スタジオジブリの映画『紅の豚』で、ポルコ・ロッソが操縦する真紅の飛行機。その名前は「サボイアS.21試作戦闘飛行艇」です。美しい流線形の機体に、頭上に配置されたエンジンと後方へ向かって回転するプロペラ。アドリア海を駆け抜ける姿は、航空機ファンの心もつかんできました。
では、このサボイアS.21は本当に実在したのでしょうか。答えは少し複雑です。実は、同じ名前を持つイタリア製の実在飛行艇が存在します。しかし、映画に登場する機体と実物は形状が大きく異なり、劇中機のデザインにはマッキM.33など、1920年代の競技用水上機の特徴も取り入れられています。加えて、ライバルのカーチスR3C-0にも実在する航空機の歴史が隠されています。
【まずは基本情報】紅の豚に登場する飛行機の名前とポルコの愛機

『紅の豚』は、宮崎駿監督が原作・脚本・監督を担当したスタジオジブリの長編アニメーション映画です。1992年7月18日公開で、舞台は1920年代のイタリア・アドリア海周辺です。
スタジオジブリの公式作品情報でも、作品の舞台となる時代背景とともに、宮崎駿監督作品として紹介されています。
ポルコ・ロッソが操縦する飛行機はサボイアS.21主人公ポルコ・ロッソの愛機は、サボイアS.21試作戦闘飛行艇です。
機体の特徴は次のとおりです。
- 機体カラー:鮮やかな赤
- エンジン:機体上部に配置
- プロペラ:推進式プロペラ
- 用途:水上を離着水する戦闘飛行艇
- 所有者:ポルコ・ロッソ
映画前半では、ポルコがこの飛行艇を操縦して空賊やライバルと渡り合います。
単なる移動手段ではなく、ポルコの生き方や誇りを象徴する存在として描かれている点も見逃せません。
ライバルのカーチスが乗る飛行機もう一機、物語の航空機を語るうえで欠かせないのが、ドナルド・カーチスの愛機です。
機体名はカーチスR3C-0非公然水上戦闘機。
複葉の水上戦闘機で、ポルコのサボイアとは異なる外観を持っています。
ファインモールドの公式製品解説でも、宮崎監督の監修を受けた機体として紹介され、映画版だけでなく原作漫画『飛行艇時代』に登場するマーキングも再現できる仕様になっています。
【実在したのか徹底検証】サボイアS.21と実在機の決定的な違い
サボイアS.21という名称の実在飛行艇は存在しました。しかし、ポルコが操縦する映画版のサボイアS.21と同じ機体ではありません。
この違いを理解するには、実在したイタリアの航空機メーカーと、1920年代の競技用飛行艇の歴史を知る必要があります。
実在したSIAI S.21とは?実在したSIAI S.21は、イタリアで開発された競技用飛行艇です。
映画版との最も大きな違いは翼の構造にあります。
実機は上下に主翼を配置した複葉機でした。一方、映画版のサボイアは、マッキM.33を思わせる単葉機的なシルエットを持っています。
航空史を紹介するスミソニアン・マガジンの記事でも、実在のS.21は扱いにくい複葉機だったこと、映画の機体はむしろマッキM.33に近いことが指摘されています。
映画版のモデルとされるマッキM.33劇中機の造形を理解するうえで重要なのが、イタリアの競技用飛行艇マッキM.33です。
マッキM.33は1925年のシュナイダー・トロフィーに出場した機体で、単葉の主翼や胴体上部に配置されたエンジンなど、映画版サボイアと共通する特徴を備えています。
宮崎駿監督が幼少期に見た飛行艇の写真に由来するという説も、航空機史を紹介する記事で取り上げられています。
ただし、マッキM.33も映画版サボイアの完全なコピーではありません。あくまでデザイン上の参考となった実在機の一つとして理解するのが適切です。
サボイアS.21と実在機の違いを比較| 比較項目 | 実在のSIAI S.21 | 映画版サボイアS.21 |
|---|---|---|
| 製造国 | イタリア | 架空の設定 |
| 翼の構造 | 複葉 | 単葉的なデザイン |
| 用途 | 競技用飛行艇 | 試作戦闘飛行艇 |
| 外観 | 実用的な競技機 | 流線形の戦闘機風デザイン |
| デザインの参考 | 当時の航空技術 | 実在飛行艇の構造や意匠 |
| 実在性 | 実在 | 架空 |
この表で押さえたいのは、実在した機体の名前と、映画に登場する機体の設計が必ずしも一致しないという点です。
三鷹の森ジブリ美術館の公式オンラインショップが2024年4月に公開した特集「飛行艇時代に遡って」でも、サボイアやカーチスは当時実在した飛行機をもとに宮崎監督が創作した架空の飛行艇と説明されています。
【ライバル機の正体】カーチスR3C-0と実在のR3C-2を比較
カーチスR3C-0も、実在する航空機の歴史と切り離せない機体です。
劇中ではドナルド・カーチスが操縦する複葉水上戦闘機として登場します。
その名称から連想される実在機が、アメリカのカーチス社が開発したR3Cシリーズです。
実在したカーチスR3C-1とR3C-2スミソニアン国立航空宇宙博物館の収蔵資料によると、カーチスR3Cには陸上機型のR3C-1と水上機型のR3C-2がありました。
特にR3C-2は、1925年10月26日のシュナイダー・トロフィーで、アメリカ陸軍のジミー・ドゥーリトル中尉が操縦して優勝した機体です。
その平均速度は約374km/h。翌日には直線飛行で約395km/hの水上機速度記録も樹立しました。
映画版と実在機の違い映画のカーチスR3C-0は、実在するR3Cシリーズの歴史を踏まえた創作機です。
ここで注意したいのが、実在するR3C-2と劇中のR3C-0を同一視しないことです。
| 項目 | 実在カーチスR3C-2 | 劇中カーチスR3C-0 |
|---|---|---|
| 製造国 | アメリカ | 架空設定 |
| メーカー | カーチス | カーチスをモデルとする |
| 分類 | 水上競技機 | 水上戦闘機 |
| 時代 | 1925年 | 1920年代の設定 |
| 主な特徴 | 高速競技向け | 複葉の戦闘飛行艇 |
| 代表的な出来事 | 1925年シュナイダー杯優勝 | ポルコとの一騎打ち |
このように、映画は航空史の実在機をそのまま再現するのではなく、実際の技術や競技文化を物語に取り込んでいます。
【後期型の見分け方】サボイアS.21Fは何が変わった?
『紅の豚』のサボイアには、映画前半と後半で異なる仕様が登場します。
映画後半、カーチスとの戦いで損傷したサボイアは、フィオ・ピッコロの協力によって修理・改造されます。
この改修後の機体が、模型メーカーのファインモールドでサボイアS.21F「後期型」として製品化されています。
前期型と後期型の主な違い前期型は、ポルコが物語序盤から使用している機体です。
一方、後期型は修理だけではなく、エンジンや主翼にも変更が加えられています。
ファインモールドの公式製品解説によると、後期型では次の部分が再現されています。
- エンジンナセルの変更
- 主翼形状の変更
- 主翼取り付け角度の変更
- フィオが座る機体前方の特設コクピット
| 見分けるポイント | 前期型 | 後期型 |
|---|---|---|
| 登場場面 | 映画前半 | 映画後半 |
| エンジン | 改修前 | 換装後 |
| 主翼 | 改修前の形状 | 変更された形状 |
| フィオの座席 | なし | 機体前方に設置 |
| 模型の品番 | FJ1 | FJ3 |
なお、S.21Fという呼称は、ここでは映画の改修後の機体を模型化した際の製品名として捉える必要があります。実在するイタリア航空機の歴史的な量産型として扱うものではありません。
また、原作漫画『飛行艇時代』の後期型には、映画版と異なる造形のバリエーションも存在します。ファインモールドのFJ4は、この原作版のフォルゴーレ号を再現した別製品です。
【航空史の基礎知識】飛行艇と水上機の違い、宮崎駿が描いた時代背景
『紅の豚』をより深く楽しむためには、飛行艇と水上機の違いを知っておくと理解が進みます。
飛行艇と水上機は何が違う?両者は水面から離着水できる航空機ですが、浮くための構造が違います。
飛行艇は胴体そのものが船のような形状になっている航空機です。
対して、一般的なフロート式水上機は、通常の航空機の胴体に独立した浮き具を取り付けています。
| 種類 | 水に浮く仕組み | 代表的な特徴 |
|---|---|---|
| 飛行艇 | 胴体そのものが艇体 | 船のような胴体 |
| フロート式水上機 | 胴体下部のフロート | 独立した浮き具 |
| 陸上機 | 車輪式の降着装置 | 滑走路を使用 |
この分類は航空技術の専門解説でも説明されています。
なぜ1920年代には飛行艇が活躍したのか1920年代は、航空技術が急速に進歩していた時代です。
現在のように整備された大規模空港がどこにでも存在したわけではありません。
そのため、広い水面を離着陸場所として利用できる飛行艇は、競技や輸送などの分野で重要な存在でした。
特に注目されたのが、シュナイダー・トロフィーです。
1912年に始まった水上機による国際速度競技で、各国の航空機メーカーが技術力を競いました。
カーチスR3C-2やマッキM.33も、こうした競技文化の中で生まれた機体です。
宮崎駿監督が飛行艇にこだわった理由『紅の豚』において飛行艇は、背景に置かれた単なる乗り物ではありません。
水面を滑走して離水し、空を飛び、再び海へ戻るという一連の動きが、作品のアクションや世界観を支えています。
実在する1920年代の競技機には、機体の軽量化、エンジンの配置、翼の形状など、速度を追求するための工夫が詰まっていました。
宮崎監督はそうした航空機の技術的な魅力を、アニメーションならではの自由な造形と組み合わせています。
三鷹の森ジブリ美術館の2024年の特集記事では、ファインモールドが映画の設定と当時の航空機の構造を考証し、架空の飛行艇を立体化した過程も紹介されています。
【2026年最新】ファインモールドのサボイアS.21プラモデルと購入時のポイント
『紅の豚』の飛行機を実際に手元で楽しみたい人には、ファインモールドのプラモデルが有力な選択肢です。
同社はスタジオジブリとの企画で、宮崎監督の監修を受けた機体を模型化しています。
1/72 サボイアS.21前期型(FJ1)- メーカー:ファインモールド
- 製品番号:FJ1
- スケール:1/72
- 希望小売価格:2,200円(税込)
- 部品点数:50点
- 完成時サイズ:全長115mm、全幅145mm
ポルコが映画前半で操縦するサボイアを再現した組み立てキットです。
機体の基本形状を楽しみたい人や、初めて『紅の豚』の飛行機模型を作る人に向いています。
1/72 サボイアS.21F後期型(FJ3)- メーカー:ファインモールド
- 製品番号:FJ3
- スケール:1/72
- 希望小売価格:2,640円(税込)
- 部品点数:53点
- 完成時サイズ:全長115mm、全幅145mm
映画後半の改修されたサボイアを再現したモデルです。
前期型との違いであるエンジンナセル、主翼、フィオの特設コクピットなどを確認できます。
映画のクライマックスで登場する姿を再現したい人には、こちらが適しています。
2026年6月の発売情報はどう見るべき?2026年11月現在、量販店のビックカメラの商品ページには、1/72サボイアS.21のメーカー発売日として2026年6月24日、メーカー希望小売価格として2,200円が掲載されています。
ただし、ファインモールド公式の製品情報では、従来のFJ1という製品番号と仕様が掲載されています。
そのため、2026年の日付だけを根拠に、新設計の完全新作や新金型が登場したと判断するのは早計です。購入時には品番、JANコード、部品構成を照合することが大切です。
どの模型を選べばいい?| 購入目的 | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 初めて作る | FJ1 | 前期型の基本モデル |
| 映画後半を再現 | FJ3 | 改修後の機体 |
| ライバル機も作りたい | FJ2 | カーチスR3C-0 |
| 原作漫画の機体が好き | FJ4 | フォルゴーレ号 |
FJ2のカーチスR3C-0は、部品点数60点、完成時サイズは全長100mm、全幅96mmです。サボイアと並べれば、劇中のライバル機同士の違いも楽しめます。
なお、プラモデルは基本的に組み立てキットです。接着剤や塗料などが別途必要になるため、完成品を探している人は塗装済みモデルと混同しないようにしましょう。
【よくある質問】紅の豚の飛行機に関するFAQ
Q1:紅の豚の主人公ポルコが乗る飛行機の名前は?
A1:サボイアS.21試作戦闘飛行艇です。ポルコ・ロッソの愛機として登場し、映画前半と後半で機体の仕様が変化します。
Q2:サボイアS.21は本当に実在したの?
A2:同じ名称のSIAI S.21というイタリア製飛行艇は実在しました。ただし、実機は複葉機であり、映画に登場する機体とは形状が異なります。
Q3:映画版サボイアS.21のモデルは何?
A3:実在したSIAI S.21のほか、マッキM.33など1920年代のイタリア製競技用飛行艇との共通点が指摘されています。特に機体のシルエットはマッキM.33に近いとされています。
Q4:サボイアS.21F後期型とは何?
A4:映画後半に登場する改修後のサボイアです。フィオの工場でエンジンや主翼が変更され、機体前方にはフィオのための特設コクピットが設けられています。
Q5:カーチスR3C-0は実在した飛行機?
A5:劇中のR3C-0という機体は創作です。ただし、実在したカーチスR3C-1や水上機型のR3C-2がモデルの背景にあります。R3C-2は1925年のシュナイダー・トロフィーで優勝しました。
Q6:飛行艇と水上機は同じ意味?
A6:厳密には違います。飛行艇は胴体自体が船のような構造で水に浮きます。一方、一般的なフロート式水上機は胴体とは別の浮き具を使用します。
Q7:ファインモールドのサボイアS.21は2026年も購入できる?
A7:2026年の販売店情報では1/72キットの取り扱いが確認できます。ただし在庫状況は店舗によって異なります。FJ1とFJ3では再現する機体の仕様も異なるため、品番を確認して選ぶのがおすすめです。
『紅の豚』の主役機サボイアS.21は、実在した航空機の名称を持ちながら、実際の機体とは異なる姿をした架空の飛行艇です。
実在したSIAI S.21は複葉機であり、映画版の洗練された外観にはマッキM.33などの競技用飛行艇との共通点があります。また、ライバルのカーチスR3C-0にも、1925年のシュナイダー・トロフィーを制した実在のカーチスR3C-2という歴史的背景がありました。
2026年現在、ファインモールドの模型シリーズを通じて、こうした架空機と実在機の関係を立体的に楽しむこともできます。前期型のFJ1、後期型のFJ3、ライバル機のFJ2を見比べれば、映画の航空機設計に込められた工夫がより鮮明になります。
『紅の豚』の飛行機が長く愛される理由は、単に格好いいからではありません。実際の航空技術への深い理解と、現実には存在しない機体を本当に飛んでいそうだと思わせる創造力。その二つが絶妙に融合しているからです。
ポルコのサボイアが海面から飛び立つシーンを見返すときは、1920年代のイタリアで実際に飛んでいた競技用飛行艇の姿も思い浮かべてみてください。映画の世界と航空史が、これまでとは違った角度からつながって見えてくるはずです。
主な参考資料:スタジオジブリ公式作品情報、三鷹の森ジブリ美術館オンラインショップ「飛行艇時代に遡って」、ファインモールド公式製品情報、スミソニアン国立航空宇宙博物館、スミソニアン・マガジン、航空機技術専門解説。