政治家の記憶にない答弁の真相を考える際、最も難しいのは、本人の内心にある記憶を外部から直接確認できないことだ。
ただし、記憶が曖昧という説明が、必ずしも説明責任を果たしたことにはならない。
元官僚が明かした国会答弁の仕組み2024年2月19日、ABEMAの番組では、舛添要一氏と元経済産業官僚の石川和男氏が、政治家の「記憶にない」答弁について議論した。
石川氏の説明で興味深いのは、次のような答弁上の違いだ。
- 「忘れた」と言えば、過去に会った事実を認めることにつながる。
- 「記憶にない」と言えば、その事実を明確に認めたことにはならない。
この違いは、政治家が答弁の言葉を慎重に選ぶ理由を理解する手掛かりになる。
ただし、これは元官僚による答弁実務の解説であり、すべての政治家が同じ意図で発言しているという意味ではない。
記憶にない答弁を見極める4つの判断基準政治家の発言を検証するときは、次の4点を確認するとよい。
① 客観的な証拠が存在するか
写真、会合の出席記録、領収書、メール、日程表、署名済み文書などが残っていれば、本人の記憶だけに頼らずに事実関係を調べられる。
② 答弁が途中で変わっていないか
最初は否定していたのに、資料を提示されると認める方向に変化した場合、その変化の理由を確認する必要がある。
盛山氏の推薦確認書をめぐる発言は、この観点から注目された事例だ。
③ 調査や確認を実際に行ったか
本人が覚えていない場合でも、秘書、関係部署、会計担当者、当時の記録などを確認することはできる。
記憶がないという回答の後に、どのような調査を実施したかが重要になる。
④ 質問に対して具体的に答えているか
「記憶にない」という回答だけを繰り返しているのか、それとも覚えている事実と覚えていない部分を分けて説明しているのかを比較したい。
この4点を確認すれば、単なる記憶の問題なのか、説明の不足なのかを判断しやすくなる。
「国会答弁で何回使われたか」は簡単には比較できない2024年2月15日の衆議院予算委員会では、盛山氏の答弁を追及した議員が、同委員会で「記憶にない」などの趣旨の答弁が69回あったと紹介した。
ただし、これは質問者による特定の審議に関する集計であり、歴代政治家全員の発言回数を示す公式統計ではない。
「記憶にない」「覚えていない」「記憶が定かではない」「記憶にございません」など、対象とする表現によって集計結果も変わる。
国立国会図書館の国会会議録検索システムでは、1947年以降の本会議や委員会の発言を検索できる。過去の答弁を調べる際には、こうした一次資料を利用することが有効だ。
【プロの結論】「記憶にございません」問題の本質は説明責任にある

50年にわたる歴史を振り返ると、「記憶にございません」は単なる流行語ではなく、日本の政治と行政における説明責任の難しさを象徴する言葉になっている。
1976年の小佐野賢治から、2016年の舛添要一、2021年の鈴木信也、2022年の山際大志郎、2024年の盛山正仁まで、発言が問題になった背景はそれぞれ違う。
2026年にも、政治家や政府関係者の記憶に基づく説明が国会で検証されている。
ここで重要なのは、記憶が曖昧であること自体を責めるのではなく、記憶が曖昧なときに、どこまで客観的な資料を調べ、国民に説明できるかという視点だ。
政治家は、個人としての記憶だけでなく、公的な立場で意思決定を行う責任を負っている。
特に、選挙支援、政治資金、行政機関の判断、特定団体との関係など、国民の利益に直結する問題では、本人の記憶だけで説明を終わらせるべきではない。
今後、政治家の答弁を見るときの重要な視点- 記憶と事実を分ける: 本人が覚えていないことと、出来事が存在しなかったことは同じではない。
- 証拠を優先する: 写真、書面、会計資料、公式記録などを確認する。
- 発言の変化を見る: 資料の提示前後で説明がどう変わったかを検証する。
- 法律と政治責任を区別する: 偽証罪が成立しない場合でも、政治的な説明責任が残ることはある。
こうした判断基準を持つことで、単に政治家の言葉を信じるか疑うかという二択ではなく、根拠に基づいた判断ができるようになる。
【記憶にございません政治家】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:『記憶にございません』を最初に広めた政治家は誰ですか?
A1:一般に知られるきっかけは、1976年2月16日のロッキード事件の証人喚問で発言した小佐野賢治です。ただし、小佐野は政治家ではなく国際興業の社主だった実業家です。実際の答弁は「記憶はございません」などの表現も含み、広く知られる定型句はその後に定着しました。
Q2:政治家が『記憶にございません』と言うと偽証罪になりますか?
A2:なりません。単に記憶がないと答えただけでは偽証罪は成立しません。議院証言法に基づいて宣誓した証人が虚偽の陳述をした場合に、同法第6条の偽証罪が問題になります。大臣の通常の国会答弁とは法的な扱いが異なります。
Q3:最近の政治家で記憶にない答弁が問題になった人物は誰ですか?
A3:代表的な事例として、2022年の山際大志郎、2024年の盛山正仁が挙げられます。また、2021年の総務省接待問題に関連する行政上の報告をめぐっては鈴木信也氏の答弁も注目されました。2026年にも高市早苗首相が秘書の記憶について国会で説明しています。
「記憶にございません」という言葉が広く知られるようになったのは、1976年のロッキード事件がきっかけだった。
その中心人物として記憶されている小佐野賢治は、政治家ではなく実業家である。証人喚問での答弁が流行語となり、その後の政治家や官僚の答弁にも影響を与えた。
舛添要一、山際大志郎、鈴木信也、盛山正仁らの事例を見ると、記憶をめぐる問題には、政治資金、宗教団体との関係、行政の報告体制など、さまざまな背景がある。
また、議院証言法による偽証罪は、宣誓した証人による虚偽の陳述が対象であり、通常の国会答弁で記憶がないと述べることとは区別しなければならない。
2026年11月現在、「記憶にございません」という言葉を評価するうえで大切なのは、発言の印象ではなく、その説明を裏付ける証拠と、本人が果たした説明責任である。
政治家の言葉をそのまま受け入れるのでも、最初から嘘と決め付けるのでもなく、国会会議録や公的資料を照合する姿勢が、政治を正しく理解するための基本となる。
記事の基準日:2026年11月6日