
Q6:昔の山の神と2026年の黒田朝日の記録は比較できますか?
A6:単純なタイム比較はできません。2017年から5区の距離が23.4kmから20.8kmへ短縮されており、コース条件が異なるためです。それぞれの時代のコースと競技環境を考慮する必要があります。
箱根駅伝5区は、小田原中継所から芦ノ湖までの20.8kmを走る往路最大の難所だ。標高約874mの最高地点まで続く上り坂に加え、終盤には下り坂も待ち受ける。登坂能力だけでなく、ペース配分や下りへの対応力が求められる特殊な区間である。
2026年の第102回大会では、青山学院大学の黒田朝日が1時間7分16秒という驚異的な区間新記録を樹立した。前年の若林宏樹が持っていた記録を1分55秒更新し、5位からの大逆転でチームを往路優勝へ導いた。
歴代の山の神である今井正人、柏原竜二、神野大地、そして山本唯翔や若林宏樹らの活躍を振り返ると、5区が箱根駅伝の歴史を動かしてきたことがわかる。
今後の箱根駅伝でも、5区の選手起用や山上りへの適性は、各大学の戦略を左右する大きな要素になるだろう。次回大会を観戦する際は、単に区間記録だけを見るのではなく、小田原でのタスキリレーから最高地点、そして芦ノ湖までの順位変動に注目したい。
5区は20.8kmという数字だけでは語れない。山を上り、下り、最後まで走り抜く選手たちの力が、箱根駅伝の往路のドラマを生み出している。